6.1 古レールの刻印を解読する(欧州製)6.1.1 古レールの刻印を解読する(英国製) |
first wrote in 1999.10.09 / Last Edited in 2006.09.14 |
古レールのメーカーごとの解説です。ここでは、英国製のレールを集めてみました。メーカー名のカタカナ表記、その国名(および生産地名)などの情報は、『レールの趣味的研究序説』,『レールの旅路』やインターネットのウェブページなどを参考にしました。なおカタカナ表記に関しては、筆者の好みで一部修正した読み方があります。
日本の鉄道で初期に使われたのは、英国製(+ドイツ製)のレールで、英国御三家とも言える、BARROW,BV&Co,CAMMELL を中心に現在も多数がホーム上屋の支柱などとして余生を送っています。 かつてのレールメーカーの多くは、英国では国営企業(のちに民営化)の "British Steel" に合流したようです。British Steel は、その後の企業合併により、現在は "Corus Group" となっています(参考:Workington)。 以下の順番は、製造元名のABC順としています。 | BARROW | BLAENAVON | BV | CAMMELL ( 〜1890 , 1891〜 ) | CFI | |
バーロウ赤鉄鉱製鋼株式会社(BARROW HEMATITE STEEL)
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パーロウ・ヘマタイト・スチール社製レールは、『レールの趣味的研究序説〔中〕』によれば、「1880年代から1900年代にかけて、大量に輸入され」ているとのこと。なお、ヘマタイトとは赤鉄鉱(要するに酸化鉄)の意味です。
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赤羽線(埼京線)十条駅(10度回転) |
ブレナボン鉄鋼所(BLAENAVON)
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ブレナボンは、南ウェールズにあったとされています。
ちなみに『レールの旅路』では、北海道最初の鉄道である幌内鉄道(手宮〜幌内)のうち手宮〜札幌(1880.11.28開業)間で使われたレールは、アメリカ経由でイギリスから輸入された30ポンド錬鉄製レール(レール長は
24 feet)であったとの追跡調査の成果が紹介されています。しかし、このレールのその後の消息は不明としています。
"The Heritage Trail Home Page" というウェブサイトの中に、すっかり産業遺産と化した Blaenavon の鉄工場の紹介があります。 |
中央西線某駅近傍(90度回転) |
ボルコウ・ボーン株式会社(Bolckow, Vaughan & Co.)
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断面形状は刻印内容には未表示ですが、私が見たレールについては、1890年代の
"CO LD" と下付きのレールが60ポンド第1種,1900〜1910年頃の
"COLD" が上付きのレールが60ポンド第2種となっているようです。
刻印の末尾に見られる発注社名のうち N.T.K. については、関東以北の古レールは日本鉄道で間違いなさそうですが、京阪神の鉄道会社はNで始まる鉄道会社が多かったことから判然としないようです。その他、中国鉄道(C.T.K),北海道鉄道(H.T.R),北越鉄道(H.Y.T),関西鉄道 ?(KR, K.T.K),成田鉄道 (NARITA),官鉄(I.J.R, I.R.J)の発注品見られます。 浅間神社(東京江東区)に屋外展示されているレールは溝付きレールです。1930年というのは、普通レールの輸入が終わってからの年代なのですが、特殊なレールのため輸入が続けられていたようです。このレールの製造期はドローマン・ロング社との合併前後であるためか、刻印の内容が他の BV 製と異なっています。 "Bolckow, Vaughan & Co. Ld." に関する若干の情報は、"North East England History Pages" というウェブサイトの Middlesbrough の歴史を紹介したページにありました。Vaughan 氏は、Middlesbrough の市長でもあったようです。 |
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↑ 宗谷本線 幌延駅(90度回転) | |
↑ 東京都江東区浅間神社(手前柵を写真合成により消去,"JV"は、"W"の誤り) |
チャーリーズ=キャンメル社(CAMMELL)その2 (1891〜)
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ここでは、刻印がシンプルとなる 1891年以降のレールをまとめました。
発注者名が刻印されている例が多く、それぞれ、日本鉄道(N.T.K),成田鉄道(NARITA),紀和鉄道(KIWA),総武鉄道(S.T.K),北海道官設鉄道(H.R.),山陽鉄道(S.T.K),発注品のようです。 東十条,鶯谷と十条の1902年製のレールは、いずれも刻印の先頭部分が薄いため、製造者が不明です。ただし、"STEEL W" となんとなく読めるレールがあることや、字体の雰囲気から、とりあえず CAMMELL と推定しています。 会社の沿革は、インターネットの検索エンジンを利用しても、これぞと言う情報は情報は見つけることはできませんでした。Sheffield は、British Steel(現:Corus Group,参考:Workington)の中心地の一つとなっているそうなので、Cammell Steel は、British Steel に吸収された可能性が高そうです。 |
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近江鉄道八日市線 近江八幡駅近傍(90度回転) |
チャーリーズ=キャンメル社(CAMMELL)その1 (〜1890)
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キャンメル社製のうち、1890年以前のレール。この時代の刻印は非常に長いのが特徴的で、全長1.5m程度ある刻印もあります。また 1880〜82年頃の刻印は、前後がベタに繋がってどこが先頭か解らないようなレールもあります。 年代の古いレールの刻印には、商品名の "TOUGHENED STEEL" 「強化鉄」が入っているようです(『レールの趣味的研究序説〔中〕』)。また、地名の SHEFFIELD については、古い年代のレールの刻印は SHEFFIELD が完全形で、その後は省略されて頭文字の表示となるようです。 発注者名が刻印されている例が多く、それぞれ、官鉄(I.J.R)のほか、総武鉄道(S.T.K),関西鉄道(K.T.K),大阪鉄道(O.T.K)発注品のようです。 なお "WILSON & CAMMELL" という、よく似た刻印のレールも有ります(ただし、絶対数は少ない)ので、この "CAMMELL" と区別して見る必要が有ります。 |
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伊東線 来宮駅(90度回転) |
カーゴ・フリート株式会社(Cargo Fleet & Iron Co.)
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元々は造船会社であったという。C.F.&
I.(Colorad Fuel & Iron Co.)と類似の略称となるため、注意が必要。
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京阪石山坂本線 中ノ庄駅(170度回転) |
ダーリントン鉄鋼株式会社(DARLINGTON IRON)
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ダーリントン・アイアンは、1872年に株式会社となったとのことで、以降は刻印にも「LIMTD」の文字が入るようになるのだそうです。
1970年代のダーリントン製レールとキャンメル製レールについては、『レールの趣味的研究序説〔再補・上〕』の「錬鉄製レールと双頭レール」の項に詳しく述べられています。これらのメーカーの平底レールは、伊東線来宮・網代のホーム等の他で見られるとのことで、上記リストのレールは、まさにそれにあたります。また、その文章では、これらの平底レールが1877年に全通した大阪−京都間で使用されたレールに対応すると指摘しています。一方、笠岡や摂津富田の双頭レールは、日本最初の営業鉄道である新橋−横浜間で使用された錬鉄製双頭レールのようです。
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↑中央東線 小淵沢駅(15度回転) | ↓東海道本線 摂津富田駅(仰角90度,合成) |
ドーマンロング社(Dorman Long Company)
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『レールの趣味的研究序説〔再補・下〕』にもありますが、室蘭の日本製鋼所が構内鉄道用に発注したレールが上信電鉄の架線柱に利用されており、馬庭で確認しています。同製鋼所発注の1908年製のレールを、室蘭本線岩見沢駅第2ホームで見つけたことが『レールの旅路』でも、報告されています。
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上州電鉄 馬庭駅(90度回転) |
ダウレイス製鋼(DOWLAIS)
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ダウレイス・スチールは南ウェールズの Merther Tydfil(Cardif の北約40km)近郊にあった製鉄所だそうです。1850年頃はイギリス最大(=世界最大)の製鉄所で隆盛を誇っていたようですが、他の情報は不明で、その後の経歴もよくわかりません。
関連情報が記載されたウェブページ(所在地等は、ウェブ検索結果の断片的な情報から構成)を見つけることができておらず、不明な点の多いレール・メーカーとなっています。 |
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鹿児島本線 小倉駅 (90度回転) |
モスベイ製鋼(MOSS BAY)
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モスベイ社はカンバーランド(現:カンブリア州)にあったとされています。
関連情報が記載されたウェブページ(所在地等は、ウェブ検索結果の幾つかから記述)を見つけることができておらず、不明な点の多いレール・メーカーとなっています。 |
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東海道本線 鷲津駅 (90度回転) |
ウィルソン&キャンメル製鋼会社(WILSON & CAMMELL)
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社名に入っている Cammell は、Dronfield のウェブサイトによると、Sheffield の Cammell 社 の社名の元ともなった Charles Cammell 氏のことで、Willson & Cammell 社は、Sheffield の Cammell 社の Dronfield 工場といった位置付けであったようです。ちなみに、Wilson も George Wilson 氏の人名が元になっています。 近江今津のレールの刻印の発注者名は「C.P.R」となっていますが、"Canadian
Pacific Railways" もしくは "Central Pacific Railways" の略ではないかと考えられます。
WILSON & CAMMELL. DRONFIELD. STEEL 1883 P・I・COとなるようです。豊橋の例のように不明瞭だと、同じ単語として "CAMMELL" が、よく似た単語の部分として "FIELD" が含まれており、お馴染みの CAMMELL との区別が難しいです(今まで CAMMELL としていた中にも、このメーカーが混じっているかも)。 |
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江若鉄道 近江今津駅(90度回転,廃止線の駅舎が現存,拓本:大津在住O氏) |
ワーキングトン工場(WORKINGTON@British Steel Co.)
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Workington は、Cumbria と南西 Scotland との境界を成す Solway 湾の海岸沿いに位置しているそうです。また、"The
Birth of a Rail" というウェブページによると、Workington
は歴史のある製鉄所で、製鋼法の一つである酸性ベッセマー転炉もここで開発・実用化されたそうです。現在は鉄鋼の生産は行なわれていないようですが、鉄道用レールの圧延が引き続き行なわれているようです。
向ヶ丘遊園正面駅で見たレールは、小田急向ヶ丘遊園モノレール線のロッキード式モノレールの頂部レールとして使用されていたレールで、イギリスの
British Steel 社(ブリティッシュ・スチール社,BSC)傘下のワーキングトン工場製のようです。
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小田急 向ヶ丘遊園正面駅 |
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