その16

わしじゃ、今日のテーマは山アラシじゃ。
やまあらし?
あっ、わかった、「柔道一直線」のあの必殺技「山嵐」ですね。
ちが〜う!、動物の「山アラシ」じゃ。
はあ、動物の方の「山アラシ」ですか。
おしいなあ、「柔道一直線」の吉沢京子のファンだったんだけどなあ。
お前、何才なんじゃ、一体。わしゃ、当然、近藤正臣のピアノ足弾き。
いや、まあ、そんなことはどうでもいい。

・・・
ある冬の、凍えるような寒い朝、山の中に、空腹に耐える二匹の山アラシがおった。
秋に食べた木の実なども、今は雪に覆われ、見つけることができない。

しかたなく、二匹はお互いの体を寄せ合い温めようとする。
しかし、山アラシの体には、敵から身を守るための鋭いトゲがある。
近づこうとすれば、お互いのトゲでお互いを、つまり味方を傷付けてしまう。
だから、離れる。しかし寒いので近づきたい。
互いのトゲが邪魔をするので、また遠ざかる。

そんなことを何度も繰り返すうちに、二匹は、
ある程度相手を傷付けてしまうが、ある程度温めあうことができる”距離”を発見する。
少しだけお互いに傷付けてしまうが、少しだけ温めあうことができる微妙な”距離”を・・・

話はそれでおしまいじゃ。
おしまいって、ちょっと。
それだけじゃ、意味がわかりませ〜ん。
喝〜っ。距離じゃ、距離。
距離?
相手を傷付けてしまうかも知れないトゲを、ハデな色のヒモの先に付けて
細い棒でヒュンヒュン振り回している、男同士の距離じゃ。

お互いに獲物に恵まれず、飢えて、せめて孤独な心を温めあいたい、
仲良くなりたいけど、なかなか近づけない男同士の距離のことじゃ。

よいか、トゲが傷つけるのは、肉体ばかりではないぞ。心も傷つけることがある。
ああ、釣り場で隣り同士になった時ってことですね、わかりましたよ。なあ〜んだ。
なあ〜んだって、お前。
せっかく、話したのに・・・傷つくなあ、わし。
ちょっと、温めて欲しかったのにい〜。・・・今日はここまで。
温めて欲しいって?気色ワル〜

kingfisher注記:   仙人の「山あらし」の話は、ショーペンハウエルの寓話を引用して、
親密になろうとする人間関係の葛藤を意味する、
「山アラシジレンマ」と呼ばれている心理学用語をヒントにしています。
なお、「柔道一直線」の吉沢京子に関する説明は省略します。(笑)

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