その17

わしじゃ。
お前、ジェームズ・スチュアート知っとるか?
ジェームズ・スチュアート?
やっぱり知らんか。
シブイぞう、これがアメリカ人の見本、みたいな男じゃ。
・・・
35年前、小型旅客機が砂漠に不時着した。乗員はパイロットとメカニック、乗客は数名。
いつまで待っても救援はこない。
砂漠の砂地に落ちたので、機体の損傷はそれほど、ひどくない。
幸い、乗客の中に飛行機の設計技師がいて、残った材料で、機体を改造することになった。
改造した飛行機で、再び飛び立ち、自力で帰還しようという計画じゃ。
技師の指揮で改造が進み、やがて機体は完成する。
メカニックは技師に言う。「いやあ、素晴らしい設計だった。いままで、どの位の飛行機、設計をした?」
「1/36○○と1/24△△と・・・」
「いや、オモチャじゃなくて、飛行機だよ、本当の飛行機。」
「本当の飛行機?、ぼくは模型飛行機の設計屋だから、本当の飛行機を設計したことはない。」
「?、う、うそだろ・・・は、はは、ははは・・・」
「だって、本物も模型も、飛行機が空を飛ぶ理屈は同じだよ。」

いよいよ、不時着後、初めてエンジンをかける時がきた。
エンジンがかからなければ、全ては無駄になる。全員、砂漠で死を待たなければならない。
旧型エンジンの始動には始動用の火薬カートリッジを使う。しかし、カートリッジは5発しか残っていない。
メカニックや乗客が見守る中、コックピットのパイロットがカートリッジを装填する。
1発目点火・・バーン、バスバス。始動しない。エンジンはかぶっているようだ。
2発目点火・・バーン、バスバス。これも、始動せず。
3発目点火・・バーン、バスバス。またもや、始動せず。
パイロットは通常と違う手順でカートリッジを使おうとする。
メカニックが叫ぶ。
「な、なにをする気だ!」
「カートリッジを1発使って、シリンダーの中を掃除するのさ。」
「やめろ!、カートリッジはあと2発しか、ないんだぞ!無駄にするな!」
「大丈夫だ、1発あれば、エンジンはかかるさ。」
「やめろ!、やめてくれー!、ああぁ!」
4発目点火・・ボーン。排気管から黒煙が吹き出る。
メカニックは絶望する。「ああ、もうダメだあ」
そして、最後のカートリッジ。
パイロットは無言で、静かにカートリッジを装填する。
皆は固唾を飲んで、見守る。
点火・・・バーン、バ、ババ、バババ、
メカニックは祈る。「かかれ、かかってくれ、かかるんだぁ」
パイロットは必死でアクセルを調節する。
バババ、ド、ドド、ドドドドドドド・・・。始動成功。
「やった、やったあ」メカニックは飛び跳ねて、喜ぶ。
そして、模型技師の設計した飛行機は無事離陸、全員砂漠から脱出。

・・・話はそれでおしまいじゃ。
おしまいって、あの〜、ぜんぜん釣りの話にならないんですが。
それにジェームズ・スチュアートという人は?
喝〜っ。当たり前じゃ、砂漠に魚はおらん。
しかし、これはフライのプレゼンテーションの話じゃ。
どこがフライのプレゼンテーションなんですか?
よいか、渓流では、最初の、第1投のプレゼンテーションで勝負はほとんど決まる。つまり一発勝負だ。
失敗したら、その日1日魚は出ないということもよくある。
しかし、管理釣り場では、そうゆう状況はない。
1尾の魚は毎日、何百、何千回というフライのプレゼンテーションを受けている。
釣り人が使っているフライも、そう大差はない。
それなのに、なぜ魚は”あるフライ”に食いつくのか?
お前、答えよ。
え〜、なぜって、その〜・・・なんとなく食い気が出たってことかなあ?
喝〜!ぜんぜん答えになっとら〜ん!
・・・それはな、4発目のカートリッジじゃ。
4発目?ああ、さっきの話。シリンダーの掃除に使ったヤツ?
う〜ん、じゃあ、魚もエラの掃除して気分一新ってこと?
バッカモーン!、後は自分考えろ!わしゃ、帰る。
・・・今日はここまで。
う〜ん、・・・おっ、なんとなく、・・・いや、やっぱり、わかりませ〜ん。仙人〜!

kingfisher注記:仙人の話は「飛べ!フェニックス」という昔の映画の話です。
記憶が定かではありませんが、概ね、こんな話だったと思います。
配役は、パイロット=ジェームズ・スチュアート、メカニック=リチャード・アッテンボロー
設計技師=ハーディー・クリューガー だったかな。
今日の話は正解の「オチ」はありません。それがわかれば・・・(笑)

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