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第8シリーズ 3話 「広がる私服登校」
森月美香(草刈麻有)に影響されて私服で登校する生徒が増えてきた。金八(武田鉄矢)はそれを受け、「規則」について生徒たちに議論させる。大西悠司(布川隼汰)はサッカーのルール違反からラグビーが誕生した例を挙げ、規則を破ることで新しいものが生まれることもあると発言。しかし規則は破られてもまた新しい規則が作られると金八は指摘する。個性を主張し我が道を行く美香には「皆と違う『私』を知るには皆のことを知る必要がある」と話し、規則とは何かを考える感受性が問われているのだと言って「自分の感受性くらい」という一篇の詩集を渡す。
サッカー部の主将だった悠司は未だ情熱さめやらず、全ての三年生が引退した今も練習に参加している。そこへ桜中を強豪にすべく元Jリーガーの関口コーチ(島崎俊郎)が招聘された。実力主義の関口は小学生チームにも勝てない部員たちを「ゴミ」と罵り、今後一切試合に出さないと宣言。愛着ある部へのあまりの仕打ちに激昂した悠司は関口に殴りかかる。事情を聞いた金八は教え子の暴力を詫びる一方で、悠司のサッカーに懸ける思いは一流だと評価。言葉で生徒を傷つけたことについて「謝れ!」と関口に迫るのだった。
美香を真似て私服登校していた女子たちはすぐに制服に戻った。内申に書かれるという噂が立ったためだ。美香も時を同じくして制服を着用。しかし美香は内申を怖がったのではなく、金八が薦めた詩集を読んで思うところがあった様子だ。ところが3Bでは新たに元野球部のサトケン(廣瀬真平)が私服で登校して仲間を驚かせる。サトケンは親の意見に従い、学業に専念するため好きな野球を断念したのだが、甲子園の夢を断ち切れずに悩んでいたのだった。
その晩サトケンが帰宅すると、部屋の野球道具が全て捨てられていた。ショックを受けたサトケンはひとしきり暴れた末、部屋に篭城。翌日桜中には「風邪気味なので欠席させる」と母親から連絡が入る。
サッカー部顧問の木村先生(瀬川亮)によると、関口の方針を聞いた一、二年生が全員退部したという。金八の机の上に置かれた悠司の個人ノートには、「俺は部活を絶対に辞めない。あのクソコーチと勝負してやる。もちろん受験勉強も頑張るぞ」と強い決意が示されていた。金八はたった一人で練習を続ける悠司を見つめ、「君が決心したこと、それが君の新しいルールです」と呟くのだった。
平成19年度 桜中学3年B組生徒座席表
塚田りな美香に影響され私服登校 (萩谷うてな) |
大西悠司サッカー部の元主将 (布川隼汰) |
森月美香もんじゃの誘い断る (草刈麻有) |
北山大将「中学生らしさ」って何だよ (亀井拓) |
玉田透 (米光隆翔) |
茅ヶ崎紋土「規則」を交通ルールで説明 (カミュー・ケイド) |
漆田駿サッカー部を応援 (坂井太陽) |
五十嵐雅迪「こんな議論意味ないでーす」 (田辺修斗) |
廣野智春もんじゃ屋組 (菅野隼人) |
里中憲太郎壁に向かってピッチング (廣瀬真平) |
安藤みゆき美香に影響され私服登校 (梶尾舞) |
諏訪部裕美 (山田麗) |
金井亮子受験勉強に集中したい (忽那汐里) |
田口彩華「女らしく」って何なのかな (高畑充希) |
江藤清花登下校時にまぶしい笑顔 (水沢奈子) |
渡部剛史私服にグラサンで登校 (岩方時郎) |
金輪祐樹もんじゃ屋に噂持ち込む (植草裕太) |
岩崎浩一りなに「メタボ」コール (真田佑馬) |
川瀬光也 (高橋伯明) |
長谷川孝志「ちゃんと意見を言おうよ」 (坂本優太) |
中村美恵子美香に影響され私服登校 (藤井真世) |
平野みなみ美香に影響され私服登校 (菅澤美月) |
佐藤千尋サッカー部を応援 (森部万友佳) |
和田順子私服は勝手にやればいい (井本杏子) |
川上詩織参考書を手放さない (牛山みすず) |
教卓 | ※名前にカーソルを合わせると…? |
みどころ談義
- ● 金八シリーズには意外と珍しい、部活動のお話になりました。
- ○ 悠司とサトケンの爽やかな友情があり、コーチを殴ったりガラスを割っちゃったりするくらいの熱い思いがあり、スポーツ少年らしい話だったよね。全体の構図としては、金八vs成績至上主義が今度は部活というフィールドで展開されたと、そういうことになるのかな。
- ● まずは前回から続く私服登校問題からスタートして、はじめの方でいきなり討論になるんです。これも珍しい展開で、熱かったですね。
- ○ 面白かったよね。規則について、頭ごなしに注意するんじゃなくて、ヒントを出しつつ生徒に考えさせる金八先生。「社会の規則についての勉強は塾ではできない。だからもう少し考えてみよう」という理屈にも納得だった。
- ● ラグビーの成立に関する豆知識も出たりして、楽しかったです。でも美香はまだ我が道を行く感じで「親でもないのに呼び捨てにしないでください」などと言ったり。それを金八先生は笑顔で受け止めて、詩を渡して反応を見るわけです。
- ○ 詩は「感じるもの」だと金八先生は第1話で言っていたじゃない。だから、生徒の心の奥深くにダイレクトに問い掛けたいときに、こうやって詩のパワーを借りるのかもしれないね。
- ● 茨木のり子さんの「自分の感受性くらい」。第3シリーズでもテスト前に朗読させた詩なんですけど、美香もこれは心に引っ掛かったようです。
- ○ 職員室に来てぶっきらぼうに言った「美香って呼んでもいい」という一言が効いてるよねぇ。さっきの「呼び捨てにしないで」と対になっている言葉なんだけどさ、美香は制服を着るようになったとはいえ、詩ひとつで考え方がガラッと変わるなんてことは当然なくて、まだ3Bに積極的に馴染もうとする姿勢は見られない。でも、ちょっと心持ちが変わった、距離が縮まったという感じがこの一言にすごく出ていて、よかったなぁ。
- ● 乾先生もいいことを言ってましたよ。美香を問題視する教師が多い中、「あんな風に自分の気持ちを言葉にできるとむしろ健全に感じますね」って、美香を認めているんです。見方によって十分前向きに取れるのなら、こういう風にいいところを拾ってあげたいですね。
- ○ 昔では考えられない(笑)。このカンカンの変化が金八の歴史なのかな。この姿勢は、このあと鬼の関口コーチに向かって「悠司に謝れ」と言うのも同じことだよね。殴ったのはもちろん悪い。だけど、金八先生は悠司が表に出している熱意の部分を理解して、認めて、味方になってやって。
- ● ああなるとアダモちゃんは黙るしかないです。
- ○ ははは、若い人は知らないよ。島崎俊郎さんね。島崎さんは元Jリーガーの役柄にしては若干歳が上だけれど、実はサッカーの実力は相当なもので、高校時代にはインターハイや国体で活躍していた本格派なんだよ、意外にも。
- ● へぇー、すごいムダ知識(笑)。このサッカーのエピソードは割とベタで、悠司の純粋さを分かりやすく描いてましたよね。コーチの横柄な態度だったりサッカー部のどうしようもない弱さだったり、全体的にデフォルメ感がすごくあったと思うんですが。
- ○ コーチは金八先生の単純なハッタリにころっと騙されたりね。でもこの人だって、あれほど強いジュニアチームのコーチの座を捨てて、夜間照明もなく土のグラウンドしかないような弱小公立校・桜中を日本一にすると言って仕事を請けたわけでしょ。実はロマンチストなのかもしれないよ。
- ● 見方を変えればスクール・ウォーズの滝沢先生ですか? …いやいや、それにしては生徒を「負け犬」だの「ゴミ」だのと罵って、指導力どうこう以前に人間性に問題ありじゃないですか。
- ○ たしかにそうなんだよな。部の裁量はコーチにあるものだとは思うけれど、反骨精神を煽るにしたってあんな否定の仕方はよくない。もしあのコーチから「坂本先生! 我々は結果を出さなきゃいけないんです。でなければこの桜中はなくなってしまうんですよ。それでもいいんですか!」ぐらいのやり返しがあれば、印象は少し違ったかもしれないけれど。
- ● なるほど、それがあれば向こうの立場も納得できましたね。100%の悪者を作っちゃうのはやっぱり…
- ○ でもまぁ、ハッタリであそこまで演説できる金八先生のエキセントリックな弁舌なんてすごく面白かったし、「お前はサッカーで手を使った。ラグビーと同じように新しいルールを自分で決めないとな」なんて、まとめ方も洒落ていたよね。うん、味のよく出たエピソードだったと思うよ。
- ● この悠司のエピソードと対照的にサトケンの野球部の話が絡んでくるんですが、こっちがまた切ないんですよ。二人はスポーツへの一途な思いは同じはずなのに、明暗がくっきり分かれてしまって。
- ○ 似たように渋々頭を下げさせられているシーンが二人ともあったり、この辺は狙った対比だよね。もしかしたらこの二人のコントラストをはっきりさせるために、悠司の話はわざと「悠司が正義」というようなイメージを押し出した展開にしたのかもしれないな。
- ● サトケンは自分の情熱を口に出さないために理解してもらえていないという印象ががすごくあるんですが、この「本当の気持ちを言い出せない」という点は、前回の孝志のケースに似てますね。二人とも、悩んで行き詰って裏サイトをチェックするということをしてますし。
- ○ そう、チェックしてたね。サトケンは、私服で登校すれば内申点が下がるという情報を裏サイトで知ったはずだから、それを承知で敢えてあの格好で学校に行ったということになる。逆に言ったら、ニコラスはあのリアクションを見る限り、裏サイトは見ていないことになるかな。
- ● そしてサトケンの可哀想なところは、悠司が金八先生と楽しそうにおでん突っついてるところに出くわしちゃうんですよ! 最悪のタイミングで悠司と自分を比較するようなことになっちゃって、いっそう孤独感を強くする。あぁ、あの切ない表情が忘れられません。
- ○ 鬱積が爆発した挙句、部屋にこもっちゃったみたいだもんな…。どうなるんだ、サトケン。
- ● エースピッチャーらしい強気のマウンド度胸を思い出して欲しいですね。野球道具と想い出の品、本当は捨てられてなければいいんですけど。
- ○ 悠司とサトケンの爽やかな友情があり、コーチを殴ったりガラスを割っちゃったりするくらいの熱い思いがあり、スポーツ少年らしい話だったよね。全体の構図としては、金八vs成績至上主義が今度は部活というフィールドで展開されたと、そういうことになるのかな。
その他の周辺状況・小ネタ
- 今回の主役・大西悠司役の布川隼汰さんは、第1シリーズで阿部トシエ役だった土屋かおりさんを母に持ち、「2年B組仙八先生」で黒部寿人役だった布川敏和さんを父に持つ、初の親子二代に渡る桜中シリーズ出演者。トシエ、そのまま母親役で登場しないかなぁ。
- 私服組はサトケン以外みんな赤中心の色のチョイス。
- 国語の授業では万葉集。孝志がやけに感情を込めて読んでいる。金八シリーズでは万葉集の登場回数が多く、第1シリーズ3話、第6シリーズ11話、第7シリーズ9話などでも扱われている。
- 美香の私服登校が3年A組にも飛び火して、北副校長、遠藤先生はおかんむり。北は美香をウイルス呼ばわりし(なぜそこで「腐ったミカン」と言わない?)、校長室登校も辞さない構え。だがひとまず終息。
- 生徒たちがもんじゃを焼いていたのは「あけぼの商店」。駄菓子屋も兼ね、いかにも下町チックなおばさんが切り盛りしている様子。このおばさんは茨木のり子にも造詣が深い。バカにしてはいけない。
- 金八は美香がなぜこの時期に転校してくることになったのか気になり、聖ミカエル女学園に出向きかつての担任に話を聞く。すると美香はやはり教師に反抗的な態度をとって懲罰を繰り返し受け、ついに退学処分になったという。聖ミカエルは規則が厳しい学校として有名(かつて加藤バーバラが受験し安生有希が進学した聖クリフト高校とは別系列と思われる)。
- 「かつての担任から転校生の素性を聞く」というと、思い出されるのはやはり第2シリーズの米倉先生。
- この聖ミカエルのシーンで、シューベルトの「野ばら」の合唱がほのかに聴こえてきているが、金八は第3シリーズ1話でこの曲を口ずさんでいたことがある。また上等な椅子を飛び跳ねるようにフカフカっとしている場面があるが、この動きも初期のシリーズのどこかでやっていたような気がする…。
- 美香はカフェで一人お茶しながら詩集を読み、心を動かされる。
- サトケンは前年に甲子園に出場した「めいわ大付属高」から誘いを受けたが断った。親が野球をやめて青嵐へ進むことを希望しているためで、内心は行きたかった様子。その証拠に、推薦を断った現在も壁に向かってピッチング練習を続けている。また、そのサトケンの自転車のかごの中には、西きょうじの「入試英文法問題特講」が。あれは大学入試の参考書だが。
- 桜中野球部といえば、オールドファンにとっては平山英吉ですよね。ちなみに英吉が声を掛けられた強豪校は日東高校。今回も日東高校で統一してくれたらマニアはニンマリできました。
- 乙女は近頃外泊が多いらしく、金八は気が気でない。乙女は「報告はしているので無断外泊ではない」という理屈で結構大胆に出ていく。
- 川口先生、子供の病気を理由に今回も学校を早退している。
- 校長曰く、関口コーチを招聘したことで、桜中には早速30件を超える問い合わせがあったという。
- 練習試合の結果: [桜中サッカー部 1-8 FC.KAEDE] クラスメイトの他、立花先生、アッコ夫妻、大森巡査も観戦。だが最後まで見守ったのは立花、大将、みなみのみ。
- 桜中は悠司を入れてやっと11人が揃う弱小チーム。この結果もやむなしか。桜中の得点者は悠司。相手の子供たちは関口を慕って来春桜中に入学する予定。
- この練習試合の中、みなみから悠司への思いがはっきりと見て取れる。いよいよ恋話? ワクワク。
- 金八が関口コーチに説教するシーンで、「オシム」「俊輔」「高原」と個人名を出したのは武田鉄矢さんのアドリブだったとのこと。しかも金八先生、「天皇杯」を「天皇賞」と言い間違ってしまった。
- その後のおでん屋のシーンで、金八は「息子からの受け売りと、焼き鳥屋で聞いた競馬の話を混ぜた」と言い訳。しかし「教え子を守るためなら嘘でもハッタリでも何でもついてやる」と頼もしいことを言い、同時に「受験勉強も身を入れてやれ」と、学業面もフォロー。
- 悠司とサトケンの対比が印象深いこの回だが、実はそれぞれの生徒に立ちはだかるヒップアップ(島崎俊郎さん)とコント赤信号(小宮孝泰さん)の対比でもある? ちなみに小宮さんは鈴木サオリの父役として第5シリーズにも出演。
大西悠司の「私」ノート
俺は部活を絶対辞めない。
校則を読んだら、三年の夏で部活を引退しなきゃいけないとはどこにも書いてなかった。
だから、部活を続けるのは校則違反じゃない。
俺はこの学校を卒業するまで部活を続けるつもりだ。
それで、あのクソコーチと勝負してやる。
もちろん受験勉強も頑張るぞ。
——— 金八 「君が決心したこと、それが君の新しいルールです。」
参考文献・挿入歌・BGM
- 【書籍】 落ちこぼれ—茨木のり子詩集 (茨木のり子著、理論社)