6.2  古レールの刻印を解読する(米合衆国製)

6.2.1  古レールの刻印を解読する(米国諸社製)

1st wrote at 1999.10.09 / Last update at 2006.09.07

 古レールのメーカーごとの解説です。アメリカ(合衆国)のレールメーカーは、当初(1900年頃まで)は小さいメーカーが多数あったものの、1920年頃までにUSスチール (United States Steel)とベスレヘムスチール(Bethlehem Steel)の 2 大系統に合流・合併したようです。ここでは、多数の小メーカーと 2 大系統の傘下となった会社の合流前のものを集めてみました (USスチールとベスレヘムスチールはこちら) 。

 メーカー名(および系列名)の読みとその製造地名については、『レールの趣味的研究序説』,『レールの旅路』や各製鉄会社のウェブサイトを参考にしました。
 『A Nation of Steel, THE MAKING OF MODERN AMERICA, 1865 - 1925』という書籍の一部が、同書の著者である Thomas J. Misa 氏のウェブサイトで見本として公開されており、1870年代の米国の小鉄鋼会社の社名のほか、Bessemer(ベッセマー)製鋼炉の導入年月(≒操業開始時期)や所在地といった情報を多数得ることができました。その内容も以下の解説には反映させています。
 カタカナ表記に関しては、筆者の好みで一部修正した読み方があります。 

 以下の順番は、製造元名のABC順としています。 

| A.& R. I.& S. | CAMBRIA | CARNEGIE ( 〜1901 ) | COLORADO |
| EDGAR THOMSON | ILLINOIS | JOLIET | LACKAWANNA | LORAIN |
| MARYLAND | SCRANTON | TROY | UNION STEEL |
 

オールバニー&レンスラー製鉄会社

(Albany & Rensselaer Iron & Steel Co.)

(水口) A & R.I.& S.CO  TROY.   STEEL   1880 L&W
(彦根-鳥居本) A & R I & S CO TROY  STEEL 1880 CP
(本揖斐),(知立) A & RI.& S.CO  TROY   STEEL   1876
会社名: Albany & Rensselaer Iron & Steel Co.(オールバニー&レンスラー製鉄会社)
所在国: アメリカ合衆国ニューヨーク州
所在地: Troy(トロイ,ニューヨークの北方200km, ハドソン川沿い)
略沿革:
  • 1989年に閉鎖 ?。
  • 1885年に "Troy Iron & Steel Co." に再編。
  • 1875年に "Albany Iron (Works) Company" と "Rensselaer Iron (Works) Company" (RIC) の合併により設立。
  •  オールバニー&レンスラー鉄鋼会社トロイ製鉄所製。TROY STEEL とは別の会社であったようです。
     『レールの趣味的研究序説〔中〕』によれば、この会社の1880年製のレールが大井川鉄道の千頭鉄道資料館に展示されているとのことです。また、当サイトの読者様から、同じ1880年製レールが大井川鉄道の線路で脱線ガードレールとして使われているとの情報も頂いています。

     A&R社の略沿革は、Don Ritter 氏の "Heritage on the Hudson" というウェブサイトを参考にしました。合併もとの "Rensselaer Iron (Works) Company" は、米国で最も早い時期にベッセマー転炉を設置した製鉄会社でした。製鉄業の中心地が五大湖沿岸に移るまでは、"Rensselaer Iron" 社を含めて Troy 近郊が米国随一の製鉄地帯となっていたようです。

    A & RI.& S.CO TROY STEEL 1876
    名鉄名古屋本線 知立駅(135度回転)

    カンブリア製鋼会社(CAMBRIA STEEL Co.)

    (熱田) CAMBRIA 60 L?? NO 533  ASCE  1919   XII   ??
    (米原),(田村),(長浜) CAMBRIA- 60 LBS -NO 533  A.S.C.E.- 1919   VII OH
    (小浜),(木ノ本),(国立) CAMBRIA-60LBS-NO5?5-ASCE-191?【遮蔽】
    (松本) CAMBRIA  60LBS NO 633  ASCE  1913    VII
    (篠ノ井) CAMBRIA【不明瞭】1910
    (西大路),(篠ノ井) CAMBRIA 60LBS No【不明瞭】
    (所沢) CAMBRIA 1917         TYPE IIIA
    (千平) CAMBRIA  STEEL  80  IIIIIIIIII
    (豊橋) CAMBRIA STEEL.  75  IIIIIIIIII
    会社名: CAMBRIA STEEL Co.(カンブリア鉄鋼会社)
    所在国: アメリカ合衆国ペンシルバニア州
    所在地: Johnstown(ジョーンズタウン,ピッツバーグの東方)
    略沿革:
  • 1923年より Bethlehem Steel 傘下。
  • 時期不明、"Cambria Iron Co." から、"Cambria Steel Co." に社名変更。
  • 1871年7月に Bessemer 転炉使用開始。
  • 1848年に設立。
  •  アメリカのカンブリア社製。カンブリアというのは郡名だそうです。
     私が確認している CAMBRIA は、1923年以前の "B.S.CO." の文字も入っていないものばかりですので、すべて独立会社時代のもののようです。
     文字が小さめであることに加えて、彫り(浮き上がり)が浅いので難読です。北陸本線田村駅に保存状態の良いレールが多数あり、単語間に "-" があるらしいことや、最後に "OH" の略号が入っていること、一連の刻印の最後尾と先頭の中間位置に、「」マークが TENNESSEE の工マーク並みの厚みで刻印されていることが判明しました。"NO"のあとの3桁の数字は、"633"とも"533"とも読めます。北陸本線長浜駅のレールから"533"の可能性が高いようです。

     所沢のものは、『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』にあるロシヤの「東支鉄道のTYPE IIIA といわれる背の高い 67.5 ポンドレール」のようです。
     豊橋のものは、名鉄に特有な1870年代製のレールです。後のものと字体が異なっており、ここで扱って良いかどうかについては、疑問も少々感じています。

     略沿革は、"Johnstown Redevelopment Authority" のウェブサイトにある "Lower Cambria Works" のページや、いくつかのページの断片的な情報を参考としました。

    CAMBRIA-60 LBS-NO 533 A.S.C.E.-1919     VII     OH
    北陸本線田村駅(90度回転)

    カーネギー製鋼会社 (CARNEGIE STEEL Co.) その1 (〜1901)

    刻 印 の 例 同形月違い
    (関ヶ原) CARNEGIE . 1900 . E T . 45   IIIIIII.   H.G.R.  
    (下関) CARNEGIE 1900 ET IIIIIII (下関)
    (大町),(千里丘), と↓ CARNEGIE . 1900 . E T . IIIII. (守山),(田村),
    (大垣),(原),
    (塩山),(国立),
    (足利),(幌延),
    (椎名町)
    (西大路),(守山),(石部),(田村),(熱田),(松本),(篠ノ井),
    (東十条),(王子),(武州原谷)
    (長浜),(小淵沢), と↓ CARNEGIE  1900  ET  I    工
    (高尾),(武州原谷)
    不完全 →  (蘇原),(小出)
    (近江今津@江若) CARNEGIE . 1898 .ET . II .  
    (篠原) CARNEGIE . 1897 ET. IIIIIIIIIIII  NANKAI  
    (寄居@秩鉄), と↓ CARNEGIE  1897  E T  IIIIIIIII  TOBU (寄居@秩鉄)
    (館林),(佐野@東武),(西新井),(業平橋)
    (寄居@秩鉄), と↓ CARNEGIE  1897  E T  IIIIIIII  TOBU
    (佐野@東武),(北大宮),(上福岡),(東武練馬)
    (新岐阜) CARNEGIE.1897.ET.IIIIII (福知山), と↓
      (塩山),(新岐阜),(知立),(長沼),(熱海駅前)
    (東淀川),(西小坂井) CARNEGIE  1897  ET  II   HASE  
    (飛騨古川) CARNEGIE  1896  IIIIIIIIIIII  I R J  
    (富山2) CARNEGIE 1896 IIIIIIII HANKAKU  
    (大町),(小野田), と↓ CARNEGIE . 96 . IIIIIIII . S.T.K (長浜), と↓
    (新所原),(鶯谷),(下仁田),(武州原谷) (鶯谷),(高崎),(朝日野),(下仁田),(馬庭)
    (篠原),(稲枝),(朝日野) CARNEGIE STEEL CO L T D ET  96 IIIIIIII  NANKAI  
    (寄居@秩鉄) CARNEGIE   STEEL  CO  L  T  D  E  T  96 IIIIII (三峰口)
    会社名: CARNEGIE STEEL Co.(カーネギー鉄鋼会社)
    所在国: アメリカ合衆国ペンシルバニア州
    所在地: Braddock(ピッツバーグ市内 / 郊外?)
    略沿革:
  • 1901年5月25日に創業者のアンドリュー・カーネギーが事業を譲渡し、"United States Steel" の小会社の Carnegie Steel となる。
  • 1880〜1890年頃に "Edgar Thomson Steel" 社より改称。
  •  CARNEGIE STEEL は何ヶ所かに製鋼工場があったようです。しかし、大半のレールに「エドガー・トムソン工場」製を示す「ET」の略号が入っていることから(1896年製のものの一部には省略)、レールの製造はエドガー・トムソン工場のみで行なわれていたと推測します。

     この時期の CARNEGIE には、発注者名が入っているケースの多く、発注者名としては、年代の新しいもの(上)から、北海道官設鉄道 (HGR)官鉄(IRJ),南海鉄道(NANKAI)東武鉄道 (TOBU)長谷 (奈良) 鉄道 (HASE)阪鶴鉄道(HANKAKU)山陽鉄道(STK)などが見られます。
     レールの断面規格が刻印されることは希なようですが、一部(HGR発注の1900年製)に認められる(45ポンドレールを示す)ようです。

    CARNEGIE 1896 IIIIIIIII HANKAKU
    北陸本線富山駅(35度回転)

    コロラド石油・鉄鋼会社 (COLORADO Fuel & Iron Co.)

    刻 印 の 例 同形月違い
    (篠ノ井) COLORADO SEC【不明瞭】 1920 OH  
    (岡谷)      【不明瞭】753  ??  1918【不明瞭】  
    (菊川),(沼津),(長野) COLORADO   SEC   753  V   1917   OH (木ノ本),(草津),(三河三谷)
    (松本) COLORADO  SEC  603  IV  1910   OH  
      ?OLORADO 【遮蔽物】  
    (長野),(十文字) COLORADO  SEC  753  IXI II  1917  OH  
    (新山口) COLORADO SEC 753 IXI II 1915 OH (沼津)
    会社名: COLORADO Fuel & Iron Co.(コロラド石油・鉄鋼会社)
    CF&I はその略表記
    所在国: アメリカ合衆国コロラド州
    所在地: Puebro(プエブロ)
    略沿革:
  • 1993年に "Oregon Steel Mills" により買収される。現在は同社の "Rockey Mountain Steel Mills" に所属し、レール圧延も行なわれている。
  • 1882年4月よりレールの圧延開始。
  • 1872年設立?。
  •  米国の製鉄会社としては珍しく、"United States Steel" にも "Bethlehem Steel" にも吸収されないで操業を続けていましたが、"Oregon Steel Mills"(そのウェブサイト)に買収されています。CF&I 社に関する資料は、"Bessemer Historical Society"(そのウェブサイト)が買い取って所有しているようです。

     刻印の文字が丸みを帯びた大型のものであることが特徴的です。「SEC 753」の部分は、字体の関係で「SEC /53」と見えることが多いようです。製造月と思われる部分にしばしば見られる「IXI」が謎です。「II」に×をしたのか、10-1+1=10なのか、よくわかりません。何かを意味する記号かもしれません。・/td>

    COLORADO   SEC   753   IXI II   1915    OH
    山陽本線 新山口駅(90度回転)

    エドガー・トムソン製鋼社(EDGAR THOMSON STEEL)

    (豊橋) E. THOMSON. STEEL  76 IIIIIIII
    会社名: EDGAR THOMSON STEEL(エドガー・トムソン製鋼会社)
    所在国: アメリカ合衆国ペンシルバニア州
    所在地: Braddock(ピッツバーグ市内 / 郊外?)
    略沿革:
  • 1880〜1890年頃に "Carnegie Steel Co." 社と改称。
  • 1875年8月に Bessemer 転炉使用開始。
  • 1875年操業開始 (アンドリュー・カーネギーが設立 ?) 。
  •  鉄鋼王アンドリューカーネギーが設立した製鉄会社。エドガー・トムソンはペンシルバニア鉄道の当時の社長の名前で、同鉄道に高品質のレールを供給しようとしたのが設立理由だったようです。
     後の "Carnegie Steel Co." や "United States Steel" も含めて、現在までエドガー・トムソン工場の名称が生き残っているようです(US Steel のウェブサイトの Edgar Thomson Plant のページより)。それを示す「ET」の刻印も United States Steel の小会社となった後もレールに刻印されていました。

    E. THOMSON STEEL76 IIIIIIII
    名鉄名古屋本線 豊橋駅(130度回転)

    イリノイ製鋼会社(ILLINOIS STEEL Co.)

    刻 印 の 例 月違い
    (富山2) 6015 I S. Co SOUTH WKS X 189? HANKAKU  
    (下関),(守山) 6015 ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS ? 1898 HANKAKU
    (富山2),(福知山) 6015 ILLINOIS STEELCo SOUTH WKS  X  1897  HANKAKU
    同上不完全 → 
    (大磯)  
    (篠ノ井) 6009 ILLINOIS STEEL Co SOUTH W K S ? 1908 IRJ ←1898年製 ?
    (篠ノ井) 6009 ILLINOIS STEEL Co SOUTH W K S II 1901 IRJ  
    (三河内) 6009 ILLINOIS STEELCo SOUTH WKS  II  190?  I R J (小淵沢)
    (田村),(熱田) 6009 ILLINOIS STEELCo SOUTH WKS XII 1900  IRJ (亀崎),(半田)
    (大町) 6009 ???INOIS STEELCo SOUTH W??  XII  1900  I R G  
    (富山1), と↓ 6009 ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS V 1898 I.R.J (笠岡), と↓
    (大垣),(飛騨古川),(篠ノ井),
    (酒折),(南蛇井),(豊島園)
    (千里丘),(西大路),(敦賀),(下呂),(中川辺),
    (塩山),(国立),(武蔵小金井),(鶯谷),(西泉)
    (岡谷), と↓ 6009 ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS XII 1897 IRJ (西大路)
    (岡谷),(石和温泉),(塩山),(武蔵境),(東十条),(西泉)  
    同上不完全 →  (大磯),(鶯谷),(上野),(高尾),(武蔵小金井),(飯田橋)  
    (近江今津@江若) 6001 ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS  I  1895  
    製造年月不明 →  (若狭高浜)  
    (笠岡) /X\  6007  ILLINOIS STEEL Co S??U?? 【遮蔽】1900  
    (武州日野) 5040-ILLINOISUSA-S  ??  -191?  
    (近江八幡) 5005  ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS  I  1898 TOKUSHIMA
    (下赤塚) 5005  I S Co SOUTH  IV  18【以下不明瞭】  
    (琴電琴平) ILLINOIS STEEL CO JOLIET WORKS  1890  VII  
    会社名: ILLINOIS STEEL Co.(イリノイ製鋼会社)
    所在国: アメリカ合衆国イリノイ州
    所在地: Chicago(シカゴ)南方、Calumet 川河口付近など
    略沿革:
  • 1901年に "United States Steel" 小会社の "Illinois Steel" となる。
  • 1898年に "Federal Steel"(フェラデル製鋼会社)と改名される。
  • 1889年に "N.C.R.M." は、"Union Steel" と合併し、"Joliet Iron and Steel" を買収して、"Illinois Steel" を設立。
  • 1882年に、南工場の母体となる "North Chicago Rolling(Rail) Mill Co." (N.C.R.M.) の工場完成(元々はシカゴ北方のウィスコンシン州ミルウォーキー在の会社であったため、"North Chicago ..." と称したようである)。この年、 Bessemer 転炉も導入(同時 ?)。
  •  『レールの趣味的研究序説〔中〕』には、「シカゴ北工場と南工場.のちにゲーリー工場があった.工場名はたんねんに記入されている」とあります。私の見たレールでは"SOUTH WKS" こと南工場が主で、北工場と入っているものは未確認です。
     インターネットでいろいろ調べた結果、北工場は1880年以前に Chicago 川の河口付近に所在していたらしいことがわかりましたが、その他の情報は今一つはっきりしません。
     琴電琴平では、"JOLIET WORKS" と刻印されたレールを確認していますが、略沿革の "Joliet Iron and Steel" の買収を裏付けるレールということでしょう。

     富山2下赤塚で確認したレールの中には、「I S」としか入っていないものもありますが、後ろの記述の類似性から、「ILLINOIS STEEL」の略と判定しました。
     しばしば発注者名が刻印されているケースがあり、発注者名としては、年代の新しいもの(上)から、阪鶴鉄道 (HANKAKU)官鉄 (IRJ)徳島鉄道 (TOKUSHIMA) が見られます。

     なお、US スチールがレールの断面規格を表わすのに使用している(ふつう)4桁のコードナンバーは、この ILLINOIS STEEL のものが継承されたようです。このうち、6009 は60ポンド第2種,6015は60ポンド第9種(=60ポンド第5種)の断面規格のようです。6001は60ポンド第2種に近似した断面でした。6007は未計測のため不明です。

     略沿革は、James R. Alexander 博士の "zanderpage" というウェブサイトにあるページやルーズベルト大学(Roosevelt University)のウェブサイトのページを参考に整理しました。

    6015 ILLINOIS STEEL Co SOUTH WKS  X  1897  HANKAKU
    ↑山陰本線福知山駅(90度回転),南工場製
    ILLINOIS STEEL CO JOLIET WORKS  1890  V【穴】
    ↑琴電琴平線 琴電琴平駅(170度回転),JOLIET工場製

    ジョリエット製鉄社(JOLIET Iron and Steel)

    (千平) JOLIET  1888  X
    (知立) JOLIET  1886 VI
    会社名: JOLIET Iron and Steel(ジョリエット製鉄社)
    所在国: アメリカ合衆国イリノイ州
    所在地: Joliet(ジョリエット,シカゴの南西)
    略沿革:
  • 1930年代に閉鎖される。
  • 1889年に "Illinois Steel Co," 形成時に買収され、最終的に "United States Steel" へ合流。
  • 1875年8月より Bessemer 転炉を使用開始。
  • 1869年に "Union Coal, Iron and Transportation Co." として創立。
  •  『レールの趣味的研究序説〔中〕』では、ジョリエット在の鉄鋼所が、US スチール の工場となっていることから、その前身の可能性を指摘していましたが、"Illinois Steel Co," 形成時に買収されたことが略歴の通り判明しています。

     その略歴は、"Canal Corridder Association" のウェブサイトのページやルーズベルト大学(Roosevelt University)のウェブサイトのページを参考に整理しました。

    JOLIET1886. VII
    名鉄名古屋本線 知立駅(90度回転)
    ,

    ラッカワンナ鉄鋼会社(LACKAWANNA Iron & Steel Co.)

    刻 印 の 例 月違い
    (加賀笠間),(富山K) OH LACKAWANNA 750 12 1921  
    (幸田) LACKAWANNA 750  10  19?1  
    (調布) 工 LACKAWANNA 600  7 1919 (彦根),(国立), と↓
    (武蔵境),(武蔵小金井),(蓮田),(白久),(影森)
    (富山1) 工  OH LACKAWANNA 600  【以下、読めず】
    (近江長岡) 工 LACKAWANNA 600  6  1910  
    (伊賀上野) OH LACKAWANNA 600 8 1921  
    (富山5) LA【地面】 【天井】9  1913  
    (富山2) LACKAWANNA 600   8  1913  
    (上福岡) OH ???KAWANN? 【以下読めず】  
    (所沢) ? Ж ?   III A LACKAWANNA  【以下切断】
    (関ヶ原) LS  Co  BU【穴】FALO  600   3   1907
    (伊賀上野@近鉄) LACKA I & C Co SCRANTON 2 91  
    (彦根-鳥居本) LACKA I  &  C  Co SCRANTON 11 84  
    会社名: LACKAWANNA Iron & Steel Co.(ラッカワンナ鉄鋼会社)
    所在国: アメリカ合衆国 ニューヨーク州 および ペンシルバニア州
    所在地:
  • Buffalo(バッファロー,ニューヨーク州,エリー湖出口付近)
  • Scranton(スクラントン,ペンシルバニア州ラッカワンナ郡)
  • 略沿革:
  • 1922年より、Bethlehem Steel の傘下の LACKAWANNA
  • 1902年に Scranton から撤退 ?。本拠地は Buffalo に。
  • 1981年に Buffalo 工場の前身(?)として "Buffalo and Susquehanna Iron Co." 設立。
  • 1890年頃(遅くとも1891年)までは、"LACKAWANNA Iron & Coal Co." と称した ?
  • 1875年10月に Bessemer 転炉使用開始。
  • 1840年に Scranton 工場の前身(?)として、"Scranton, Grant & Co." 設立。
  •  アメリカのラッカワンナ製。ここでは、Bethlehem Steel 合流前の単独会社時代のものを扱います。
     
     所沢のものは、ロシア文字(? Ж ?、КЖДのはずである)が入っており、TYPE IIIAというロシアの東支鉄道向けの規格です。

     略沿革は、"Buffalo Architecture and History" というウェブサイトと "Anthracite Heritage Museum & Iron Furnaces" のウェブサイトのページの記述が参考になりました。それによると、1902年に本拠地が Buffalo に移動したようです。その関係でしょうか、1910年頃まで Scranton と Buffalo の工場の別が刻印に入っています。

     前者の例は、近鉄の伊賀上野 で確認した刻印が該当すると考えられます。この SCRANTON 工場は、同じ町にあった SCRANTON STEEL とは別の会社であったようで、刻印にも上記の様に区別がなされていたようです(『レールの趣味的研究序説〔中〕』より)。SCRANTON という地名はペンシルバニア州東部に見られます。

     後者の例は、関ヶ原 で確認した刻印が該当すると考えられます。ラッカワンナ郡に続く鉱工業地帯の地名のようです(『レールの趣味的研究序説〔中〕』より)。『レールの趣味的研究序説〔中〕』などでは、この刻印の先頭を "BS Co" と読んで Bethlehem Steel としていますが、合流する年代(1922年)と矛盾が見られることから(1908年製)、 Lackawanna Steel の略とした方が妥当なようです。

    工LACKAWANNA 600 7 1919
    ↑ 京王電鉄調布駅(180度回転) 東海道本線 関ヶ原駅(90度回転)↓
    LS Co BU【穴】FALO  600  3  19【写真切れ】

    ローレン製鋼社(LORAIN STEEL Co.

    (塩山),(高尾) 279 LORAIN STEEL CO. LO???? O ???? IIIIII  KTK
    会社名: LORAIN STEEL Co.
    所在国: アメリカ合衆国オハイオ州
    所在地: Lorain(クリーブランド西方で、エリー湖岸の都市名)
    略沿革:
  • 1901年4月1日より "United States Steel" の小会社の一つとなる。 
  • 1899年12月1日に Johnson Company より改称。
  • 1895年2月、Johnstown にあった"Johnson Steel Street Rail Company"が移転。
  •  United Steel の小会社となった後は、日本での路面電車用溝付きレールの生産・輸入元となっている Lorain Steel ですが、単独会社時代には普通レールの圧延も行っていたようです。

     筆者が確認したのは不明瞭な刻印のレールのみですが、『レールの趣味的研究序説〔中〕』によると、中央線沿線に多いこのレールには、以下に示す内容が刻印されているようです。

    279 LORAIN STEEL CO. LORAIN O 1900 IIIIII KTK
     略沿革は、"Lorain Public Library System" のウェブサイトのページや U.S. Steel のウェブサイトの "Lorain Tubular Division" のページ,James R. Alexander 博士の "zanderpage" というウェブサイトのページを参考としました。
    279 LORAIN STEEL CO. LO???? O ???? IIIIII  KTK
    中央東線 塩山駅(90度回転)

    メリーランド製鋼社(MARYLAND Steel)

    刻 印 の 例 同形月違い
    (佐原),(浦和),(東十条),(上野),(武蔵境) 6 MARYLAND XII  03 NTK  
    (長浜),(木ノ本),(蘇原),(国立) 244 MARYLAND  IIIIIII  07  
    (武州日野),(影森構外),(熊谷) 129 MARYLAND IIIIII 1900  
    (下関)       ?ARYLAND III 1900  
    (日田) ?44 MARYLAND  III  190?  
    会社名: MARYLAND Steel(メリーランド製鋼社)
    所在国: アメリカ合衆国メリーランド州
    所在地: Sparrows Point
    略沿革:
  • 1916年より、Bethlehem Steel 社の傘下の MARYLAND
  • 1889年設立。
  •  MARYLAND 製。ここでは Bethlehem Steel 合流前の単独会社時代のものを扱います。

     京浜東北線の浦和や東十条で見られるものは、製造者名の前に「6」あるいは「G」と読める文字が付いています。どちらかは判然としないのですが、これらは60ポンド第2種レールであり、それを示す「6」ではないかと思います。

     略沿革は、船舶に関する "Maritime Business Strategies" というウェブサイトに Maryland Steel に関するまとまった記述がありました。

    6 MARYLAND XII 03 NTK
    東北本線(京浜東北線)東十条駅

    スクラントン・スチール(SCRANTON STEEL Co.)

    (本揖斐) SCRANTON STEEL CO 12v88
    会社名: SCRANTON STEEL Co.(スクラントン製鉄社)
    所在国: アメリカ合衆国ペンシルバニア州
    所在地: Scranton(スクラントン,ラッカワンナ郡の町名)
    略沿革:
  • 1848〜1857年の間に設立。
  •  LACKAWANNA にも Scranton の地名が入ったものがありますが、この SCRANTON STEEL とは別の会社だそうです。実際、年代の近い1986年(Lackawanna Scranton)と1888年(Scranton)のレールで刻印の内容が異なっており、この考え方は妥当と考えます。Scranton というのは、米国の鉄道の街だという話を聞いたことがあるような気がします。

     『レールの趣味的研究序説〔中〕』によれば「名鉄本揖斐に所在」 (現在廃止済みだが、建物は残存らしい) とあり、正にそのレールのようですが、刻印の最後の部分は「1888」と記述されています。私には「12v88」と読めます。

     インターネットで調べた限りでは、Scranton に製鉄所があった事実は多数確認できるものの、"Lackawanna Steel Scranton" と "Scranton Steel" の区別がはっきりしないサイトが多く(別の会社だったらしいサイトも見つかったが)、有力な情報は得られていません。

    SCRANTON STEEL CO 12^88
    名鉄揖斐線 本揖斐駅(90度回転)

    トロイ・スチール(TROY STEEL)

    (知立) TROY 1876 STEEL
    会社名: TROY STEEL(トロイ鉄鋼会社)
    所在国: アメリカ合衆国ニューヨーク州
    所在地: Troy(トロイ,ニューヨークの北方200km,ハドソン川沿い)
    略沿革: ?

     TROY は、古くは製鉄都市であったようです。同じ町にあったと思われるオールバニー&レンスラー鉄鋼会社トロイ製鉄所のレールにも TROY STEEL と入っていますが、別の会社と見るようです。
     知立のものは、非常に不明瞭で、か細い文字だったので、見間違えている可能性も否めないですが、オールバニー&レンスラー鉄鋼会社トロイ製鉄所とは刻印の内容や順序が異なっており、別の会社のレールの可能性が高いと判断しました。

     『レールの趣味的研究序説〔中〕』では、TROY STEEL 社のレールとして、以下の刻印が紹介されています。上に挙げたものと並びが異なっているので紹介しておきます。

    TROY STEEL 1875 CPBC
     インターネットで調べたオールバニー&レンスラー鉄鋼会社の略沿革からすると、同社が "Troy Iron & Steel Co." を名乗るのは1885年以降ですから、上記レールをオールバニー&レンスラー鉄鋼会社に関連ありとするのは無理があるようです。また、インターネットで調べた限りでは、こちらの TROY STEEL に関する有力な情報は得られていません。

    ユニオン製鋼社(Union Steel Company)

    (伊賀上野@近鉄) UNION STEEL Co.XI.86
    会社名: Union Steel Company(ユニオン製鋼社)
    所在国: アメリカ合衆国,イリノイ州 (Union Iron)
    所在地: South Chicago (Union Iron)
    略沿革:
  • 1889年に "N.C.R.M." と合併し、"Joliet Iron and Steel" を買収して、"Illinois Steel" を設立。
  • Union Steel Company と Union Iron Mills の関係は不明。
  • Union Iron Mills("Cleveland Rolling Mill" と同一の経営者であった)は、1871年7月に Bessemer 転炉を導入。
  •  ドイツのドルトムント・ウニオン(UNION D)とは、全く別の会社です。1880年代の UNION D 製のレールで "D" の文字を入れているのは、この会社と区別したためかもしれません。現在も含め、Union Steel を名乗る企業が歴史上に多数存在しているようで、紛らわしいです。

     略歴は、James R. Alexander 博士の "zanderpage" というウェブサイトにあるページやルーズベルト大学(Roosevelt University)のウェブサイトのページを参考に整理しました。

    UNION STEEL Co.XI.88
    近鉄伊賀線 伊賀上野駅(90度回転)

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