日本における営業用鉄道の最初の開業は1872年の新橋(東京)−横浜間、2番目の開業は1874年の大阪−神戸間でした。これらの開業時に敷設されたレールは錬鉄製の双頭レールでした。平底レール(錬鉄製)は、1878年に3番目に開業した京都−大阪間で敷設されました。最初の鋼製レール(双頭レールを再び敷設)は、1880年の大津−京都間の4番目の鉄道区間に敷設されました。それ以降、鋼製の平底レールが新幹線を含む日本の鉄道で敷設されています。
日本のレールについては当初、ヨーロッパやアメリカからの輸入品が敷設されました。日本でのレールの圧延は、九州の八幡に設けられた官営の製鉄所で1901年に始められています。当初は国産品のレールが不足していたので、日本製レールと輸入レールが、1926〜27年頃まで併せて使用されました。現在、日本の鉄道のレールは国産品のみによりまかなわれています。これらは新日鉄
(株) の八幡製鉄所と JFE スチール
(株) の福山事業所(西日本製鉄所)で圧延されています。これらには、日本国内で敷設されるレールに加えて、輸出用も含まれています。
日本では、(「もったいない」として知られる)物を大切に使うという東洋的習慣や第二次世界大戦前後の物不足などの理由から、使用済みの古レールが様々な施設に再利用されました。それらは、ホーム上屋や跨線橋、地面へ突き刺したフェンスなどの材料として広く再利用されました。そのほとんどは、防錆のため着色されています。このように、多数のレールが現存し、再利用されているため、日本では古レールを研究することが可能となっています。ところで、日本で最初に開業した鉄道に敷設されたレールはまだ現存しており、「+
DARLINGTON IRON Co 70 IGJR」と刻印された英国製のレールです。このような標記がレールのウェブ(腹部)に刻印されていることから、製造者、製造年、さらに発注者などに関する様々な情報をレールから得ることができます。この方法によって、10ヵ国、約90社のレールが日本で発見されています。
これらのレールの再利用は、1970年代頃までに急速に廃れました。これは、建築資材に使用されるH形鋼がより安価となり入手しやすくなったことや、レールの材質が曲がり難いものに改善された(鋼内の炭素の含有量の増加による)こと、レールがより大きく重くなったことなどが理由と考えられます。近年しばしば、駅にエレベータやエスカレーターを設置する工事や駅を橋上化する工事が行なわれており、これらに伴って、古レールを再利用した施設が撤去されることが多くなっています。したがって、現在再利用されている古レールを記録することは急務となっています。
古レールの研究では、西野保行・淵上龍雄の両氏によって、1977年に鉄道趣味誌の『鉄道ピクトリアル』誌上に3回連載された『レールの趣味的研究序説』(補遺が後に3回掲載)が、教科書的存在となっています。この文章では、日本で見つかったレールについて、概略的な歴史や,製造者に関するコメント,発注者の推測,いくつかの考察などが報告されています。その後、四半世紀が過ぎて、様々な変化や新しい発見も続いていますが、古レールに関する情報をまとめた文章は、その後ほとんど公表されていません。
そこで、古レールを調査・記録し、その分類・評価を行っています。また、その成果について、インターネットのウェブ・ページで公開します。 |