五月も半ばを過ぎる頃、ようやく動詞が登場した。今回は、動詞の変化の体系全体を概観するという授業内容。
ギリシャ語は人称・数・時称といった事柄ばかりか、受動か能動かとか、英語だったらwouldなりshouldなり助動詞を使って言いそうなことまで、何でもかんでも動詞の語形変化だけで表してまう。動詞を見ただけで、「いつ、誰が、何を、どういうふうに、したのか/されたのか」全部分かるのだ。
逆に言えば、主語が文中に見つからなくても、動詞の語尾を見て「彼らは〜する」「あなたは〜する」と主語を引っ張り出してこないといけない——と、ちゃんと初っ端に教わっているのに、練習問題をやってみると何故か「誰が」を落としてしまう。他にもこういう学生はいた。日本語は主語がなくても文になるせいだろうか。母語が英語なら初心者でもこんな間違いはしない、というかできないだろう。
授業中、教科書の付録の動詞の変化表を見るように指示されたのだけど……。たった一つの動詞が五頁に渡って延々と変化している。後で数えたら、344通り。規則変化だけでこれだけで、そのうえにω動詞だのμι動詞だの、その中のいろいろなタイプの変化だのが加わるのである。こんなの覚えられない!
と青ざめたけれど、べつに頭から順に丸暗記する必要は無いのだった。何百通りといっても、でたらめに変化しているわけではないからだ。とりあえず36の人称語尾を覚えれば、あとは組み合わせで処理できるらしい。能動相副時称の欄なんて複数三人称しか違わないから、これを一まとめにすれば、実質的には30だけ暗記すれば済む、はずだ。理屈では。
能動相 | 中・受動相 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
本時称 | 副時称 | 本時称 | 副時称 | ||||
ω動詞 | μι動詞 | ω動詞 | μι動詞 | ω動詞・μι動詞共通 | |||
単数 | 一人称 | −ω | −μι | −ν | −ν | −μαι | −μην |
二人称 | −εις | −ς | −ς | −ς | −σαι | −σο | |
三人称 | −ει | −σι | × | × | −ται | −το | |
複数 | 一人称 | −μεν | −μεν | −μεν | −μεν | −μεθα | −μεθα |
二人称 | −τε | −τε | −τε | −τε | −σθε | −σθε | |
三人称 | −νσι | −ασι | −ν | −σαν | −νται | −ντο |
ギリシャ語では動詞を辞書で調べるときには、「私は〜します」という形(直説法能動相現在一人称単数形)にして引く。英語もドイツ語もフランス語も辞書を引くときは不定形にするから、どの言語もみんなそうなのかと思ったのに。
でも、ギリシャ語だけが特殊なわけではなくて、古典語仲間のラテン語もやはり「私は〜する」という形で引くのだった。いったい辞書の見出し語は、いつ頃から、またどうして、不定形に変わったのだろう?
最終更新日: 2005年3月22日 連絡先: suzuri@mbb.nifty.com