2. 研 究 史

1st wrote at 1999.10.30 / Last update at 2001.07.07

目次

| 最初の研究 | 刻印に着目した調査・研究 | その他の調査・研究 | 近年の動向 |

最初の研究

 鉄道用レールに関する最初の研究としては、1909年に鉄道院により著わされた『軌條及附属品稱呼ノ件』(達623号)と『軌條及附属品圖』ではないかと思われます。これは、鉄道国有化の波の渦中において、国有化前の各私鉄が勝手がってに採用していたレールの種類を整理・分類したもので、現在の古レール研究においても、貴重な資料となっています。
 その後、レールに関して触れた資料としては、永らく、鉄道会社や鉄鋼会社の記念誌等に記録として記述されているのに留まっていました。これは、その当時、古レールが再利用の対象としてありふれていたり、現役のレールとして利用されて間もない時期であったことも考慮に入れると、ごく自然なことであったとも考えられます。

古レールの刻印に着目した研究・調査

鉄道趣味界へのデビュー

 これを鉄道趣味の世界に最初に紹介したのは、鉄道ファン誌1976年2月号に掲載された臼井茂信氏による『身近な明治の遺産 "ドルトムント"を探そう』でした。ここでは、氏がたまたま発見した<UNION D 1886 N.T.K>という古レールの素性を調べた経過が記述されています。一般には、古レールを紹介した文書とされていますが、何を調べると何がわかるかといった点についても詳しく記されており、古レールの調べ方についても提起されている点は重要です。なお「古レール」という用語は、この記事の中で最初に使われているようです。
写真:UNION D 1886. N.T.K.
これが、ドルトムント(赤羽線十条駅
 これを受けて、古レールの調査事例を提示したものとして、西野保行・淵上龍雄の両氏による『レールの趣味的研究序説〔上〕,〔中〕,〔下〕』が挙げられます。これは、鉄道ピクトリアル誌上で、1977年1月〜3月に連載されたものです。この連載記事では、まず〔上〕において、古レールを研究することへの呼びかけや古レールの見方について概略的に紹介されています。次に〔中〕では、著者らが確認した古レールについて、メーカーごとにその所在地や特徴などについて記述されています。最後に〔下〕では、古レールの発注者に関する推理とともに、〔上〕,〔中〕で踏み込めなかった特記的な事項などが記されています。トータルとして見れば、古レールの研究に関する基礎的事項について網羅されていて、これから古レールを研究する人への案内となっています。

 1977年12月号の鉄道ピクトリアル誌には、両氏の手により、『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』が、が投稿されています。これらでは、『レールの趣味的研究序説〔上〕,〔中〕,〔下〕』の補足や訂正も付記されていますが、新たに発見された『軌条及付属品称呼ノ件』(明治42 (1909) 年7月12日付)に基づき、レールの規格を基に、より突っ込んだ形で古レールを研究する方法について説かれています。今までは趣味的な観察+αに過ぎなかった古レールの調査を、鉄道側の公的な資料からアプローチした点で完成度が高く、もはや「研究序説」を超越してしまっているように思います。

 さらに両氏により、1980年12月号,1981年1月号の鉄道ピクトリアル誌に『レールの趣味的研究序説〔再補・上〕,〔再補・下〕』が投稿されています。これらでは、各製造者や同一銘の発注者などについての考察も加えられており、今後の古レール研究の方向を示唆したものとなっています。

『レールの趣味的研究序説』以降

 次に、『レールの趣味的研究序説』の執筆者の一人である西野保行氏の手による『鉄道史見てある記』が挙げられます。この書籍は、『レールの趣味的研究序説』が最初に公表された7年後の1984年に出版されたもので、レールを研究してみて面白い点や、古レールの調査法などについて、お話しとして平易な文章で簡潔にまとめられており、大変親しみやすいものです。それでいて、要所は押さえられた感があり、『レールの趣味的研究序説』よりも円熟度を感じます。
 1994年に出版された太田幸夫氏による『レールの旅路』は、氏が居住している北海道を中心に15年にわたって調査・収集された古レールの資料を集大成されたもので、各レールメーカーごとの解説などもあり、読みごたえのあるものとなっています。なお、古レールの話題だけで1冊の書籍となっている点でも唯一のものです。
 RAILFAN 1999年8月号の田邊洋夫氏による『新潟県内でも敷設されていた双頭レール』では、新潟県内の過去・現在の双頭レールについて述べるとともに、全国各地の双頭レールに関する経緯や諸氏の成果の再整理が行なわれています。

その他の古レールに関する調査・研究

 今まで紹介してきた古レールに関する調査・研究のほとんどは、その刻印に着目したものでしたが、鉄道史資料保存会が復刻した『軌條及附属品圖』に前文として掲載された小西純一氏による『「鐡道院 軌條及附属品圖 明治42年11月」に寄せて』(1984年)では、日本の鉄道黎明期に各地で使用された様々なレールの断面形状に着目した解説が行なわれており参考になります。
 また『軌條及附属品圖』の復刻により、古レールの研究に関して、断面形状からもアプローチが可能となりました。
 吉川文夫氏を隊長とする鉄道探検隊による『鉄道風景懐古 (I), (II), (III)』(1998,1999,2000年刊)も、特筆すべきものです。この書籍は鉄道施設の一昔前の懐かしい風景を集めた写真集ですが、古レールで作られたホーム上屋や跨線橋などの構造物について、建築様式やデザインの点からアプローチした解説も行なわれています。今後の古レールに関する研究の一方向を示しているように思います。
写真:調布駅の古レール利用のホーム上屋
古レールを曲げてつくられた美しいホーム上屋

最近の動向

 ここ近年は、産業考古学や鉄道廃線ブームにのって、古レールに関して触れたものがいくつか見られるようになりました(JTBキャンブックスなど)が、ごく簡単な解説や記載的な内容となっているケースが多いように思います。
 さて、『レールの趣味的研究序説』が世に出てから、四半世紀が経とうとしています。その後、明らかとなった事項も多数有ります。しかし『レールの趣味的研究序説』以後、統合的な古レールの解説やその情報の再整理は十分に行なわれていないようです。古レールを研究する人のための新たな「教科書」が必要となっているのではないでしょうか。

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