現役の鉄道用レールを見る1st wrote at 2001.05.03 / Last Edit at 2006.08.07
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現在の日本の鉄道用レールについて知りたい場合、レールや線路の話題をまとめた初心者向けの書籍などが出ていますので、そちらをお読みになることをお薦めします。また原典であるJISをお調べになるべきかもしれません。
以下に紹介します。
とは言え、せっかくですので、私が勉強した範囲で解説します。但し、私もプロではない(鉄道会社の社員でも鉄鋼会社の社員でもない)上に独学のため、現役のレールを語る場合には、誤記や勘違いが含まれる可能性があることを、あらかじめ、ご了承ください。
なお、ウィキプロジェクトの軌条の項
( http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8C%E6
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はじめにレールの形には意味があるまずは、鉄道用レールの形についてです。鉄道用レールはH形鋼のような形状をしています。よく漫画やアニメのカットでもH形鋼になってます。しかし、よく見ればそうではないことがわかるでしょう。 |
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上の膨らんだ部分には厚みがあり、車輪を円滑に誘導するほか、耐磨耗性を確保しているようです。さらにその下の逆T字型の部分を通じて、鉄道車両の重さを支持しています。
逆T字の部分は、くびれの部分が板を立てたような形、土台の部分は板を平らに置いたような形となっています。これにより縦,横方向に急激に折れ曲がったり、ねじれたりする(急激な折れ曲がりは鉄道車両へ衝撃として伝わります)のを防いでいます。すなわち、鉄道車両の乗り心地の良さの原因となっているようです。大きい断面のレール(→ レールの規格)ほど、この折れ曲がり難さが大きいですから、車両の乗り心地は良くなります。 一番下の土台部分は横に広がった形状となっており、地面(まくらぎ)の上に置いた時の安定性も確保しています。ちなみに、この特徴から、いわゆるレールの形をしたレールは平底レール(英語では、flat-bottom
rail)と呼ばれています。
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以上述べたように、レールの形にはそれぞれ意味があるのです。H形綱に描いてしまうなんて、冒涜以外の何者でもありません。
レールと日本工業規格(JIS)現在、日本で使われている鉄道用レールと多数のその付属品などの規格は、日本工業規格(JIS : Japananese Industrial Standard)にて決められています。これらを「線路一般に関する JIS 規格一覧表」にリストしましたので、参考として頂ければと思います。 |
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→ 過去に使われた平底レール以外の形状の鉄道用レール |
レールの断面形状普通レール日本で使用されている一般的な鉄道のレールの断面形状は、日本工業規格(JIS E 1101:2001,普通レール及び分岐器類用特殊レール)により、以下の系列のものが定められています。レールの大きさは、1m当たりの重量(実は厳密にはぴったりの数字てはない)で表わします。詳しくは、「普通レールの断面形状」にまとめましたので、そちらも参考にしてみて下さい。
NレールおよびTレール、および分岐器類用のSレール*の語源は定かではありません(少なくとも、JIS
には明記されていない)。
* 分岐器類用Sレールについては、このページでは解説するつもりはありません。分岐器を扱った他の方のウェブページがいくつかあるようですから、そちらにお任せした方が良いと思うからです。「30kgレール」は、規格は残っていますが既に生産は行なわれていないようです。また「50kgレール」,「50kg Tレール」は、生産も行なわれておらず、最近の日本工業規格( JIS E 1101:2001,普通レール及び分岐器類用特殊レール)では削除されています。 軽レール営業用ではありませんが、トロッコなどの作業用路線のレールとしてはもっと細いもの(「普通レール」とは別に「軽レール」と呼ばれる,JIS E 1103-1993 にて規定)もあります。断面系列的には、いずれも高さと底部の幅が同じ長さの断面(ASCE:アメリカ土木学会規格)のレールのようです。
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→ 過去の鉄道用レールの断面規格 |
レールの長さ定尺レールレール(普通レール)の標準長さについても、日本工業規格(JIS E 1101:2001,普通レール及び分岐器類用特殊レール)により定められています(下表参照)。それによると、30kgレールでは全長 10m のものが基本のようですが、それ以上の大きさのもの(50kgN レール,60kg レール)になると 25m を基本に、50m の長さのものも生産されています。この長さは、レール製造時の圧延工程や、現場まで運搬可能であることなどにより制約されてしまっているようです。 軽レールの標準長さも日本工業規格(JIS E 1103-1993,軽レール)に定められています。
ロングレールロングレールは、定尺レールを1本づつ溶接して繋いでつくったもので、日本工業規格(JIS E 1001:2001,鉄道−線路用語)によれば「200m以上の長さのレール」のことを指すようです。ロングレールにすると、レールの継ぎ目による「ガタンゴトン」の衝撃から開放されるほか、保守も経済的となるため、好まれているようです。ロングレールの作り方としては、定尺レールを現地で溶接したもののほか、工場であらかじめ 100〜200m の長さに溶接したものを現地で溶接して繋いだものもあるようです。詳しい説明は、これだけで 1 ページ書けてしまうので、割愛させてください。 |
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→ 過去の鉄道用レールの長さの変遷 |
レールの材質普通レール現在使われている鉄道用の普通レールは、いわゆる鋼鉄(「鋼」と呼ぶのが正しい。「鉄」と微量な「炭素」の合金)で作られています。鋼を得るための製鋼法としては、純酸素(LD)転炉または電気炉を用いらなければいけないことや、レールの製造(圧延)方法の条件なども日本工業規格(JIS E 1101-2001,普通レール及び分岐器類用特殊レール)により細かく定められています。また、素材としての不純物の含有量(強度に影響を及ぼす)や機械的性質などについても、日本工業規格(JIS E 1101:2001,普通レール及び分岐器類用特殊レール)により細かく定められています。 熱処理レール大きな力が加わる線路曲線部には、鋼製レールの頭部に熱処理を行って強度を増大させた「熱処理レール」が利用されているようです。熱処理レールの諸元も日本工業規格(JIS E 1120-1994,熱処理レール)により定められています。一般曲線用耐磨耗レールの「HH340」と急曲線用耐磨耗レールの「HH370」という規格が存在しています。また、レール敷設時に継ぎ目となるレールの端部だけを熱処理した「端部熱処理レール」、「EH」もあります(JIS E 1123-1989)。 レール端部の塗色表示
その他の素材のレールレールに使用する材質として、鋼以外に、より強度のある合金を使用することも考えられているようですが、コストが現実的ではないようです。分岐器のクロッシングと呼ばれる部分はマンガンを含む合金製が使用される(「マンガン・クロッシング」などと呼ぶ)ことが多くなっているようです。 腐蝕の危惧のある箇所に使用するための軽レールとして、ステンレス製のレールもあるようです。 |
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→ 過去の鉄道用レールの材質 |
レールの寿命レールの寿命、すなわちレールの交換の基準についてです。上で紹介した『鉄のほそ道』に記述があるのですが、東海道新幹線(レールは「60kg レール」ですね)の場合、頭部磨耗 13mm で交換だそうですが、実際には通過列車総重量6億トンまたは磨耗 9mm で交換となっているそうです。また、年間の通過列車総重量から見て、その寿命は10年程度ではないかと推測されています。在来線の交換基準については、私もよく知らない(やっぱり13mm ?)のですが、首都圏の通勤路線で見ていると、1980年代辺りのレールまでは現役のようですから、これらの路線では20〜25年程度が寿命となっているのではないでしょうか。 |
レールの生産現在営業中の鉄道(鉄軌条)で新規に使われる普通レールはすべて国産品でまかなわれています。レールは新日本製鐵 (株) 八幡製鉄所とJFEスチール (株) 西日本製鉄所福山地区で行なわれているようです。鉄鋼新聞社刊の『鉄鋼年鑑・平成5年度版』によると、平成4年の統計での重軌条の生産高は新日鐵八幡で213千トン,日本鋼管(現JFEスチール)福山で86千トンだそうです(『鉄のほそ道』からの孫引き)。また、「レールの材質」の項で紹介した、マンガンクロッシングについては大同特殊鋼 (株) とコマツキャステックス (株) で生産されています。 ※ → レールメーカーのリンク集 軽レールは、これらの会社以外にも中小の会社で生産されているようです。 |
→ 過去に日本で使われてきた鉄道用レールの製造業者 |
レールの価格概 要レールの価格、すなわちレールの値段です。レールは建設資材ですので、その価格は他の建設資材同様に時価と考えて良いかと思います。また、さまざまな建設資材の価格を載せた出版物がありますので、これを調べれば価格を知ることが出来ます。普通レール上記のような理由もあって、ズバリの価格を示すのはやめたいと思います。ちなみに『月刊 建設物価 平成12年10月号』によれば、25mものの 50kg Nレール,60kg レール,40kg Nレール,37kg レールについて、その単位重量に関係無く、10万円強〜11万円強の価格がついています。また、最も高いのが 37kg レールで、ついで 60kg レール,40kg Nレールの順で,50kg Nレールが最も安くなっています。単位重量(それだけ原材料を必要とする)のほかに流通(生産)量が価格に影響しているようです。熱処理レール『月刊 建設物価 平成12年10月号』によれば、一般曲線用耐磨耗レールの「HH340」が1mあたり1,000円程度,急曲線用耐磨耗レールの「HH370」が1mあたり1,500円程度の加算になるようです。また、端頭部熱処理レールは、熱処理1ヶ所につき7,500円程度かかるようです。 |
線路の幅(軌間)せっかくですので、線路の幅(= 軌間)についても整理しておきましょう。軌間は(JIS E 1001:2001,鉄道−線路用語)によれば、「軌道中心線が直線である区間におけるレール面上から下方の所定距離以内における左右レール間の最短距離」だそうです。要するに2本並んだレールの内側の間隔ですね。以下に、日本で使用されている(されてきた)主な軌間とその採用例を示します(鉄道模型のものはおまけです)。 |
軌 間 | 名称・通称 | 採 用 例 | ||
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1,435mm | 4 feet 8.5 inch | 標準軌 | 新幹線,都営浅草線,箱根登山鉄道 など | |
1,372mm | 4 feet 6 inch | 馬車軌間 | 京王電鉄,都営新宿線,都電荒川線 など | |
1,067mm | 3 feet 6 inch | 狭軌 | 大半のJR線・民鉄線。都営三田線,小田急電鉄 | |
914mm | 3 feet | 過去に九州北部周辺の複数の軽便鉄道線で使用 | ||
762mm | 2 feet 6 inch | ニブロク | 大半の軽便鉄道線。三岐鉄道北勢線
近鉄八王子線・内部線,黒部峡谷鉄道 |
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610mm | 2 feet | 土木工事や鉱山で使われているトロッコの標準軌間。立山砂防工事軌道 | ||
508mm | 1 feet 8 inch | 多くの金属鉱山で採用 | ||
191mm | 7.5 inch | 縮尺 1/7.5 | ミニSLのゲージ
(諸説あり子細は不明) |
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127mm | 5 inch | 縮尺 1/9 | ||
89mm | 3.5 inch | 縮尺 1/12 | ||
32mm | O ゲージ | 縮尺 1/45 | 鉄道模型のゲージ
(左欄の () 内は 1,067mm 軌間車両の模型の場合)
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24mm | OJ ゲージ | 縮尺 (1/45) | ||
16.5mm | HO ゲージ | 縮尺 1/87 (1/80) | ||
9mm | N ゲージ | 縮尺 1/160 (1/150) | ||
6.5mm | Z ゲージ | 縮尺 1/220 |
写真:3線軌条。
京浜急行金沢八景駅品川方。 ※ 外側が1,435mmで京浜急行が使用、内側が1,067mmで、写真左奥の東急車両の車両工場からJR久里浜線逗子駅へ繋がっている(京急逗子線金沢八景〜神武寺間上り線を3線軌条で共用。ちなみに神武寺〜JR逗子間は専用線)。 |
ぼやき私のホームページへの来訪者の検索エンジンの検索結果を見ていると、圧倒的に「レール」が多いです。レールについて知りたいという要望が多いようです。そこで、こんな文章を(仕方なく?)書いてみました。実際にはレールや線路のことを解説すると、本が1冊書けるくらい奥が深いんです。この文章も下の各書物を調べ直すなどして、苦労してまとめたものです。あえて言わせてもらうなら、レールのことをインターネットで調べようなんて、安直すぎるのではないか ? とすら私は思っています。 最後になりましたが、もし現役レールを本格的に解説したホームページの誕生が確認できた(私も待っています)なら、現役レールを解説したこのページは破棄したいと考えています(やる気のある方になら譲渡も可)。 |
参考文献
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