3.2 古レールの刻印の内容1st wrote in 1999.12.17 / last update at 2004.10.23
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古レールの刻印に見られる各事項について整理しました。整理にあたっては、独自の資料のほか、一連の『レールの趣味的研究序説』,『レールの標記を鑑賞する』を参考としました。
以下は、古レールに見られる刻印の例です(北陸本線富山駅,再録)。目次代わりに使ってください。
この例には見られませんでしたが、発注者に関する事項が入っていることがあります。また刻印の文字に見られる特記事項も整理しました。 なお、現在の JIS E 1101;2001『普通レール及び分岐器類用特殊レール』では、「次の事項(筆者註:下表の2行目)を例に示す方法によって」表示することが決められています。
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3.2.1 製造者に関する事項古レールの刻印に見られる製造者に関する事項としては、製造した業者名またはその略号やマークを刻印することが慣例となっています(ただし、JIS E 1101:2001『普通レール及び分岐器類用特殊レール』では入れることが規定されている)。製造業者名は、製造年とともに大抵の古レールに記載されているので、分類・研究の基本項目となります。本サイトでも、製造業者名を軸としたリストを作成してみたいと思います(リストは、「6. 古レールの刻印を解読する」を参考にしてください)。 以下に製造者に関する事項の各項目について解説します。 国名製造者に関する事項として、その所属する国名が明記されていることがあります。カナダの ALGOMA STEEL やアメリカ合衆国の US Steel などに見られます。Bethlehem Steel 社のものにも、ずばり「MADE IN USA」と入ったものもあります。製造業者名製造者に関する事項として、製造業者名だけは大抵のものに刻印されています。製造業者名の表記には、会社であることを示す「CO.」の略号や株式会社であることを示す「LIMITED」(またはその略号)が書き添えられている事例もあります。製造業者名に関してはマークで示されるものがあります。マークは製造業者名の代わりに刻印されているものや併記して刻印されているものがあります。これらについては、「3.5 古レールに見られるマーク類」の製造者名のマークにいくつか紹介してみました。 アメリカ合衆国の US Steel 社製の古レールでは、製造業者名は明記されておらず、工場名のみ刻印されているようです(現在は不明。少なくとも日本で見られる古レールではそのようになっている)。 工場(所在地)名製造業者名にプラスして工場名(またはその所在地名)が略号などで書き添えられていることがあります。アメリカ合衆国の Bethlehem Steel 社製の古レールでは、製造業者名は B.S.CO. という略称のみですが、工場名(工場所在地 ?)だけは略さずに刻印されているようです。 代理店・販売会社名ルクセンブルクのコルメタやアメリカ合衆国の Bethlehem Steel のレールを扱った CONSTECO などは、代理店や販売会社名が刻印の前半部に堂々と表示してあることがあります。これらは製造業者名との区別が困難なこともあります。場合によっては同列に扱っても良いかと思います。(参考:商社名) |
製造業者名の「PROVIDENCE」のほか、製造業者を示す△マークが入っている。
また、工場の場所を示す「R」の文字(△の前の文字)が入っている。 |
3.2.2 レールの種類に関する事項一見、どれも相似形にみえる鉄道用レールの種類(断面形状)ですが、いろいろなタイプのものがあります。 古レールに見られる刻印の中には、レールの単位重量を示した数字が記されていることがありますが、これも広義のレールの種類の表示に当るかと思います。これらの表示方法としては、以下のものがあるようです。
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右の方の「166」(Secは省略されている〉がセクションナンバー |
3.2.3 製造時期に関する事項古レールの刻印に見られる製造時期に関する事項としては、製造年,製造月,ロット番号などが記されています。以下に各項目について解説します。製造年製造年については、一般的には4桁の西暦で記述してあるので、見たとおりかと思います。しかしながら、中には西暦の下2桁しか表示していないものがあります(例はこちら(高崎駅などのもの))。これらについては、数字の小さいものならば、+1900,大きいものならば、+1800することでよろしいかと思います。 このほか、特殊な事例として、製造年が神武皇紀(神武天皇即位からの年数とされている)で入ったものがあります。これは、日本製鉄(八幡製鉄)が、太平洋戦争末期から戦後の混乱期に製造したもので(ちなみに、終戦は西暦1945年8月15日です)、皇紀2601〜2608年製を見ることができます(皇紀の製造年の入った日本製鉄製レール)。その対応は、以下のようになっています。
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日本製鉄(八幡製鉄〉の1948年製と思われるレール。 |
製造月の略号製造月の略号の表示方法については、アラビア数字(普通の数字),ローマ数字,縦棒の本数,マークなどの例があります。また、製造者(製造年代)によっては全く入っていないこともあります。以下に、その例を紹介します。
また、これらの表示のうしろに、月を示す「MO」の略号(またはその意味のロシア語)が書き添えられることがあるようです(例:BARROW STEEL)。 |
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KROLHUTA は、右端の四角マークのヒゲの本数で製造月を示す。 |
ロット番号製品の管理のためでしょうか、ロット番号が刻印されている例がフランス WENDEL 社製のレールなどで見られます。現在の日本のレールでは、いわゆる刻印(ロールマーク)にロット番号は記されていませんが、JIS E 1101:2001『普通レール及び分岐器類用特殊レール』により、刻印(ロールマーク)とは別に製鋼(ロット)番号などを(打)刻印することに決められています(この打刻印は、ペンキが薄く錆も出ていないレールで確認できることがありますが、古レールでは確認できないことが多いので、本ホームページでは研究対象外としています)。 |
後部の「33」がロット番号だそうです。 |
3.2.4 素材に関する事項鉄道用レールは原子番号26番の金属である Fe(和名:鉄)を主成分としていますが、古レールの大半(そうではないものもある)は鋼(通称:鋼鉄)を圧延して製造されます。古レールに見られる刻印の中には、この素材の別や鋼とする手法の違い(製鋼法)が記されていることがあります。以下に各項目について解説します。 材 質日本で使用されたレールの大半は鋼製レールですが、1870年代より前に製造・輸入されたレールに錬鉄と呼ばれる素材製のものがあります。双頭レールでは、後期のものには鋼鉄製もありますが、最初の鉄道開業区間である新橋〜横浜間などに使われたものは錬鉄製だったようです。また平底レール(いわゆるレールの形をしたレール)でも、1870年代製には錬鉄製があるようです。
ちなみに鋼と鎌鉄を見分けるには、成分分析のほか、顕微鏡で観察する方法やグラインダーを当てた時の火花の飛び具合で区別が可能ですが、いずれも熟練が必要だそうです。 |
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社名「BICO」の「I」は「IRON」の意味ですが、
「STEEL」の文字があり、鋼製であることがわかります
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製鋼法そのその製鋼過程(製鋼炉)の違いを示す略号がレールに刻印される例があります。以下に略号の例と製鋼法の名称、その内容を解説します。「鋼のおはなし」によれば、近年の日本では、その他様々な製鋼法が開発・実用化されているようですが、レールの刻印にその記録が残るものは、現役レールも含めて、筆者はまだ見たことがありません。
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先頭に「OH」の略号が入る。古レールの世界では「OH」がメジャーです。 |
3.2.5 発注者に関する事項古レールの刻印に見られる発注者に関する事項としては、発注者名,商社名(ある意味発注者でもある)が記されていることがあります。発注者に関する事項が刻印されている事例は、1910年代より古いものに限られているようです。これは、レールの断面規格の画一化が進んだために、(独自の断面規格を用いていた)鉄道会社ごとにレールを区別する必要が無くなったことが原因ではないかと私は考えています。 以下に、発注者に関する事項の各項目について解説します。 発注者名レールを発注した鉄道会社の名称です。一般的には、発注者名は刻印の末尾に入ることが多いようです。多くは略称ですが、ローマ字でフルに表示されていることもあります。レールの履歴がわかるので、古レールの研究対象とすることができます。本ホームページでは、その手がかりとなるよう、『レールの趣味的研究序説』で報告(推定)されている発注者名(商社名も含む)を「3.4 古レールに見られる発注社名について」で整理しましたので、参考してみてください。 商社名商社は、レールの製造者(製鉄会社)と利用者(鉄道会社)の橋渡し的な役割にあるのではないかと思います。大半のものは発注者そのものなので、刻印の末尾に記されています。これらは、定義的には発注者と区別する必要はないのかもしれません。 (参考:代理店・販売会社名) |
阪鶴鉄道(HANKAKUでわかる〉発注のレール |
3.2.6 その他の事項古レールの刻印に見られるその他の事項としては、矢印,区切り記号などが挙げられます。以下に、各項目について解説します。鋼塊の方向の矢印刻印の最後などに矢印が入っているものが入っているものがあります。JIS E 1101:2001『普通レール及び分岐器類用特殊レール』によれば、「綱塊又は鋳片の頭部方向を示す矢印」として表示しているもののようです。さらに、「鋳片の場合は、鋳片の終端を頭部とする」とのことです。左向きのものがほとんど(新日本製鐵製は右向き)であることから、レールの刻印は圧延されていく方向に向かって左側のローラーから転写されたものが多いことが推測できます。 区切り記号刻印の単語間の区切りとしては、普通に空白を用いたもののほか、「.」ドット(例:「八幡製鉄」系」)や「-」ハイフォン(例:TENNESSEE, WENDEL など)などが見られます。このうち「.」については、省略を意味するピリオドとして使用されることもあるので区別は注意してください。これらは、古レールの塗装が厚い時や錆がひどい場合には読めなくなっているケースが少なくありません。調査の際には、その有無(あるいは読めるかどうか)をしっかり確認する必要があります。 意味不明なマーク何らかの意図を持たせて刻印したことは間違い無いのですが、なまじマークになってしまっているだけに見当が付かないものがあります。「3.5 古レールに見られるマーク類」のその他のマークにいくつか紹介してみました。 |
刻印の末尾(右橋)に矢印,単語間の区切りに「-」が用いられている。 |
3.2.7 特記事項古レールの刻印の内容とは別に、古レールの刻印の文字に見られる特別な事項があります。すなわち、打ち変えとエラー刻印です。これらについて、以下に解説します。裏面打ち官営八幡製鉄所で1920年頃までに製造された一部のレールには、通常の刻印が入っている面の裏面にも刻印が入っているものがあります。ここには、発注者の略号やマークが刻印されています。打ち替え明瞭な例にほとんど出会ったことがないのですが、文字の応急的打ち替えをしたものがあります。『レールの趣味的研究序説〔再補・上〕』では、CAMMELL 製の60ポンド第1種の同一断面のレールに対して、「同一時期にロールされたもので,標記の内容を一部変えればすむものは,刻印機の応急修正をやるらしく」と推定しています。 筆者は、しばしば2種類どちらの文字とも読めそうで、判読に手こずることがあるのですが、これらは打ち替えが行なわれていることが原因かもしれません。 エラー刻印レールの刻印は、圧延時のローラーに鏡文字で彫られたものの転写となっています。そのためか、文字や単語がひっくり返しになっているものが希に見られます。KRUPP に見られる「ИTK」(本当は「NTK」)などが好例です(ただし、これは確信犯的にロシア文字を使用した可能性も指摘されています)。穴古レールにはよく穴が空いています。これは、レール端部でレール同士を締結するためのボルト穴や、ホーム上屋への転用後、何かの器具を取り付けるために開けられたもののようです。いずれにせよ、刻印の途中に穴があった場合、そこの文字は読めませんから、厄介な存在です。 |
↑エラー刻印の例:Nが鏡文字 | エラー刻印の例:"75 A"が
↓ひっくりかえる。1922の22が鏡文字 |
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