■悪魔の考古学辞典

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悪魔の考古学辞典

 アメリカの作家アンブロース・ビアスAmbrose Bierce(1842〜1914?)に、『悪魔の辞典』The Devil's Dictionary なる警句集がある。その峻烈な風刺と逆説は、百年を経た後の我々をも切りさかずにはいないものがある。ニヒリズムの闇に浮かぶビアスの冷笑に戦慄を覚えるのは、私だけではないだろう。
 悪魔の嘲笑は、学問に対しても向けられていよう。伝統への安住、権威への盲従、政治思想への従属。悪魔の嘲笑に対して、真摯な学徒は怒りを隠すことはできまい。しかし、怒りとは外部に向けられるものである。激情はあとに何も残すまい。我々は、一度自分自身をつきはなしてみなくてはならない。そして笑ってみなくてはならない。自分自身を笑うことができたとき、そこに新しい生命の誕生がある。自嘲の笑いこそは、未来を築きあげる資格を持っているのである。

「悲しいかな! もはや自分自身を軽蔑することのできない、
もっとも軽蔑すべき人間の時がくる。」
—ニーチェ『ツァラトゥストラはかく語りき』—

いこう【遺構】
 動かすことができないもの。これを動かすには、『移築保存』と呼ばれる魔術を使う。

いれいさい【慰霊察】
 崇りを非合法化する作業。

きろく・ほぞん【記録保存】
 発掘のミスを永遠に葬るための最も合理的かつ簡便な方法。

こうこがく【考古学】
 文字のないのを幸いに、独創的な学説を精力的に生み出している学問。

こうこがく・こうざ【考古学講座】
 わが国の大学における、工学部土木工学科開発学専攻の最も主要なる講座。
 「遺跡の保存?関心ないなぁ。僕、とにかく掘りたいんです。」

こうこがくし・けんきゅう【考古学史研究】
 現在の学者に対する不平を、過去の学者に対してぶつけること。別名、死人に口なし。

ごえつどうしゅう【呉越同舟】
 考古学者と文献史学者の共同研究。

コンテナ【Container】
 プラスチックでできた棺。主として土器や石器のためにある。

さいし【祭祀】
 考古学上の用語で、わけのわからないこと。

さんかくぶち・しんじゅう・きょう【三角縁神獣鏡】
 「卑弥呼の鏡」という称号を持つ遺物。内実はけっこう粗製なくせに、そのレッテルのおかげで、実力以上に評価してもらえる幸せな品物である。別名、親の七光り。

じんぶつ・はにわ【人物埴輪】
 あんまり月夜には出n?会いたくない相手。踊っていたりしたらなお不気味。

せいえん・どき【製塩土器】
 酷使される現代考古学徒の象徴。粗製濫造、大量生産、火に投じられ、そして、割れるとすぐに捨てられる。

せんこく・へきが【線刻壁画】
 絵の具は買えなかったんだろうか?

じっそく【実測】
 初心者のための点とり実測、中級者のための半点実測、上級者のための無点実測の区別がある。

しゅちょうけん・けいしょう・ぎれい【首長権継承儀礼】
 ことわざ。なんの証明もないのに、みんなが信じているたとえ。

シュリーマン【Schlieman, Heinrich】(1822〜1890)
 金と考古学を両立させることのできた古き良き時代の偉人。

せいり【整理】
 発掘のミスをごまかす作業。

せっこう・ふくげん【石膏復元】
 女性の化粧に似たり。

せんしがくしゃ【先史学者】
 「歴史のない時代の歴史」を研究するパラドックス的超人。

そくりょう【測量】
 精密な器械を使って、あてにならない数字を作る作業。

だいはっけん【大発見】
 市民「こんなにすばらしいものが大昔にもあったなんて!」。
 学者「今後充分検討に値する貴重な資料である」。
 これだけでニュースができるんだから簡単。

たから・さがし【宝探し】
 秘密裏にやるのが盗掘。公然とやるのが発掘調査。

ちほう・おうこく・ろん【地方王国論】
 お国自慢。

ちょうさ・きかん・えんちょう【調査期間延長】
 予測できない事態のために、金と時間を無駄に使うこと。対策として、考古学実習のなかに占星術の講義をいれるべし。

とうくつ【盗掘】
 うらやましいのは報告書を書く手間がいらないこと。

とうくつ・や【盗掘屋】
 骨董屋には儲けを、収集家には満足を、そして考古学者には好き勝手なことをいう余地を与えてくれる人。「この古墳にはこれこれこういう遺物が副葬されていたはずなのですが、残念ながら盗掘がひどくてねぇ」。

トレース【trace】
 「真より美」。

はくぶつかん【博物館】
 役にもたたないがらくたの山を、さもいわくありげに並べて、素通りしただけで教養が増えるように思いこんでいる人達にみせる施設。

ほうこくしょ【報告書】
 書物でありながら読まれないもの。かと言って枕にもならない。

みずあらい【水洗い】
 土器についている土を洗って落とすこと。または、土についている土器を洗って落とすこと。

もっき【木器】
 「発掘は破壊である」という言葉を、身をもって証明してくれる遺物。

やまたいこく【邪馬台国】
 考古学者の桃源郷。探しにいったまま帰ってこなかった人も多い。

りろんてき・な【理論的な】
 厄介な。

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