音楽・道楽
「確認音源 ”土と水”」を聴く

土と水

「確認音源・”土と水” Duo In 萩」 Cryo
(販売 コスモヴィレッジ ローカルメールオーダー CD 

演奏:井上博義 Bass           
藤井政美 T,Sax&S,Sax

Produce&Recording&MasteringEngineer:山本紘市
AssistantEngineer:神戸貞幸
Photo&Design:山澤 渉


1.12th.Blues
(坂高麗左衛門先生に捧げるブルース)
2.Cinema Paradiso
3.Summertime
4.I’ll CloseMyEye’s
5.Mood Indigo
6.Willow Weep For Me
7.凪のバラード


オーディオの不安
 オーディオの世界は主観の世界です。僕が「立体的だ」と言っている我が家の音も、他の人からすれば「なんということはない」かもしれません。そこそこに聴こえているつもりでも、個性ばかりが強くて、本来の再生されるべき音とはずいぶんと違って聴こえているかもしれません。AVアンプに多チャンネル、CDとDVDを兼用するプレーヤーで構成されている我が家です。純粋に突き詰められたピュア・オーディオの世界の方から見れば、たいした音でないと言われても仕方がない要素がたくさんあるわけです。近くに同じ趣味の友達かいるとお互いの音を聴いてどんなものか判断もできるのでしょうが、僕のまわりにはそうした人がいないので、この音の基準というものがなかなかわからないでいます。良くも悪くも自己満足な音なわけです。これはやっぱり不安です。「音楽・道楽」なんて書いてますが、マニアの方から見ればこんなぐらいの音だろうと、すでに想像がついておられるかもしれません。

 僕は「マニアにはなれない」と言われたことがあります。大学の頃はどういうわけか「マニア」とか「おたく」と言われるような友達が何人かいました。でも、彼らは口をそろえてそういいます。実は僕もよくわかります。僕は収集することも、それを整理することもあんまり興味がないのです。そもそも覚えるということをしません。JAZZが好きだとずっと書いていますが、JAZZの世界はいろんな有名な人がいて、有名な演奏というのがたくさんあります。名盤といわれる代表的なレコードがたくさんあるわけです。ですが、僕はそれが全然わかりません。アルバムを聴いても、アルバムのタイトルはもちろん、曲名も、細かい演奏者も全く覚えないからです。もう最近はCDもジャケットの写真を見るだけで、ライナーノートなんて全然読みません。僕の財政からいっても発売されるものを全部買い続けることなど最初からできませんので、雑誌やインターネットなどで推薦されているものから、面白そうなものを買うので精一杯です。買って、聴いて、好きになったら何度も聴く。自分に合わないものは聴かないという単純な分類なわけです。こういう人間はマニアになれません。JAZZが好きだといいながら、JAZZの細かい、詳しい話題についていけないのです。
 オーディオにもこういうところがよく反映されています。オーディオに凝っている人は、音がきちんと再現されるかが重要ですから、そもそもの録音がよく、音のバランスがきちんとチェックできるCDを何枚かそろえていたりします。録音がよいといわれる代表的なCDもいろいろあります。そうしたものを聴いて、高音がどこまで伸びているとか、低音の出方がどうだとか、実際の音の感じと聞き比べたりして調整しています。中にはガラスの割れる音や花火の音、太鼓の音などでリアルさをはかっている人もいます。でも、ずぼらな性格の僕はこうしたものも持ってないのです。気になったところを修正はしますが、それも気が向いたときに、大雑把に、というのがスタイルです。ここまでいろいろ書いてきて、なんだ今さらとあきれる人もいるかもしれません。そんな中途半端なのかと・・・。
 そうなんです。中途半端なんですな。マニアにはなれないんです。


「確認音源」
 しかし、インターネットの普及も進み、オーディオというマイナーな趣味にも情報がいろいろとはいるようになりました。趣味の世界は深いもので、さすがにマニアといわれる方々のホームページは進んでいます。これまで雑誌ぐらいでしかお目にかかったことのないような方のホームページもあります。こうしたところを見ていると上のCDが紹介されていました。肩書きも「確認音源」となっています。このCDをいかに再生するかで、自分がそろえ、調整したオーディオ装置の判断基準になるというのです。このCDがうまく再生できるように調整していけば、オーディオ装置としてのレベルが上げられるといいます。これを作ったのは超マニアの方です。手作りです。CD−Rを一つひとつ焼くんだそうです。オーディオのチェックをするために作り上げたわけです。ちょっと怖いです。でも、それほどまでのこだわりがあるのなら、聴いてみたいという気持ちもわいてきます。マニアの音には近づけないけど、どんな風に聞えるのか、一度は聴かずばなるまいと決心して購入してみた次第です。

 このCDの解説をしておきます。これが「確認音源」になる理由。それは録音の方法に秘密があります。通常、CDの録音はスタジオに入り、それぞれの楽器に対して何本かのマイクを設置して、それぞれからとられた音をミキシングして(中には反響をとるために演奏者に向かず壁に向かったマイクなども使用したりします)、音量や方向などのバランスを整えて、最終的に一つの演奏にしています。近くで演奏するとお互いの音が、それぞれのマイクに入って邪魔になる場合もあって、そういうときには各演奏者が離れるか、一人ひとりが専用のブースに入ってとる場合もあります。実際のステージやジャケットの写真のようにみんなが近くでそろって演奏するとは限らないのです。いずれにしても最終的に機械で全部の音を合わせて演奏を作り上げるわけです。歌の下手な歌手の場合は、こうした段階でうまく歌えた部分だけを切り張りして一曲にしたり、声そのものを調整する機械を入れて、細工したりしています。また、ジャズでもクラシックでも録音のマイクの位置などを見るとかなり不思議なものです。グランドピアノはふたを開けたその中にマイクが入れられていたりします。管楽器でもラッパのすぐ先にマイクがあります。普通の状態で聴く音とは絶対に違うはずです。しかし、実際にこれがCDになり、ステレオから再生されるとコンサートホールの響きも豊かな名演奏に聴こえるわけです。ですので、多かれ少なかれ、私たちはやはり作られた演奏を楽しんでいることになります。

 「確認音源」のCDは、この疑問から出発します。録音の方法をワンポイントというものにします。マイクを1セットだけ(マイクを耳に見立てるので2本一組)でとっています。しかも、ミキサーやアンプなどよけいな機械は一切通さず、そのマイクでとれた音だけをストレートに録音します。先の説明の通り、普通、こうしてとりますと各楽器の音量などが合わなかったり、音が混ざり合って音楽にうまくまとまらないわけですが、ここにプロの力が必要になります。音楽としてバランスがとれるように楽器の位置を調整して、演奏がそろうベストポイントを探すのです。演奏はベースとサックスの2つ。ベースがマイクの前方1.5メートルの位置。音の大きいサックスはベースよりやや左でマイクから6メートルの位置に立っています。会場は普段は陶芸を焼いているスペースを借りたそうで、コンクリートで作られていますが、かなりの広さです。天上も高いので、音は自然に響きます。また、窓を開けていてそこか入る周囲の雑音もかまわず録音されています。つまり、いろんな意味で「生」そのまんまにとったというわけです。マイクの位置が耳となり、それがその通り再現されるかどうかで、オーディオ装置のよさ、使いこなしが判断できると考えます。


さて、どう聴こえるんだろう・・・
 怖いです。これを聴いてもガッカリするだけかもしれない。しばしケースを見て考えました。でも、もう聴くしかありません。そもそもがピュアじゃないんです。人間もずぼらなんです。オーディオの装置しかり、部屋もしかり。うちの部屋はスピーカーの右側には空間があり、左側には布団が入った押入れがあるアンバランスな形です。もうずっと左右のバランスがとれないことに苦しんでいるのです。最近は、そこそこのバランスで気にしないようにしてきました。それが現実です。それは仕方がありません。それならそれで、マニアの基準だけは聴いておこうと覚悟を決めます。

1曲目
 CDの解説では演奏が始まるとすぐに「セミの声」が聞えると書いてあります。「セミ」です。この「確認音源」、「セミ」や「鳥」やその他の周囲の雑音がいろいろと入っているんだそうです。普通なら生どりしているベースやサックスの音がどう聞えるか、ワンポイント録音が特徴ですから、楽器の直接の音もそうですが、楽器同士の距離感や部屋の響きの感じなどを聴きます。これももちろん大事です。しかし、この「確認音源」ではさらに周囲の雑音がいかに自然に、それらしく聞えるかということが大事なんだそうです。「セミの声」や「鳥の声」、演奏終了後の拍手の感じなどが解説に書いてあります。

 で、CDが始まって「セミの声」が聴こえるか・・・。ベースから入るこの曲。激しく力強い演奏が始まります。さすがにクリアな音です。しかし、「セミ」は・・・わかりません。ダメです。素直にガッカリします。やっぱり我が家のシステムでは細かい繊細な音はうまく再生できないようです。

 それともっと気になったのはベースの位置。「ほぼ中央」と解説にはありますが、これもうちでは中央から少しズレます。身体のラインでいうと右肩の位置ぐらいからやや外に向かって弦のはじく音が聞えます。ベースの固定観念があるせいか、心なし斜めに傾いた感じもしたりします。それに対してサックスは「やや左」の位置と解説されています。こちらは左にありますが、思ったより左ではないように感じます。おそらく響きの関係があるのだと思いますが、中央の方に回って聞えることもあります。身体のラインでいうと左目ぐらいからもう少し外の位置にあるように感じます。サックスは距離が奥なのでベースよりも音が広がってくるでしょうから、ベースの位置が固定して聞えるのと違い、サックスの位置はラッパの向きや反響によって定位は広がって聴こえるのかもしれません。いずれにしても解説に比べると、我が家で再生された音は全体に右よりになっている気がします。ベースがやや右で、サックスの方が中央に近いわけです。我が家の左右のバランスの問題が気になります。それでもベース奏者の井上さんが高揚して声を上げるときがありますが、この声はベース中央近く聴こえはするのですが・・・(ときおり右や上を向くのか、身体が動くのか、声の位置も動くようです)。

 距離はベースが近いです。サックスはそれより数メーター後ろに感じます。我が家の音は前に出るように調整してきましたので、ベースはスピーカーの面より前に、サックスはスピーカーの面より後ろです。響きの感じは録音現場の広さから想像するより少ないように感じます。特に上に伸びる感じがうちではあまりありません。これも我が家の問題でふた部屋を一つにつなげて使っていますので、試聴位置の前方上部にふすまをはめる鴨居が張り出しているのです。これが響き、特にその天井の高さなどの再現を難しくしているのではないかと思います。ベースは直接的な明確でしっかりとした音、サックスはベースより間接音が多めで、部屋の響きと絡まった音という、ちょっと音色の違った面白い構成でもあります。

3曲目
 「セミの音」と「鳥の声」。実は1曲目も少し聴いていると「ジィーーーーーー」というノイズっぽい音がしている感じはあります。でもハッキリとしません。気のせいといえば気のせいという感じです。「ピッ、ピッ」という音もある気はします。これが「鳥の声」でしょうか。それが2曲目になって、このノイズは「確かにあるな」という感じにはなってきます。

 さらに3曲目になると演奏もソロではじまり、「セミの声」「鳥の声」は最初から入っているのがわかります。「ああ、セミかぁ」と、「言われればそうだなぁ」という感じです(言われてないと演奏がよいので聞き逃しますし、ラジオや電気製品のノイズっぽいのでCDから出ているかどうかわかりにくいです)。0分30秒あたりになると、先の「ジィーーーーーー」という声よりやや手前ですが、左のサックスよりやや内側の奥の方で「ミィミィミィーー」というハッキリと感じの違う「セミの声」が入ってきます。こちらは「セミらしい」です。ちょっとホッとしたりします。「セミだ、セミ!!!」とウンウンとうなずきながら、目頭を押さえたりします。よかった、これで多少なりともマニアに近づけたかも。

 でも、それもつかの間。このセミの声はだいぶわかりやすく聞えます。これぐらいならどこでも聞えそうだなと素直に思い直したりもするわけです。僕のように聞えたか、聞えなかったかぐらいで一喜一憂される方のために、こうしたわかりやすいものも入っているんじゃないか・・・。「セミの声」はこれ以降演奏にまぎれたり、切れたり、強くなったり、場所を変えたりしながらも、最後の曲までずーっと聞えるようです。聴く方もセミの声をつかんだので判断しやすくなるのでしょう。演奏の周囲を大きな天使の輪が囲んでいるように(あるいは未確認飛行物体の円盤が上の方で回っているように)聴こえます。解説では「天から降りそそぐように」聴こえるとよいのだそうですが、「降りそそぐ」ほどにも我が家は聞えません。さぁ、よわった、わからなくなってきました。どのセミがいいんだ? こんな聴こえ方だと、どこをどうしたらいいんだろう。フツフツと自信のなさが顔を見せてきます。セミは右で「ジィーーーーーー」、左で「ミィミィミィーー」と鳴いています。他にも別なセミかいるようです。セミとわかっているからセミで、僕の耳にはノイズっぽい感じの方が正しいでしょう。もっときちんと再生されれば、これがより自然のセミっぽく、天からふるように聴こえるのかなぁと思ったり・・・。オーディオの迷宮に落ちていきます。

4曲目
 この曲では見事な演奏のあとに拍手がわきます。部屋のかなり奥の方から最初の歓声を上げるのはオーディオ界で有名な江川先生らしいです。単に手を叩く音が小さいのではなく、輪郭はぼやけて聞えますので部屋が奥に伸びてるんだなと感じます(解説では廊下が折れていて、声が迂回して届いているそうです)。パラパラとそのそばから拍手が起り、次にパッと左前にも1人現われます。距離はベースと同じくらいでしょうか。他の人の拍手が間接音なのに対して、この拍手はより直接的です。自分の他にもそばで聴いてた人がいたんだなと思えます。

7曲目
 最後の曲です。「セミの声」「鳥の声」もここまでずっと入っています。「セミの声」はときおり調子や聞える場所の違うものがいたり、鳥も右から中央を横切って行ったり、曲が進むにつれて、外の様子も変化していく感じがします。

 演奏は全編にすばらしい演奏が続いています。近いベースの音はハッキリと弦の震えまで聴こえ、サックスも時にストレートに力強く、時にホールの響きを残しながらベースとからみ合っていきます。演奏の熱さ、激しさ、汗の飛ぶ感じも伝わるようです。僕は明確な直接音が好きで、このベースの弾む力強さにひかれます。
「セミの声」「鳥の声」はオーディオのチェックにはいいですが、やっぱりこの演奏を聞き逃しては損だと思います。そう思うとさっきの心配も少しは薄れてくる気もしますし・・・。どだい我が家はそもそもの遮音も弱く、近所の子供の声やら車の声まで筒抜けですから、細かい音を探すことに無理があるのでしょう。スズメの「ピィ、ピィ」鳴く声などは我が家のまわりではいつもありますので、よけいこんがらがってしまいます。繊細な表現を追求するには、それなりの空間も必要というものです。こちらについては、そう言い聞かせます。

最後に・・・
 「確認音源」を聞き終わりました。この記事を書くのにすでに何度も聴いてはいます。「セミの声」もつかんだので、1曲目でもかすかに感じられる気はします。でも、「セミ、セミ」と追っかけるから、何でもそんなふうに聞えるのかもしれません。実は細かい音を聞くためにいつもよりボリュームも少し大きめにして聴きました。無理して探すようでは、それだけのレベルだというのが実情でしょう。いろんな疑問がわき、迷宮は迷宮のままではあります。やっぱり他の人のところでも聞き比べてみたいです。この記事を書いたのは他のシステムではどう聴こえるのかわからなかったからでもあります。我が家ではこう聴こえる、もっとこんなふうに聴こえるんですよ、こういうところをよくするともっとよく再現されますよ、ここが悪いとこうなるんですよ、なんてポイントがあったら教えてほしいのです。そうすると我が家の音ももっとよくなるのではないかと思います。

 それと実はもう一つ興味があることを感じています。このCDは確かに録音がよいというのは聴いてすぐにわかります。ベースの音はかなり直接的で鮮明で、これがアンプやミキサーを通さないストレートな感じと言えば「なるほどなぁ」と感心したりします。しかし、それ以上に、このあとに普通のCDをかけると、演奏の雰囲気がかなり違うことに気がつくのです。これまで「いい演奏だなぁ」「いい音だなぁ」と思っていたCDが、どこかぎこちなく、「あれ、本当にこんなふうに聞えるんだろうか」と疑問がわくのです。演奏が悪いのではないのです。録音のせいです。さっきの「確認音源」の音に比べると、楽器を切り張りして並べたような感じがよくわかるのです。「確認音源」はワンポイント録音という手法です。他のものは程度の差はあれ、音を合成して(ミキシングして)作られています。このことは理屈ではわかっていても、私たちはすでにその作られた音になれています。それが普通のCDの音です。でも、この「確認音源」の音を聴いてから、いつものCD聴きなおすと、「何か違うぞ」と思えてくるんです。こんなふうに楽器が並ぶんだろうかと。さて、この違い、どう受け止めればよいのか・・・。普通のCDもしばらく聞いていれば、それも気にならなくなります。なれた音に違いはありません。サックスの音が近く明確になるのは普通のCDであり、これはこれで魅力です。しかし、本当のホールの響きはそうならないこともわかりました。こうして比べると「確認音源」の方が現実に近い感じだとわかります。ワンポイント録音が少ない現状では、「確認音源」の方が特殊なCDとなります。でも、こうした方法がもっと盛んに行われて、たくさん出回ってくれることを、僕は願います。そうすればもっとこうしたこともわかるでしょう。いろんな意味でとてもよい体験でした。「確認音源」のもう一つの功罪が、こんなところに隠れていたんですね。オーディオはますます奥の深いものです。

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