
| 初級の映像調整入門 |
① 映像調整用テストパターンを入手しよう ② テレビ画像と映画画像の違い ③ 「ブライト(明るさ)」と「コントラスト」で調整しよう ④ 色の調整も少し おまけ 「千と千尋の神隠し」の色は・・・・ |
| 僕は最初は音楽から入って、やがて映画も大画面・サラウンドで見るようになりました。ですので、趣味の基本は今でも音楽再生が中心で、映画はおまけのような感じがあります。こうしたスタンスにはそれぞれの違いがありまして、映画中心の人はやはり映像重視なるようです。実際、人間の構造を考えてみても聴覚より視覚が優先しているのは誰でも感じることです。映像が大きく美しいほど、体感としての印象も確実によくなることがわかっています。しかし、この映像というのは視覚が敏感なだけに、音楽よりも調整が複雑で難しいのが何とも歯がゆいところです。人間の特性は敏感さの反対に、何にでもすぐに慣れるあいまいさが特徴ですが、音楽にしろ、映像にしろ、中途半端でも結構すぐに慣れてしまう悲しさもあります。音楽中心派も、映像中心派も、ようはどこまでその調整にこだわるかというのが、その人なりのバランスなのかもしれません。僕は先の通り音楽中心派ですので映像の調整はかなりおおらかです。こだわり派の方はより深く、複雑な機能を使いこなして美しい映像を再現していかれますが、僕のように「とりあえずそこそこに楽しめればいいなぁ」という方のために、簡単調整の仕方のご紹介もしたいと思います。プロジェクターにしても、テレビにしても最近はいろいろな調整機能がついていますが、各メーカーで違いがありますので、どこのメーカーでもできそうな調整ということで見ていただければとも思います。 |
| ② テレビ画像と映画画像の違い |
| 調整の前にテレビ画像と映画画像の違いを確認しておきましょう。映画はもともとが暗い映画館の中で投影されて映し出される映像です。そもそもがフィルムという特別な媒体で記録されているところからも、画像にその特徴が反映されています。映画の場合は実際にそれをあらかじめ考慮した絵作りをしているのです。テレビの映像はテレビ用のカメラでテレビ画面で見ることを前提で撮られていますので、一般に映画よりも鮮明で、光が強く、はっきりくっきりの映像になりがちです。このためテレビカメラの映像は映画に比べて映像の暖かみや深みがなく、味のないサラッとした映像になることが多いようです。こうしたテレビカメラで撮られたものをビデオ系の画像といって、映画用のフィルム系の画像と分けて考えるとよりわかりやすくなります。 ビデオ系の画像とフィルム系の画像の違いでよく言われるのは色の違いです。これは色そのものの違いというよりは、発色の違いです。テレビはそもそものブラウン管が光を発して映像を映しますので、同じ色でも明るくくっきりと再現します。ビデオ画像もこうした映像を生かすように発達しました。映画はフィルムに光を当てて、その光が白いスクリーンに映ることで映像が出ます。ですので、テレビ画面のようなくっきりさが出ません。色の再現も実はそれだけ不利になります。こうして色の発色が弱くなるのです。こうした発色の違いの基準を色温度と言ったりします(色温度は「白」の発色ぐあい(輝度)を基準にしたものです)。ビデオ系の画像のように発色のよいものは色温度が高く、鮮明に見えます。これに対してフィルム系の画像は色温度が低いとされるわけです。このため映画の再生にも色温度の設定を低くして再生する方が、より映画館に近い、監督が本来目指した映像に近くなるというわけです。日本のテレビの色温度は9600度でかなり明るく設定されています。一般にフィルム系の映像の色温度は6500度程度といわれます。 |
| ③ 「ブライト(明るさ)」と「コントラスト」で調整しよう |
| 映像調整の基本はこの2つです。映画のような暗い映像では「夜」や「黒い服」などの細かいところが見えにくくなります。同時に明るい色、特に白っぽい色の鮮やかさが表現しにくくなります。特に「白」の表現は全ての色の再生に関係するところです。「白」が「白」にならないのに、他の色がきちんと表現できるとは言えないからです。 このときに簡単ですが、おちいりやすい失敗は「映画」は暗くて見にくいから、「ブライト(明るさ)」を上げてやればいいだろうというものです。明るさを上げてやると確かに白い色もはっきりとしてきますし、暗い部分も見やすくなりますが、こうするともともとの映像の色が明るさによって薄められてしまうことが多いのです。その結果、監督が望んでいた映像とは違う別な映像のような味わいになります。これは映画のテレビ放映などでよく起こるもので、フィルム系の画像がブラウン管に映し出されると、妙にサッパリハキハキとした映像になってしまって映画館で見た感じとだいぶ違うなと感じたことのある人は多いのではないでしょうか。 映像の調整をするときは「ブライト(明るさ)」は「黒の再現性」にかかわり、「コントラスト」は「白の再現性」と関係があるようです。先のようにパッと考えると「ブライト(明るさ)」は「白」と思いがちですが、逆になります。考え方としては「ブライト(明るさ)」どこまで落としても暗い部分の見分けがつくか、逆に「コントラスト」をどこまで上げても明るい色の部分の見分けがつくかということです。発色の暗いプロジェクターの映像では暗い部分が見えなくなりがちで、これを「黒つぶれ」といいます。逆にテレビのような明るい映像では白い部分がまぶしすぎて見えなくなりますが、これを「白飛び」といいます。また、明るい映像の中では暗い部分まで明るい感じとなって本来の暗さが表現できなくなることを「黒浮き」といいます。逆に暗さがよく表現されていると黒が「沈んで」、深い感じの映像になります。テレビの例でいうと、「黒つぶれ」はおきにくいものの、「黒浮き」「白飛び」が起こりやすく、総じて発色がよすぎるために色も原色の再現が目立ちすぎて、深みのない映像になりやすいわけです。 さて、実際に調整するときは、まず色温度の設定ができるのであれば、映画を見る場合はこれを低く設定しておきましょう。これがそもそも本来の「明るさ」の基準です。もちろん、テレビのドラマやスポーツ中継を見るときのは色温度の高い設定にします。最近のわりと高価なテレビにはこうした設定がついていますし、調整のメモリーも数パターンはできますので、上手に使いましょう。 色温度を低くしたら、先に用意したテストパターンを使います。ここでは「白」と「黒」を問題にしていますので、「白」と「黒」を使ったテストパターン、「グレースケール」といいますが、これを利用します。白から少しずつ黒に近づいて色が変わっているものです。これを見ながら調整していくわけです。まずどちらも極端にズラしてみましょう。これが調整の範囲でもあります。調整できる範囲をだいたい確認したら、「コントラスト」を中央付近に戻して、「ブライト(明るさ)」を低い方に下げて行きましょう。どんどん下げて画面の一番黒い部分とその隣が見分けられる限界のところまで落とします。次に少し「コントラスト」を上げると、黒もまた少し見やすくなるのでさらに「ブライト(明るさ)」を下げることができます。こうしてどんどん下げていきます。同時に「コントラスト」は上げると白がまぶしくなってきますので、一番明るい白とその隣が見分けられるかどうか確認しましょう。こうして「ブライト(明るさ)」を下げ、「コントラスト」を上げながら、黒と白が見分けられるバランスのところに合わせれば基本の調整ができていきます。 |
| 「HOMETHEATER REFERENCE」(パイオニアLDC株式会社) DVDを使った調整用ディスク。ドルビーEXを使った音声調整から、画像調整用のさまざまなテストパターンが収録されている。その他にも映画の場面を利用したデモ画像も入っているので、続けて確認もできる。調整用に一枚は用意したい確認ディスク。 |
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| グレースケール ① 一番白い色から一番黒い色まで順番に変わる色の違いが確認できれるように「ブライト」と「コントラスト」を調整していく。 |
グレースケール ② 色味もグレースケールでチェック。白い部分の調整は「ゲイン」、黒い部分は「オフセット」で調整する。 |
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| グレースケール ③ こちらのグレースケールは右の白の部分が大きい。実際の映画では明るい部分と暗い部分が同時に現われるので、明部と暗部の差を確認する。明るい場面があっても黒の違いが見分けられることが大事。 |
カラーバー デジカメの特性で色が少しずれてしまった。右の青の下にあるラインは本来白になる。左も黄色のバーの横にさらに白と青が逆転したバーがある。発色の具合を見て調整する。 |
| ④ 色の調整も少し |
| 「白」と「黒」の調整は明るい部分と暗い部分の調整だけでなく、色の土台の調整でもあります。「グレースケール」をよく見ていくと、白と黒の調整をしながらも本来「白」と「黒」のはずが、赤みがかったり、青みがかったりしていることに気がつくと思います。これがもともとの再生装置の個性の反映になります。一般にテレビの画像は白が青みがかる傾向があります。プロジェクターでは映像を映すランプの特性で緑がかる傾向があります。「白」と「黒」を調整しながら、こちらの色味も直していくといいでしょう。ただ、一般には青みがかった映像はクールに、赤みがかった映像はホットな印象を与え、人の肌や雰囲気の再現に影響を与えやすいので注意します。色温度が低いフィルム系の白はやや赤みがかっているくらいが普通のようです。 ※もし、色調整で赤、青、緑の「オフセット」や「ゲイン」の調整ができるようなら、「オフセット」は黒色部分の色味を、「ゲイン」は白色部分の色味を調整するものと考えるとよいようです。グレースケールの各部分の色を見ながら、好みの色加減に仕上げます。映画用なら少し赤みの残る加減がよいかもしれません。また、「ガンマ」は一番明るい白と一番暗い黒をを維持したまま、中間部分の発色を助けますので、白飛び、黒つぶれがある場合は動かしてみます。 「カラーバー」のテストパターンは、本来は青のフィルーターを使って見ることで、色情報を落としておいて、両端にある青と白の輝度(発色の強さ)を整えるように「色の濃さ」を調整していくようです。うちには青のフィルーターがないので、そのまま見て色の輝きぐあいや濃さが過剰でないくらいに「色の濃さ」を落としています。 ここまでやったら今度は実際に映像を映して最終調整をしましょう。「グレースケール」では確認できても実際の映像では「ブライト(明るさ)」を下げすぎて黒つぶれが起こったり、「コントラスト」を上げすぎて白飛びが出やすくなっているかもしれません。実際の映像で確認して、ほどよいバランスであればよいわけです。 |
| おまけ 「千と千尋の神隠し」の色は・・・・ |
| 色の問題で最近話題になったのは「千と千尋の神隠し」ですね。この本編を見ますと冒頭の車で引っ越し先まで移動しているシーンで赤い感じが強く、我が家でも当初はプロジェクターの調整ができていなくて「夕焼けがかった赤い映像」に見えました。新聞でもこの映像についての疑問・苦情が多かったようです。 見比べてみるとわかりますが、確かに本編の画像は赤いです。冒頭のシーンが一番赤く、赤み自体はずっと続く基本カラーのように残ります。この冒頭のシーンは画像自体もどこか寝ぼけていて、スッキリしない感じもあります。テレビの方はブラウン管自体が明るいせいか、プロジェクターの映像よりスッキリはしていますが、色味がベターっとセルに塗られた感じが残る上に、少し白く霧がかった感じがあって、やはりよいイメージではありません。こうした映像が不満の原因だとわかります。 一方、予告の画像はどうでしょう。予告で見られる冒頭のシーンははっきり、クッキリと描かれています。特に目立つのは千尋の服の模様です。白と緑の横縞の模様になっていますが、この白が洗い立てのようにクッキリと輝いて見えます。他にも油屋で働く人たちの着物が真っ白になっていることもわかります。白以外の色もたいていがクッキリでメリハリのきいた画像で、赤よりもむしろ若干青みがかっているようです。でも、この予告編を見て、僕がパッと思ったのは「これはテレビアニメだ」ということでした。何もかもが蛍光灯にさらされているようなギラギラとした輝きと青みの方が強めに見える白。油屋のなかで働く人たちの姿もクッキリはっきりして、心なしかテンポも上がっているような気さえします。テレビを見慣れていれば、こちらがいつも見ているアニメ画像であると思うのはわかりますが・・・。 みなさんはどう思ったでしょう。実は僕は色の指摘があるまで予告編は見ていませんでした。そんなに違うんだろうかと思って見たわけです。正直その感想は、あいまいさやぼんやりさがない変わりに「あの不思議はどこへ行ってしまったんだろう」という思いでした。すでに本編の赤い画像に慣れてしまったからかもしれませんが、予告編の画像はクッキリ過ぎて不思議さや神秘さが全く感じられない気がします。湯婆婆のもつおどろおどろしい力強さも、油屋のもつ地の底から突然現われてきたような不思議な存在感も、予告編の映像にはないと思うのです。そして、千尋とカオナシが並んで座る電車の風景の中にあるあのノスタルジックな味わいも・・・予告編の映像にはどこにも見あたりません。 先にあげたような映像の調整をすると赤みは和らぎます。しかし、「千と千尋」本編を通して夕陽の赤さは残ります。夕方4時ぐらいの少し傾いた太陽の陽ざしです。冒頭のシーンの少し寝ぼけたような感じはなくなります。ベターっとした感じから逆に奥行きが出て立体感が感じられます。スッキリクッキリの画像ではありませんが、少しフィルムのノイズっぽいような雰囲気のある絵です。先に触れた霧のような感じは映画らしい空気感を作るためにわざと入っているようです。千尋とハクが最初に出会う橋の場面、夕焼けがにわかに迫ってくるわけですが、この場面あたりになるとさらに映像に真実味が帯びてくるように思います。映像がどんどん目覚めてきます。目が慣れたのか、こちらが物語の世界に入ったのか、もう赤さはあまり感じられないのです。それでも赤み自体は残っていて、このせいで映画全体の色調はどこかノスタルジックで独特な色の濃い色調になっているように思います。特に千尋がハクのためにカオナシと電車に乗って移動するシーンがありますが、この風景の味わいは一枚の絵画を見るような印象になります。これまで油屋のなかで展開されていた世界が急に広がって、不思議の世界の中にもまた暮らしがあること、広い海の中で転々とではあるけれど確かに人が息づいている雰囲気がただような奥行きのある映像になっています。電車の風景も木の温もりの残る昭和的なイメージに見えます。予告編で見るこのシーンはそのノスタルジックな味わいが失われ、現代にわざわざ復活させた旧式の路面電車にただ乗っているような味気ない映像になってしまいます。 ジブリの方も、この冒頭の場面は特に赤が強くなっていると説明しているようです。それは千尋の気持ちを表しているのだと。なるほど、そうなのかもしれません。言葉では「ブルー」というのかもしれませんが、最初の千尋は田舎の町への転校に不満いっぱいの少女でした。彼女の気持ちはよどんでにごっていたのでしょう。「千と千尋」は明らかに普通のテレビアニメ、特に現代の生活を舞台にしたアニメとは異なるイメージで作られたものだと思います。色味の濃さもわざとつけられているのです。僕は何度予告編を見てもあの映像で「千と千尋」の世界が表現できるようにはとても思えません。映像の調整ができると映像の淡さが奥行きになり、独特の空気感になるようです。予告編の映像が蛍光灯に照らされる日常の映像なら、本編は白熱灯に照らし出された人の存在感がにじむ映像といえるかと思います。 ※ジブリとしては「千と千尋の神隠し」は映画をきちんと再生するために色温度を映画のフィルムと同じように6500度に落として、さらに映画と近い色味になるように調整していると言っています。「千と千尋の神隠し」そのものが赤い色を基調にした映画で、色味の濃い映像に仕上げているのが本来の映像であるとのことです。 こうした映像調整が必用だという点でいえば、多くの人が電気店で買ってきたままのテレビで鑑賞している現状では問題があったと言われるのは仕方のないことかもしれません。現に僕もプロジェクターの調整を一からやりなおしてみました。そういう意味では批判もあるだろうと思います。しかし、映画としてどちらがよいかと言われれば、本編の映像はとても美しく味わいのある映像になっていると僕は思いました。こうしたものは好みにもよりますし(アニメ慣れしている子供には予告編がふつうなのかな)、一概には言えないんでしょうけれど、個人的には予告編の映像でなくてよかったと思います。もし「千と千尋」の映像に不満のある方は、せっかくですので、この機会に画像調整ぐらいはしてみてもよいかもしれません。調整後は映画用に保存しておけば、他の映画でも使用することができますし。 さらにおまけ 「千と千尋」のあとに発売された「天空の城 ラピュタ」はどうだったでしょう。こちらも買った人はぜひ見比べてみましょう。 「ラピュタ」の映像は・・・制作年が古いこともあるんでしょうけれども、こちらはきれいにテレビのアニメ映像そのものです。色はクッキリはっきりしていますが、セル画の映像です。「千と千尋」は色温度が低く、映画と同じ雰囲気で作られていますが、「ラピュタ」の方はテレビ並みの色温度になっているのではないでしょうか。映像調整をしたあとに見てもギラギラと輝いて、場面によっては「白飛び」も出てきます。人の肌の色も白っぽい色です。「千と千尋」の批判に合わせて作られたというわけではないと思いますが、こちらはこちらでちょっと残念な気がします。ただ、白のレベルを高くとっているので、雲の濃淡はよく再現されていて、特に「竜の巣」にパズーが飛び込む場面の黒のしまりはよく出ているようです。 さて、こちらの評価はどうなんでしょうか。。。。 |