その5

わしじゃ。
今日はキコリの話じゃ。
キコリ?
沖縄出身の女性デュオではないぞ。
そりゃ、キロロでしょ!
いちいちムキになるな、軽いギャグじゃよ、ギャグ。
あんた、ギャグばっかでしょ!
・・・そうでもないぞ。

あるキコリが、いつものように森の中で樹を切っていると、不思議な獣(ケモノ)が
そばにやって来て、キコリの後ろに立ち、その仕事ぶりを見て笑った。
キコリが驚いて振り返ると、それは今までに見たこともない獣だった。
鳥と獣の中間のような生き物だった。そこでキコリは、生け捕りにしようと思った。
ところが、獣にはそれがわかったのか、
「お前、生け捕りにしようと思ったな」
と、人のことばをはなした。キコリは獣の言葉に驚きながら、しまったと思った。
「お前、しまったと思ったろう」
キコリは生け捕りにできないならば、この斧で殺してしまおうと考えた。
するとまた、獣は、それが手にとるようにわかるらしく、
「そら、殺そうと思ったな」
と言った。キコリは、こいつは何者なんだ、かなわない。と感じた。
「はっはっは、こう見透かされては、かなわんと思ってるな」
と笑う。
キコリはもうすっかりあきらめて、獣に構わず仕事を続けることにした。獣は、
「あきらめるつもりか」
と言った。しかし、キコリは獣の問いかけを無視して、樹に斧を振り始めた。
コ−ン、コ−ン
と乾いた音が森の中に響いた。
その時、
斧の刃と柄がゆるんでいたのか、キコリが力まかせに斧を振り上げた拍子に、
斧の刃は柄から抜け、キラリとひかりながら、ちょうど後ろにいた獣に向かって飛んだ。
ヒュ−。笛のような音をたてて、斧は飛ぶ。
斧の刃は「無心」である。何も考えていない。
獣は勢いよく、回転しながら飛んでくる斧の刃の動きが読めない。避けることができない。
斧は獣の頭を打ち砕き、獣は言葉を発する間もなく、死んだ。・・・

話はそれでおしまいじゃ。

仙人、その獣は、
獣の名は、「サトリ」じゃ。・・・

よいか。セージ。釣りも同じじゃ。
例えば、お前は、悩んでいたキャスティングで、
手首を閉じてループを作れるようになったとか、
いままでわからなかった、リトリーブの当たりがとれるようになったとか
言っておるじゃろ。

できた、わかった、悟った、というのは、実はまだまだなんじゃ。
悟ったというのは究極ではない。それを超越したところに、「じじい」の釣りがあるんじゃ。
なにも考えずに、「無心」で、呼吸をするように釣りができなければいかん。

修行に励め・・・今日はここまで。

なんか、いつもの仙人じゃない〜
Kingfisher注記: 仙人のキコリの話は、司馬遼太郎先生の
「北斗の人」(角川文庫刊)の挿話を基に、
道場風にアレンジしたものです。
ちなみに、「北斗の人」は剣の極意を求める
若き日の千葉周作の物語です。

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