さてもそれから
金髪のエロースさまは私に
貝紫の手鞠を投げて
刺繍のサンダルのあの乙女子と
戯れせよとけしかけなさる
けれどあの子は堅く構えたレスボス生まれ
私の白髪をあげつらい
ほかの娘に見惚れてる
「エロース」は愛の神のこと。
「他の娘」と訳した「アレーン」はLoebでは女性形になっていますが、男性形になっている写本もあるようです。レスボスはレズビアンの語源になった地名ですので、私は女性形で訳しました。
クレオブーロスの恋しさ
クレオブーロスに夢中
クレオブーロスを見つめる
ギリシャ語には五つの格(case)があります。この詩ではクレオブーロスという人名の属格、与格、対格が並んで出てくるところが面白味です。
うぶなまなざしの坊や
私は君を焦がれ求めているのに
君は気付きもしない
私の魂の手綱を握っているなんて
知りもしないで
どうして君は飛びまわるの
香油を塗ったその胸は
葦笛よりももっと空ろなのに
「ペテアイ」をD.A.Campbellはall of a flutter(震える)と訳しているのですが、これは一般的には「飛ぶ」を意味する動詞です。胸のうちに何の情熱も無いのに香油を香らせて浮薄に飛びまわる想子を少し非難するような意味合いの詩だろうと考え、そのように訳しました。
恋の賽
気の狂れた乱戦もよう
もっと長い詩であったはずですが、断片しか伝わっていません。