
| ITU−Rを目指せ!!! |
| ITU−Rを理解する サラウンドの規格にはジョージ・ルーカス監督が設立した映画制作会社が中心となって提唱しているTHXという規格と、ドルビーサラウンドでよく使われているITU−Rという国際規格が存在しているということは、これまでにも触れてきました。どちらも主張があって、それぞれによいところもあるのでしょうが、映画でのドルビーサラウンドを始め、音楽でのマルチ再生も含めるとITU−Rの方が採用されている率も高く、標準仕様と考えてもよいようです。 この2つはどちらも真後ろのバックスピーカーを1本とすると、フロント、サラウンドが2本ずつ、センター、バック、そしてサブ・ウーファーとなって計6.1本必要なことに変わりはありません。では何が違うか、というと、サラウンドを担当するスピーカーの位置に違いがあるわけです。THXはサラウンドスピーカーを左右真横の位置に置く。ITU−Rはこれを斜め後ろの位置に置くというものです。考え方でいうと、THXでは後ろの音はパックスピーカーがあるからそちらに任せて、横の音を補強しようという考え方でしょう。横に置くスピーカーは前後のつながりをよくするために普通のスピーカーではなくて、音の拡がりを意識して作られた特殊なダイポール型と呼ばれるスピーカーを使うように勧めています。しかし、標準仕様としてこれまでつちかわれてきたITU−RがTHXに負けるかというと、実際はどうもそういうことにはならないようです。むしろ、THXは映画館のようにある程度広い部屋を意識して決められた規格で、個人の使用する部屋などでは横の音が過剰になって、音響効果がぼやけた音になる傾向にあるとも言われます。我が家も以前はTHXでの置き方をしていましたが、これだと横に置かれたスピーカーが視聴者に近いこともあって、非常にデッドな部屋だったのにもかかわらず、スピーカーを上向きに設置して直接音が耳に入らないようにしていました。 引っ越し、転勤に明け暮れた一年から、オーディオ的には何もしてこなかったと前回書きましたが、ムクムクと「音楽・道楽」が目を覚ましてきました。今回はセッティングについてもう一度考えてみようというのが趣旨です。まず、これまでのことからセッティングの基本について確認しておくと、 ・フロントスピーカー同士は等距離、同じ高さに。 できればセンタースピーカーもフロントスピーカーと等距離に。 (円を考えると左右のフロントスピーカー結ぶ直線よりもセンタースピー カーの位置が後ろに下がることに注意) ・サラウンドスピーカー同士も等距離、同じ高さに。 (ただし、高さはフロントスピーカーよりも60㎝から1m上げる方がよい) ・理想は全てのスピーカーを等距離に置く円形配置。 しかし、ITU−Rについて考えると、じつは大事なことは距離だけでなく、スピーカーを設置する角度だということを最近知りました。確かに本などはきちんと角度が書いてあります。でも、現実問題スピーカーの設置場所は部屋の角方向にならざるを得ない。あるいは家具と家具の間でうまく空いてたスペースに納めていくしかないと思うのです。しかししかし、我が家では幸か不幸か正面はステレオの機械とスクリーンがあるだけ。この環境の中で角度を合わすことができないか検討してみようというわけです。 よって追加する条件は、 ・フロントスピーカーの角度は正面中心から左右30°(開き60°) ・サラウンドスピーカーの角度は正面中心から左右120°(後ろ向き120°) という要素になります。 それではまず、現在の環境を振り返ってみます。我が家ではITU−Rの室内円形配置は無理でしたが、先の基本条件を満たすように、正面のフロント、センターの3つ、斜め後ろのサラウンドスピーカー2つ、真後ろのバックスピーカー2つ同士それぞれの組合せで、距離と高さが合っている状況です。高さについてはサラウンドとバックスピーカーも合っています。ただ、現段階では角度は特に考えておらず、部屋の四隅に置いてあるのみ。試聴位置も居心地のバランスで決めました。では、現状からさらに角度を合わせるときにはどうしたらよいのか。 |
THX配置 ![]() |
ITU−R配置 ![]() |
左がTHX配置で、右がITU−R配置となる。両者の違いはピンク色のサラウンドスピーカーの位置にある。横にあるか、斜め後ろにあるか。最近はITU−R配置のドルビーもバックスピーカーを入れているので、右の配置でも後ろにバックスピーカーを置くことについては同じになっている。ただ、いずれもよほどの広い部屋がない限り、円形配置は困難。 今回のポイントはITU−R配置のときにフロントの緑のスピーカーに対する角度が60°、後方のサラウンドスピーカーに対する角度が120°になるように調整してみようというもの。 |
| では、やってみようっ! このために少し発想を逆転しました。生活を振り返ったときに考え方の基本を後ろ斜めにあるサラウンドスピーカーの位置においてみるのです。サラウンドスピーカーは斜め後ろの部屋の隅の位置しか置く場所がない。角ピッタリではなくても、動かせる範囲はフロントよりも限られています。ですから、サラウンドスピーカーの置き場所を決めて、その上でどこを試聴位置にすれば120°の状態になるのか。そこからまずこの部屋の視聴ポイントを割り出してしまおうというわけです。やることは単純明快です。分度器を用意して、8畳間の絵を描きました。部屋のセンターラインをひいて、そのライン上から120°の角度で線を延ばします。そうすると後ろの壁に近いほど120度のラインは当然後ろの壁に吸い込まれます。離れるほど左右の壁に向かいます。我が家のサラウンドスピーカーは部屋の角に置きたい。この位置で120°になる視聴ポイントは後ろの壁から110センチほどの場所となりました。実際には我が家の8畳は370㎝四方だったので、後ろの壁からの距離は106㎝。前からは264㎝ぐらいです。試聴ポイントがわかったら、今度はあらためて前を向きます。その位置から左右に30°ずつ前方にラインを伸ばせば、それがフロントスピーカーの設置ラインということになります。やってみると前方は部屋の角より内側の位置で壁にぶつかりました。しかし、実際には全てのスピーカーには幅と奥行きがあります。我が家はフロントが大型スピーカーで幅50㎝、奥行き40㎝あります。紙の上には前方、後方共に60°と120°のラインが引いてありますから、そのライン上でスピーカーを置ける現実的な位置を探してみます。結果として我が家はスピーカーの前面が横の壁から70㎝、正面の壁から64㎝のポイントに、サラウンドスピーカーは横の壁から30㎝、後ろの壁から20㎝のところに置くことにしました。 ここまで置き場所をしぼるとスピーカーの設置は具体的になりますが、やるのはなかなか面倒です。特に50㎏を超えるフロントスピーカーはさすがに容易ではありません。そこでもう一つ知恵を絞って、70×64㎝画の段ボールの型紙を用意しました。といってもけっこうな大きさなので2枚張り合わせてあります。同じように30×20㎝画も用意しました。これを部屋の角にあてて、スピーカーの上にのっけておけばいちいちメジャーで測らなくても場所がわかるというものです。我が家のフロントスピーカーはフローリングの絨毯の上に、タオックというメーカーのボードを敷いて設置しています。絨毯の上のボードを滑らせ少しずつづらして調整していきます。スピーカーの設置はこの方法で60°、120°のラインにのりますが、スピーカーの向きはまた別に合わさないといけません。スピーカーの面が壁から70×64㎝の位置で、視聴者にスピーカーが向かうような角度になるように内振りにして調整します。この最後の角度調整はスピーカーの4つの角と壁の距離をそれぞれ測って、左右を統一するという、いつもながらの方法です。この時も型紙でチェックしながら行えば、スピーカーが傾いても60°のラインからズレないように設置することができます。 |
6畳間で前方60°のラインを部屋の角に合わせた場合![]() |
8畳間で後方120°のラインを部屋の角に合わせた場合![]() |
| 実際に絵を描いてみるとこんな感じになる。左が6畳間、右が8畳間。6畳間ではサラウンドスピーカーに合わせるとフロントスピーカーが左右の壁の位置に来て、より前方にスライドする。8畳間ではサラウンドスピーカーを部屋の角に合わせるとフロントスピーカーの左右が開いてしまう。サラウンドスピーカーを角より前に置ければ、もう少し前に出て、フロントスピーカーの位置を広げることはできる。 ※ITU−Rの設置に利用できる角度ラインはこちら。 印刷して、ラインに合わせて部屋の形、大きさを縮小して書き込んでお使いになれます。 印刷時にはそれぞれの環境に合わせて調節してください。 |
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| これがセッティングのために用意した型紙。左上のようにスピーカーの天版にのせて、部屋の角に合わせて使いました。これで微妙なズレもチェック。スピーカーの向きはさらに4つの角をメジャーで測定して合わせます。 | |
| もう少し微調整も・・・ 実際に設置すると60°の角度はこれまでよりやや内側によっていて、後ろには少し下がった位置になりました。前回AP−5という吸音材を置いて、少し後ろに下げたのですが、さらに下がって壁によったわけです。これで視聴ポイントからの距離は210㎝。サラウンドスピーカーまでの距離は185㎝。サラウンドスピーカーは頭に直接向けず、さらに内側になる感じの角度をつけました(頭の後ろで音が交差する感じ)。バックのスピーカーは、視聴ポイントから後ろの壁まで104㎝しかありませんので、実測すると90㎝くらいになりました。これも頭に直接向かないように置いています。 このようにして我が家はITU−Rの角度を合わせるように試聴位置、スピーカーの設置場所、距離が決まったわけです。ただ、たぶん他の方もそうだと思いますが、現実にはこの配置は多くのことを犠牲にします。60°と120°のラインが限定されるのは我が家でもちょっとつらい感じです。今回の結果だとフロントスピーカーの外が開いて、中央に全体がよった感じです。まあ、さすがにこれはITU−Rでもわかっていることで、基本的にはもう少し幅を持たせてもよいことになっています。フロントは60°〜65°くらい、サラウンドは120°〜140°くらいまででよいようです。オーディオ的にも60°より少し広めがよいとされています。・・・ということで、我が家でもフロントは最終的にもう少し角度を広げました。左右31.5°ずつ、つまり63°程度にしてみました。我が家だと1°広げると約6㎝ほど横にスライドすることになります。微妙ですが、これも先と同じように紙の上で分度器をあてて、壁からの距離を割り出して、同じように型紙をあてて設置しました。フロントスピーカーまでの距離は215㎝になりました。 |
| せっかくITU−R配置を煮詰めたので推薦のものをと思うけれど、もともとのセッティングでもサラウンド感は十分にあったわけで・・・これぞ格別の一枚というふうには紹介しづらいです。でも、せっかくだからちょっと前のソフトですが、ドルビー収録で、実は音の良さが魅力の1つとなっているこれを上げました。ジョディー・フォスターの「パニック・ルーム」。原作の古さをそのまま映画にしたので、現代的な感覚で見ると内容はちょっと残念かも。家の中で展開される地味な話しですが、なぜか音はよくできていて、深夜の冷めた空気と密室の緊張感がシンクロします。弾丸の飛び交う移動感とはひと味違うサラウンドをどうぞ。 |
| 音楽系のソフトは今回も使用した上原ひろみさんのSACD。拡がりを意識した作りではないけれど、マルチチャンネル用に、楽器の音はあちこちからします。それもまた楽しい。でも、やっぱりこのソフトの魅力はピアノの強さでしょうか。欲を言えばさらにもう一つ力強く録音して欲しかった。ジャズファンの方はどうぞ。 |
| ITU−Rの配置は、何を変えたのか!? さて、これで肝心の効果の方はどうか。もともと距離は合っていたので、違いはあるんだろうかと思いますが・・・。まず試したのはSACDのマルチチャンネルソフト。前回も書いた「上原ひとみ」さんです。マルチチャンネルはITU−Rが基準とされています。これをかけるとまず音の実体感、密度が増しているという印象になりました。もともと包囲感を出したソフトではないのですが、これで「あれっ」と思ったわけです。サラウンド用の配置のはずなんだけど音の拡がりよりは、音の密度が上がっている。普通のステレオCDに変えます。やっぱり。音の実体感が前よりはっきり、濃密になっている。これが音が耳に入る角度のせいなのか、あるいは段ボールの型紙まで用意して設置を追い込んだせいなのか・・・。これだけでも汗をかいたかいはあったと思います。続いて映画での確認。今度はやっぱり包囲感も違いがあることがわかりました。以前はいわゆる穴あき現象というのが我が家にもあったのです。いえ、その時はあったことに気がつきませんでした。こうして新しいセッティングで聞いてみると、やっぱり音の薄いところがあったのかとわかった気がします。今度はこの薄い部分がないだけでなくて、周囲の音全体が濃くなっている、空気の密度か増えているという感じがするのです。そのせいもあって遠くの音と近くの音の違いがはっきりしています。この違いがわかりやすいということは拡がりも感じるということです。これはなかなかよい感じになりました。お金をかけず、半日汗をかいただけですが、オーディオの基本はこうなのかもしません。これでも理想の円形配置はできておらず、スピーカーは壁際に追いやられて音響特性もあまりよい状態ではないでしょう。今回もパイオニアのAVアンプの助けを借りて、最終的な音響特性を調整しています。実は以前はスピーカーの周波数特性をフラットにすると高域がややきつくなるという感じがあって、あとからマニュアル操作で高域を少し落とす調整をしていました。しかし、今回はそれもいらないように思います。フラットのままでバランスもよくなりました。 オーディオ的な理想を追求すると、視聴ポイントからフロントスピーカーまでの距離は3m50cmくらい、天井の高さも4m、部屋は正方形にならないように、また横と縦の壁の比率が正数倍率にならないように、さらには壁同士の平行面ができないように・・・などと、こちらもきりがありません。理想的な部屋で理想的な円形配置が実現できる人はどんな世界を体験しているんでしようか。それは残念ながらわかりませんが、理想には届かないなりにささやかな努力を重ねてみる。その道のりが結局楽しいのかもしれませんね。 ひとまずこの新しい設置で、これまでの映画をまた見直してみようかと思います。 |