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アメリカの航空交通

サンフランシスコ空港 国土の広いアメリカでは、国内交通の主役は飛行機です。 主要な都市には、巨大な空港があり、多くの航空会社によって、アメリカ全土に路線網が張り巡らされています。
アメリカの空港での乗客の様子を見ていると、アメリカ人にとって「飛行機に乗る」ということは、日本人が電車に乗るのと同じぐらい気軽なことであるように思えます。

ハブ・アンド・スポーク型の路線展開

アメリカの大手航空会社の路線設定には、日本の国内線にはみられない大きな特徴があります。 航空会社ごとの拠点空港を中心とした、「ハブ・アンド・スポーク・システム」と呼ばれる路線展開です。

デルタ航空を例にとると、アメリカ西部においては、ソルトレークシティがハブ空港になっていて、地方の空港を発着する便は、ほとんどソルトレークシティに集約されています。
ですから、たとえば、ボイジーからは、デルタ航空のノンストップ便はソルトレークシティ行きしかありませんが、ソルトレークシティで1回乗り継ぐことにより、アメリカ西部のほとんどの都市に行くことができるのです。 逆に言えば、デルタ航空を利用する限り、どこへ行くにも(たとえ行き先が逆方向のシアトルやポートランドであっても)ソルトレークシティでの乗り継ぎを必要とする、ということでもあります。
ソルトレークシティ以外では、ダラス・アトランタ・シンシナティがデルタ航空のハブ空港となっています。 ユナイテッド航空はサンフランシスコ・デンバー・シカゴ、ノースウェスト航空はミネアポリス・デトロイトなどをハブ空港としています。

それでは、なぜアメリカの航空路線展開はハブ・アンド・スポーク型で発展したのでしょうか? 逆に、日本の国内線でハブ・アンド・スポークが行われないのはなぜでしょうか?

アメリカは「州」を基本とする連邦制のため、広大な国土に中小規模の都市がまんべんなく点在していて、しかも、どの都市間にもそれなりの航空需要が存在します。 そうなると、ありとあらゆる都市の組み合わせについて、いちいち直行便を設定するのはあまりにも煩雑で、現実的ではありません。 需要が少なすぎて直行便が設定できない区間も多いでしょう。
そこで、1回の乗り継ぎを容認したうえで利便性を最大化しようとすると、おのずとハブ・アンド・スポークに行き着くのです。
なぜなら、ハブ空港を限定し、地方発着の旅客にハブ空港経由を強制することで、ハブ空港と地方空港を結ぶ路線(スポーク)の運行頻度を高めることができますが、このことは、旅客にも「移動チャンスの拡大」というメリットをもたらすからです。 「1日1便の直行便」と「1日10便の乗り継ぎ便」では、後者の方が旅程の自由度が高いですし、そもそも直行便を望むべくもないマイナーな区間ならなおさらです。
アメリカは国土が広く、飛行機による移動時間もおのずと長くなるので、乗り継ぎによる所要時間の増大は(全体から見ると)それほど重大な問題ではないということも考慮すべきでしょう。

さらに、航空会社にとっては、次のようなメリットも生じます。 というより、むしろ、これらのメリットのために大手航空会社がハブ空港を奪い合った結果が現在の姿といえるでしょう。

ただし、最近では、航空機の到着・出発が短時間に集中することによる空港業務の非効率や、ハブ空港が悪天候に見舞われたときなどの運航の混乱など、ハブ・アンド・スポーク固有の問題も指摘されています。 また、低運賃が売り物のサウスウェスト航空は、大手のハブ・アンド・スポーク化で失われた直行路線に小型機で参入することで成功しました。

日本の国内線でハブ・アンド・スポークが行われないのは、次のような点で航空需要の構造がアメリカと根本的に異なるためでしょう。

現在の日本の航空運賃制度では「乗り継ぎの運賃が単純合算のため直行便より高くつく」という問題もありますが、これは運賃制度を変えれば解決するので、本質的な問題とはいえません。
巨大空港

上空から見たサンフランシスコ空港 ハブ・アンド・スポーク型の路線展開を可能にしているのは、日本の空港の常識を超える「巨大空港」の存在です。
デルタ航空のハブ空港の一つ、アトランタ・ハーツフィールド国際空港は、その典型といえるでしょう。 航空機の発着するゲートは、ターミナルに隣接する1列のほかに、ターミナルビルと平行に、無人運転の地下鉄で結ばれた5列のサテライトがつくられていて、各々のサテライトには30ほどのゲートがあります(最も遠い1列が国際線用)。 そのうち、2列のサテライトをデルタ航空1社で占領している状態です。 滑走路も、ターミナルの両側に2本ずつ、合計4本の平行滑走路を備えています。 (写真: 上空から見たサンフランシスコ国際空港。2本ずつ平行の、4本の滑走路が見える)

また、そもそも路線設定がハブ空港での乗り継ぎを前提としているので、乗り継ぎの利便性も考慮されています。
日本の多くの空港では、出発客と到着客が明確に分離されていますが、アメリカの空港では、国内線については「出発」「到着」をあまり区別していないようです。 これも、乗り継ぎ利用が一般的であることと関係あるのかもしれません。

航空機の離着陸の風景

航空自由化先進国の運賃事情

アメリカの航空運賃は、早くから自由化されていて、競争が進んだ結果、一般客には理解不能なほどに複雑化しています。
ビジネス客以外の利用者にとっては、普通運賃など(高すぎて)あってないようなもので、ほとんどの場合、事前予約運賃などの特別運賃で航空券を購入します。 もちろん、特別運賃には、「払い戻し不可」「予約変更は要手数料」「最低滞在日数」「日程に週末を含むことが必須」など、普通運賃にはないさまざまな制約条件が課されます。 この事前予約運賃も、「21日前予約」「14日前予約」「7日前予約」など、予約期限や制約条件によって細かく分かれていて、おまけに激しい競争によってしばしば変動するので、実際に適用される運賃は、窓口に行ってみないとわからない、要するに、一人ずつ窓口で値段の交渉をしているような状態です。

また、乗り継ぎを前提とするハブ・アンド・スポークの路線展開が行われているため、乗り継ぎ路線の運賃も戦略的に設定されています。
たとえば、次のような状況を考えてみましょう。

ここでX航空は、b-aとa-cの2区間については、直行便の利便性を売り物に高い運賃を設定します。 一方、b-a-cの乗り継ぎ路線については、利便性の点でY航空のb-c直行便に劣るので、競争上、大幅に安い運賃を設定します。 その結果、「b-a-cの運賃がb-aやa-cの運賃より安い」という逆転現象が起こります。
このような現象は、アメリカの国内線ではごくあたりまえに起こっています。

イールド・マネジメントという思想

アメリカの航空運賃がこれほど複雑化している背景には、航空会社の徹底した「イールド・マネジメント」の戦略があります。

飛行機というのは、満席で飛ばしてもカラで飛ばしても同じコストがかかります。 したがって、空席を残すぐらいなら(たとえ原価割れであっても)格安の運賃でお客をかき集めた方がまし、ということになります。 これは、スーパーの惣菜売場の「おつとめ価格」と同じ考え方です。
しかし、すべての旅客が原価割れの格安運賃で乗ったのでは、その飛行機を飛ばすコストを回収できません。
そこで重要になるのが、イールド・マネジメント(yield management/歩留まり管理)という考え方です。

航空市場には、「ビジネス旅行の需要は出発直前に急増する」という性質があります。 ビジネス旅行は、出発直前までスケジュールが定まらないことが多いからです。
さらに、これらのビジネス客は、割高な普通運賃を支払う意思を持っています。 これは、ビジネス客が「出発直前まで空いている座席」に対して、きわめて高い価値を認めていることを意味します。
飛行機の座席がスーパーの惣菜と大きく異なるのは、まさにこの点です。 すなわち、閉店が近づくにつれて価値が下がるスーパーの惣菜とは逆に、飛行機の座席は出発直前まで価値が上がり続けるのです。 したがって、「閉店(出発)間際に値下げして売れ残りを放出する」という手法は適切ではありません。
そこで、逆に普通運賃のビジネス客だけでは埋まらない座席の数を予測しておいて、その分を先に「おつとめ価格」で観光客などに売ってしまう、という方法を採るのです。 これが「事前予約運賃」の基本的な考え方です。
そのうえで、高い運賃を支払ってくれる旅客を最大限確保しつつ空席を最小限にするために、事前予約運賃に割り当てる座席数を、需要の変動に応じてコントロールするのです。
この戦略、すなわちイールド・マネジメントの巧拙が、航空会社の収益を大きく左右するのは、言うまでもありません。 そのために、各航空会社は、コンピュータによる予約管理システム(CRS/computer reservation system)を駆使して、刻一刻と変化する需要に対応してきめ細かな座席のコントロールを行っているのです。

ちなみに、CRSによる予約管理は、「予約クラス」と呼ばれる予約優先度の階層に基づいて行われています。 同じエコノミークラスの座席であっても、CRSの内部では、普通運賃・割引運賃・団体運賃・無料航空券など、支払われる運賃の水準に応じて、5〜10段階もの予約クラスに細分化されているのです!

ところで、ビジネス客から確実に普通運賃を回収するためには、ビジネス客が割安な運賃に流れることを食い止めなければなりません。
そのために、割安な事前予約運賃は「払い戻し不可」「変更不可」「最低滞在日数」「週末滞在」など、ビジネス客にとって不利な制約条件と抱き合わせにしているのです。 ビジネス旅行において「旅程の柔軟性」はきわめて重要な条件なので、ビジネス客はこれらの制約を受け入れようとはしないでしょう。 しかし、観光客にとってこれらの制約はあまり重要でないので、安い運賃を提示することで観光客を呼び込むことができるのです。
逆に言うと、割高な普通運賃というのは、「出発直前まで予約を確定しなくてよい」「旅程の自由度が高い」という、ビジネス客が求める(しかし、観光客にとっては過大な)「特権」の対価と考えることができます。

(注) 「出発直前に値下げして売れ残りを放出する」という方法も、全く行われていないわけではありません。 低運賃が売り物のサウスウェスト航空などでは、1週間ほど前の時点で売れ残ることが確実な座席のバーゲンを行っています。

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