付:古典ギリシャ語初級文法書の比較

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 日本語で書かれた古典ギリシャ語初級文法書のうち、手に入りやすい本について、以下の項目について比較しました。

  値段 独習 変化表 詳しさ 索引 備考
1 アモロス ×  
2 荒木 × × 韻文
3 池田  
4 河底 × × × × 韻文
5 高津 × 形態別目次。正仮名遣い。
6 田中利 × 練習問題が新約聖書
7 田中秀 × × 英語索引。正字。
8 田中美 ×  
9 古川 形態別索引。
10 水谷 ×  
  1. M・アモロス『ギリシア語の学び方』(南窓社)
  2. 荒木英世『エクスプレス古典ギリシア語』(白水社)
  3. 池田黎太郎『古典ギリシア語入門』(白水社)
  4. 河底尚吾『ギリシア語入門』(泰流社)
  5. 高津春繁『基礎ギリシア語文法 文法篇・読本篇』(北星堂書店)
  6. 田中利光『新ギリシャ語入門』(大修館書店)
  7. 田中秀央『初等ギリシア語文典』(研究社)
  8. 田中美知太郎・松平千秋『ギリシア語入門』(岩波全書)
  9. 古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林)
  10. 水谷智洋『古典ギリシア語初歩』(岩波書店)

値段

 現在、平均的な値段は3500円前後です(表中の○)。

 河底尚吾『ギリシア語入門』は突出して高く、現在7000円。しかし韻文に力を入れるなど、他の本には無い特色があるので、人によっては便利です。古川晴風『ギリシヤ語四週間』もやや高め。しかしそれだけの内容はあります。

 最も安いのは田中秀央『初等ギリシア語文典』でしたが、現在では新刊書店では手に入り難くなっています。次が田中美知太郎・松平千秋『ギリシア語入門』。荒木英世『エクスプレス古典ギリシア語』も2500円と安めですが、別売りのテープを買わないと魅力半減。ほかの条件を考えあわせると、田中美知太郎・松平千秋『ギリシア語入門』(岩波全書)がお買い得でしょう。

 なお価格はときどき変わります。現時点での値段は、ウェブ書店で確認できます。

独習者への配慮

 朗読テープと練習問題の解答例の有無から検討しました。韻文を朗唱したい場合は発音も重要ですけれども、散文を読みたいだけならテープは必須ではありません。

 解答がついているのは次の文法書です。

 荒木英世『エクスプレス古典ギリシア語』は、必要最小限の文法事項にしぼって解説しています。一通りギリシャ語を眺めるのには便利だとはいえ、実際に訳読を進めるにはもう一冊別の本が欲しくなります。学習を続けるつもりであれば、池田黎太郎『古典ギリシア語入門』(白水社)を買ったほうが、結局は安上がりでしょう。

 テープが要らないなら、古川晴風『ギリシヤ語四週間』も選べます。内容も詳しく、参考になるところの多い文法書です。

 高津春繁『基礎ギリシア語文法 文法篇・読本篇』は、二冊の本を合冊にしたもの。文法篇で基礎事項を通読した後、実際のギリシャ語のテキストを訳読しながら文法事項を確認するつくりで、読本篇には詳しい解説と訳文がついています。ただし、変化形の活用練習や短い文については、解答はありません。他の本で一通り学習してから、長文読解の練習に使うと便利。

 なお、『基礎ギリシア語文法』には、現在入手困難な中級文法書、高津春繁『ギリシア語文法』(岩波書店)の一部が収録されているのも魅力。ただし、『ギリシア語文法』は現代仮名遣いです。

変化表の見やすさ

 ギリシャ語は一つの言葉がじつに様々に変化します。訳読の際には、変化表を何度も参照することになりますので、変化表のつくりは重要です。表だけまとめてあると便利ですが、そうした付録の無い本もあります(表中×)。また付録があっても変化表の途中で改頁されて、見づらくなっているものもあります(表中の△)。

 変化表については、M・アモロス『ギリシア語の学び方』(南窓社)が群を抜いています。変化表は頁ごとに収まり、しかも変化表と語彙集だけが別冊になっているので、軽く、扱いやすく、本文を見ながら語彙集や変化表を参照することもできます。ただし、活字には癖あり。

 別冊にはなっていませんが

の変化表も上手に組んであります。変化表の部分をコピーして綴じれば(※)、上記の本と同等の使い勝手が得られます。荒木英世『エクスプレス古典ギリシア語』の変化表もきれいです。ただし、訳読の参考にするには内容がやや簡単すぎます。

 ※ 普通に和綴じにしては使いにくくなります。印刷されている側を内側にして折り、白紙の側同士を糊で貼り合わせて、元の本と同じ状態になるように整えます。

内容の詳しさ

 荒木英世『エクスプレス古典ギリシア語』はだいぶ簡単に書いてあるので、表中では×で示しました。しかし、詳しくないからだめだとは言えません。言葉を変えれば、文法事項が厳選されているということです。目的に応じて使い分ければ良いでしょう。詩形の説明があったり、簡便ながら韻文も意識した作りになっています。

 河底尚吾『ギリシア語入門』は、著者の個性が強く表れた本で、詩形について説明する節があったり、韻文を意識した内容になっています。詩を読みたい人向き。

 高津春繁『基礎ギリシア語文法 文法篇・読本篇』も詳しめ。ほかの文法書のように漸進的に学習するのではなく、名詞や動詞など形態別に説明されています。これ一冊で勉強するにはとっつきにくいですが、他の本で勉強した後の、記憶の整理用・読解力養成用として頼りになります。

 古川晴風『ギリシヤ語四週間』(大学書林)は、教科書用ではなくて、独習者を意識した内容になっています。教室でなら指導者が補足するような事柄が、注の形で解説してあって参考になります。

索引の使いやすさ

 漸進的に学習を進めるタイプの本については特に、事項索引は重要です。表中○をつけた本には、五十音順の事項索引がついています。一方、索引がまったく無いものもあります(表中の×)。

 高津春繁『基礎ギリシア語文法 文法篇・読本篇』には索引はありませんけれども、本文解説が形態別になっているので、目次を形態別索引として使うことができます。

 古川晴風『ギリシヤ語四週間』の索引は五十音順ではなく、名詞や動詞などの形態別です。しかも簡略。初学者には使いづらく、この本のほぼ唯一の欠点となっています(※)。

 田中秀央『初等ギリシア語文典』は、本文中でも文法用語を英語で表記していて、索引も英語で引く形式。英語が苦手な人には使いづらいでしょう。しかし、英語で書かれた中級文法書に違和感無く進めるという利点もあります。

※ 2002/10/01 追記。
 上記の点が残念だったので、古川晴風『ギリシヤ語四週間』の索引をcsv形式のファイルにしました。お好みの状態に並べ替えてお使い下さい。

 「アオリスト中間態」でも「中間態アオリスト」でも、どちらでも引けるように項目を重複させてあります。数字は(節番号ではなくて)頁数です。

最終更新日: 2002年10月5日   連絡先: suzuri@mbb.nifty.com