4.  古レールの調べ方

4.1  古レールの所在地

1st wrote in 2000.05.08 / Last updated at 2002.10.03

 古レールの調べ方について述べる前に、古レールがどのような場所で見られるかについて整理しておきたいと思います。

 古レールの利用場所については、当然のことながら鉄道施設が一般的です。鉄道施設の利用例としては、ホームの上屋(屋根のこと)や駅跨線橋の支柱,梁(はり)が目立つものかと思います。ぞの他、線路脇やホーム転落防止の柵や構造物の基礎など様々なところに利用されている姿を見ることができます。以下に、これらについての概要を整理しました。 

目  次

| ホーム上屋 | 駅の跨線橋 | 人道跨線橋 | 境界柵 | 現役のレール | その他の鉄道施設 |
| 展示品 | 鉄道施設以外 | その他 |

ホーム上屋

 ホーム上屋の材料として利用される古レールとしては、60ポンド(30kg),75ポンド(37kg)のものが一般的のようです。これらのものが大きさ,重さ,加工易さなどで手頃なのだろうと筆者は推測しています。ふつうは、これらの古レールを2本1組で溶接して使用することが多いようです。溶接は、レールの頭部(踏面)側を溶接して、H字形の鋼材に似た形状とするケースが一般的ですが、底の部分を合わせる例も珍しくはありません。なお、これらを組み上げた屋根の作り方については、鉄道会社や地域により技法の違いがあり、これだけでも研究の対象として十分です。

 ホーム上屋に利用されている古レールの年代は、1960年代前半頃が最も新しいものとなっています。このことから、古レールを再利用してのホーム上屋の建設は1965年頃を最後に行なわれなくなってしまったと推測されます。

 ホーム上屋に利用される古レールは、錆止めや外観上の理由などから塗装されていますが、代々の塗装の重ね塗りや、十分な清掃をしない上での塗装により汚れ(ホコリ,蜘蛛の巣....,蒸気機関車からの燃えカスも含まれるかも?)を巻き込んでしまっているなどの理由から、刻印の判読が困難なものも少なくないです。ただし、これは駅や路線、鉄道会社により差異(当たりハズレ)があります。

 同じホームにおいても、古レールが利用されている箇所や軽量鉄骨が利用されている箇所が混在することが少なくありません。この場合は、古レールが利用されている部分が古くからのホームで、軽量鉄骨が利用されている部分が後の拡張による部分と推測することも可能です(ただし、古レール製であったものが改修されて軽量鉄骨となれば、この推理は成り立たなくなる)。

 駅ホーム上屋の古レールは、高架化や駅の橋上駅舎化等により徐々に失われています。

写真:Y形ホーム上屋 写真:山形ホーム上屋
ホーム上屋の例(京王線調布駅) ホーム上屋の例(東海道本線米原駅)
かさ形,山形,ドーム形,(改行) Y形,V形,W形 の各ホーム上屋のイメージ図
参考:旅客駅ホーム上屋型式(作図資料『鉄道工学』)

駅の跨線橋

 駅の跨線橋の材料として使われる古レールとしては、同じ駅で見ると、ホーム上屋に使われているものより1サイズ以上大きい例が多い様です。一つの跨線橋の中でも、主要な柱はさらに1サイズ大きいものを選んだように使っている事が多く、太さを選んで再利用を行った節があり、興味深いです。また跨線橋での古レールは、一部の例外を除き、どこも似たようなデザインで、ホーム上屋ほどバリエーションは無いようです。
 跨線橋の部材としては、ホーム上屋同様に古レールを2本1組で溶接して柱として利用するほか、単独(1本)の古レールを斜めに渡してトラス構造の補強材として利用されます。

 駅の跨線橋の発展型として、橋上駅舎(改札がホームの上にあって、駅の出入り口が線路の両側にあるタイプの駅)の部材として利用されている例も見られます。

 駅の跨線橋の古レールは、ホーム上屋とともに塗装などの扱いを受けており、今後の命運もホーム上屋とともにありそうです。

写真:駅の跨線橋
駅の跨線橋の例(JR京浜東北線・山手線鶯谷駅)

人道跨線橋

 駅以外の跨線橋のうち、古レールを橋脚に利用した人道橋(一部、乗用車の通行可能なものもあり)が首都圏などを中心に車窓によく認められます。中央東線では甲府駅付近にまで見られる事を確認しています。また、名古屋鉄道沿線でも確認しています。
 人道跨線橋の応用版として、水路橋の橋脚に古レールが使われている例も見られます。

 人道跨線橋の古レールは、橋脚部分は鉄道用地内であり調査不能です。線路脇の跨線橋の階段部分についても、柵内となっていることが多いことから、調査可能なものが少なく残念です。また、人道跨線橋の古レールは未塗装なものが多く、腐蝕(サビ)により、判読が困難となっていることがあります。

 古レールを利用した人道跨線橋は、老朽化しているものも少なくなく、人間や軽車両程度しか通行できないことから、改修により徐々に姿を消していくのではないかと予想されます。

写真:人道跨線橋 写真:人道跨線橋
人道跨線橋の例(東北本線南浦和駅近傍) 人道跨線橋の例(赤羽線池袋〜板橋駅)

境界柵

 鉄道用地の境界を示す境界柵に古レールを利用するレールも散見されます。境界柵の材料として古レールが利用されている例は首都圏に多く、首都圏外では境界柵は枕木の再利用やコンクリート製が一般的です。その他、古レールを利用した柵としては、雪国のなだれ防止柵や、高架鉄道橋の橋脚を道路交差部で自動車の衝突から守るための保護柵の例を確認しています。

 経験的には、境界柵に使われているレールは、ホーム上屋に利用されているものと比べて、新しい年代のものが多いように思います。その中には、頭部に磨耗が全く認められず、新品を流用したのではないかと思われるものも多数あります。

写真:境界柵
境界柵の例(北陸本線直江津駅)

現役のレール

 日本最古の製造年を持つ現役レールは、作者の知る範囲では以下のもので、大井川鉄道千頭駅構内の側線に敷設されているそうです(現況は不明,情報元:@nifty 鉄道フォーラム専門館鉄道歴史談話室その他の古レール情報)。
BARROW STEEL 7MO1882 I R J 166
1885年以前の年代のレールは再利用されて残っているものも数が少ないですから、これを超える古さのものはなかなか無さそうです。

 古い年代のレールが本線に敷設してあることは、JRでは希だと思いますが、地方私鉄などにはタマにあるようです。一方JRなどでも、使用頻度の低い側線に古い年代のものが見られることがあります。上の例も側線のものですし、下の写真も使用停止状態の側線で撮影したものです。

 現役のレールの調査については、大抵の場合は鉄道用地内ですので、許可無く行なうことは謹むべきですが、撮影会など(さらに車両が絶対に動かない前提が必要か?)の際に調査のチャンスがあります。

写真:現役レール(UNION社1907年製)
現役(?)レールの例(北陸本線高月駅貨物側線)

その他の鉄道施設

 その他、盛土部の土留壁の支柱や駅ホームの基礎など、鉄道施設においては様々な場所で古レールを見る事ができます。
写真:ホーム基礎 写真:橋脚保護
ホーム基礎の骨組みに使われている
古レール(名鉄竹鼻線江吉良駅)
橋脚を保護する古レール柵の例
(東北新幹線・埼京線武蔵浦和駅近く)
写真:架線柱 架線柱に使われた古レールの例(秩父鉄道武州中川駅近く)
写真:貯水タンク基礎
貯水タンクの基礎(下部構造)に使われた古レール
(東北本線上野駅)
 

展示品

 古レールの中には、その価値が見出されて、博物館や資料館などで展示されているものがあります。同年同月同銘の古レールがホーム上屋の部材として雨風にさらされていることも少なくなく、展示品のレールは最高級の扱いを受けていると言えるでしょう。
 展示品なだけに、厚い塗装を剥がされており、刻印が明瞭に読めるので非常にありがたいです。ただし、銀色の塗料でピカピカに仕上げられているものが多く、これはちょっと....という気もします。

 その他展示品関連としては、静態保存されている鉄道車両か乗っているレールも要チェックです。おそらく車両が保存される直前まで現役だったレールを使っていると考えられ、ニ重の意味で静態保存と言えるでしょう。

写真:展示品
展示品の例(営団銀座線上野駅)

鉄道施設以外

 一方、鉄道施設から離れたところで、古レールを目撃する例が少なくないのも事実です。鉄道施設同様に、柵に使われていたり、建物に使われていたりするようです。建物の場合、補強材として外側に出ているケースを散見することが出来ます。建物の柱に利用されている例も少なくないのではないかと思いますが、建物の内側に取り込まれているだけに、確認は困難でしょう。
 その他、建設現場で仮設足場等の材料として古レールが利用されているのを、筆者は目撃した事があります。

その他

 その他の事例として、短く切断して金属加工等用の金床や、スライスして文鎮として売られているものもあります。前者としては、刻印入りのものを日曜大工の店で見たことがあります。後者のものは筆者も2枚ほど所有しています。

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