7.1.2 貴重な古レール1st wrote at 2000.10.29 / Last update at 2006.08.09
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前節では、古レール探求者の古レール観を整理しましたが、ここでは、発見すれば小踊りしてしまうような、特に貴重な刻印のレールを紹介してみたいと思います。
貴重なレールと言いますと、絶対数の少ない(刻印の)レールであることが条件です。以下の条件を挙げてみました。
なお、古レール探求者の間では、「珍品レール」という言葉があります。ありふれたレールであっても、その組み合わせは何らかの意味を持つと思います。そのため、珍品と珍品でないレールを区別するのは困難ですし、珍品なレールだけを尊重する態度は(動植物の)分類学成立以前の前博物学的な感じがする、などの理由から筆者は「珍品レール」という言葉は不適当な表現と考え、ここでは「貴重な古レール」と呼ぶこととします。 |
(1) 古い年代のレール |
古レールのうち、特に貴重な古い年代のレールとしては、早期のレール、すなわち1870年代以前のレールが挙げられます。日本の鉄道は1872年に営業開始(新橋−横浜)となっていますので、鉄道が出来てせいぜい10年の間のレールが該当します。この時代は鋼鉄の製造技術が未成熟であったため、錬鉄で作られたレールが含まれることも特筆すべき事項でしょう。
次に1880年代となりますと、1885年以降のレールは比較的普通に見ることができますが、1884年以前のレールは、やや数が少なく、貴重なレールと言えそうです。 以下に、筆者が確認している1870年代製を示す刻印のリストを示します。名鉄沿線から比較的多く発見できるようですが、これらは、"Early Americans" と呼ばれている一群のレールです。 |
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1870年製の DARLIGTON 社製双頭レール(摂津富田) |
(2) 平底レール以外の形状のレール |
特に貴重なレールとして、普段見慣れた平底レール以外の形状をしたレールが挙げられます。日本で使われた各種レールは、「3.3
レールの種類」の「(1) 明らかに形状の違うレール」を参照してみてください。
双頭レールは、『レールの趣味的研究序説〔再補・上〕』などによれば、ホーム上屋などへの転用例は西日本に集中しているようです。
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(3) 一般的ではない断面規格のレール |
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日本の鉄道 − 特に官営鉄道〜国鉄〜JR − で使用されて来た鋼鉄製平底レールの断面形状は、前期のレール,中期のレールなどでも述べましたが、
(1) 60ポンド第1種,(2) 60ポンド第2種,(3) 60ポンドASCE,(4) 75ポンドASCE,(5) 50キログラムPS,(6) 50キログラムN,(7) 60キログラムと変遷してきました。また、中小の私鉄などでは、45ポンド,50ポンドと言った単位重量(主にASCE断面)のレールを使っていたようです。これらは、大量輸入・大量製造されてきたレールであることから、比較的容易に見ることが出来ます。 一方、50kg前後の単位重量の試験的に使用された断面規格のレールが、いくつか判明しており、『レールの趣味的研究序説〔再補・下〕』で整理されています。これらは「プレミアレール」と呼ばれるそうです。プレミアレールの多くは、めったにお目にかかれないレールとなっています。
以下に、これらの断面規格のレールのうち筆者が確認しているレールの実例を以下にリストします。 |
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フランス WENDEL 社のフランス規格46kgレール(富士駅) |
(4) 希少な製造者のレール |
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一般的なレールの製造者(製鉄会社)の所在国としては、日本のほか、ヨーロッパ各国、アメリカ合衆国が挙げられます。逆に見かける機会の少ないレールの製造者は、これら以外の国で製造されたレールとなります。
よく見掛けるレール製造者の所在国でも、"Early
Americans" とした、アメリカ合衆国の初期のレールは、中小の製造者が群雄割拠していた時期のレールで発見数も少なく、貴重なレールに含まれると考えます。ロシア製レールについては、一部の私鉄などで数多く見られますが、全体からすると、見かける機会の少ないレールです。
上記のうち、筆者が確認しているレールを以下に示します。名鉄の駅名が並ぶのが興味深い点でもあります。 |
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アメリカ SCRANTON STEELの1888年製のレール(本揖斐駅) |
(5) 希少な発注者のレール |
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レールの発注者名が刻印されているレールについては、その出所が明らかであるため、どれも貴重なレールと言えるかと思います。ただし、発注者が刻印されているレールは絶対数が多く、特に貴重なレールが判然としないことから、その中でも希少な発注者名の古レールを選び出すこととしました。
発注社名のうち、希少なレールとしては、外国の鉄道が発注したレールが、まず挙げられます。また、日本国内でも鉄道聨隊や室蘭の日本製鋼所が発注したレールが貴重となります。 これらの発注者について、『レールの趣味的研究序説〔上〕〜〔再補・下〕』を参考にリストすると以下のレールが挙げられるかと思います。
上記のうち、筆者が確認しているレールの例を以下に示します。 |
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↑ 京釜鉄道発注と思われる "KFR" の名の入ったレール(草津駅) | ||
↑ ウスリー鉄道(Ус.Ж.Д.)の名の入ったレール(知立駅) |
(6) 八幡製鉄系レールのうち希少なレール(例として) |
「八幡製鉄所」系のレールは、日本で最も一般的に見られるレールとなっています。当然、貴重とは言いがたいのですが、これまで論じてきたような条件次第によっては貴重と判断出来るレールがあります。以下にそれらについて整理したいと思います。
官営八幡製鉄所でのレールの製造は1901年11月から始められた(参考:『レールの趣味的研究序説〔中〕』)とのことですが、1901年製のレールについては、『NIPPON STEEL MONTHRY, 2001年8・9月号』によれば、30フィートレールで56t,208本、『鉄道趣味の拡がり (VIII)』に紹介されている論文によれば、33t,273本程度(ママ)だけだそうで、1901年の2ヵ月を含む1901年度の合計は1,086tであることを考えると、元々の数も非常に少ないようです。
希少な発注者名の古レールとしては、上に挙げた中国鉄路総公司と思われる発注名(CGR)のレールが見られます。なんらかの手違いにより国内に紛れこんでしまったレールではないでしょうか。これらについて、筆者の調査結果と諸文献のレールの例を参考に作成したリストを以下に示します。 |
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※ 〔再補下〕 としたものは、『レールの趣味的研究序説〔再補・下〕』より
〔下〕 としたものは、『レールの趣味的研究序説〔下〕』より 〔@nifty〕としたものは、@niftyの鉄道フォーラム専門館での伊藤氏の発言 (https://www.nifty.ne.jp/cgi-bin/go?nifty:ftraine/mes/9/10105)より |
皇紀2608年と刻印されたレール(東北沢駅) |
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