金八先生マニアックス

ホーム放送年表/鑑賞ガイド > 第1シリーズ1話

3年B組金八先生 鑑賞ガイド


第1シリーズ 1話「3年B組金八先生」

坂本金八(武田鉄矢)、世田谷第一中学より桜中学へ配属。

赴任初日の夜、金八に電話が入る。声の主である存在感の薄い生徒・吉村孝(小山渚)は先の見えない将来にぼんやりと不安を覚え、金八に「さよなら」と伝えて一方的に電話を切り失踪する。金八は火にかけたやかんもそのままに吉村を探しに飛び出す。

その必死さのあまり、大森巡査(鈴木正幸)には痴漢と間違えられ、タバコ屋の婆さん(池内シカ・都家かつ江)には徹夜麻雀明けと間違えられてしまうが、朝になって金八は、学校から遠く離れた夢の島で吉村を無事発見する。

クラスに戻った金八は生徒らに事情を説明するが、生徒同士の連帯意識は希薄で、また金八自身その風貌からおかしな若手教師と軽く見られ、金八の話に耳を貸す者は少ない。

しかし放課後の帰り道、優等生・岡村一男(高橋幸喜)が「僕のことも探してくれますか?」と問うと、金八は「探してやるとも。その代わり手掛かりはいっぱい残しておけよ。」と笑顔で答えるのである。

79年10月26日放送

脚本: 小山内美江子

演出: 竹之下寛次

視聴率: 16.6%

DVD: 第1巻

参考文献・挿入歌

みどころ談義

● 記念すべき第一回です。金八先生が赴任するところから始まるんですね。
○ 長髪であるだけでオカマとみなされる時代。生徒たちのからかい方も音頭調のフレーズで、いかにも昔って感じだね。
● 最初の出欠確認で、いきなり熱弁を振るいだすんですよ。それも尊敬する竜馬の話を。
○ 近江屋事件から明治新政府の革新性について論じた後に、髪の毛を縛って竜馬になりきるんだけど、特に子孫でもなんでもなくて、な〜んだ。と教室がワイワイしていたら沢村が凄んできて一瞬緊迫。この辺の針の振り幅が上手だよね。一風変わった金八先生の個性、余談にノリノリになる生徒たちの様子と、クラスに一部ワルがいるという状況を上手く見せている。
● 沢村にスゴまれている良識派の生徒が宮沢だというのも、今後の展開を考えるとポイントな気がします。
○ 受験戦争と夢、というキーワードもここで出しているし、点呼のとき吉村の名前をさりげなく出しているのも上手。
● この後しばらくは先生たちの紹介を兼ねらがら展開。天路先生が流行曲である「燃えろいい女」を歌ってます。
○ 保健室が生徒の溜まり場になって、天路先生には本音や冗談を言えるんだよね、生徒たちは。新任でこれから溶け込もうという金八とはひとつの対比のようになっていて、後々に金八が生徒から信頼された時にこの2人が結婚することになるのも、そういうことかと頷ける。
● 職員室では金八先生が、初対面の時に田沢先生を2度見しますね。これはドリフのテイストなんじゃないですか。左右田先生の「ロ〜ングなヘアーをカッチング」の言い回しも面白い。コミカルですよね。
○ 脇を固める同僚教師陣が豪華なのは、生徒役の子役たちが万が一ダメだった時の保険だったとかいう話だよ。
● そうなんですか。で、金八は、学校まで1時間40分という距離である小田急の狛江駅近くに住んでいたことが分かるんですよね。狭い部屋。コンロも小さくてマッチで着火。洗濯物干しもやたら小さい。
○ けれど本が多くて、ちゃんと司馬遼太郎「竜馬がゆく」のハードカバーも映っている。壁には竜馬の写真も。細かいね。まだ駆け出しだけど志は高い、という説明を何気なく見せちゃってる。
● そこに吉村から電話が掛かってくるわけですが、物は少ないけど本は多いとか、家に戻って解放されたと思ったら大事な電話がかかってくるとか、こういうメリハリというかフェイントのような展開がしっかりインパクトを与えてる気がします。
○ そう。フェイントだよね。他にも現れていて、初日終了時の校長に挨拶する時に緊張し、家から電話を掛けたら校長の旦那が出てもっと恐縮して、切った途端に「なんだあのババアは」とか。部屋を出る前に電気の消し忘れを指差し確認していながらコンロはつけっ放しとか。職員室が人命を優先するか3年全体への影響を考慮するか揉めている時に痴漢の疑いで身柄を押さえられたりも。緊張と緩和、と言っちゃうとありきたりなんだけど、でもそのジェットコースターのような展開につい引き込まれるんだよね。うまいなぁ。
● もしかしたらこのコミカルさというのが結構重要で、当時まだ教職は聖職だったので、こういう人間臭さが視聴者の金八に対する共感を後押ししたということもあるんじゃないでしょうか。
○ そこにはもちろん武田さんの感情表現の豊かさも忘れるわけにはいかないね。
● そして吉村を探すわけです。
○ 家から学校までの電車で1時間40分という距離が、ただなんとなくの設定じゃなくて、吉村の作文をじっくり読んで咀嚼する時間になっているんだよ。ちゃんと繋がっているところがスゴイよね。
● 吉村から2度目の電話があって、まだ生きていると分かった途端に飛び出して、我を忘れて探し出す必死さも可笑しいです。物陰でイチャイチャしているカップルを見つけてしまって「吉村ッ、お前のおかげで恥をかいたぞ!」と、探すのに必死だから真顔でこういうことを言う。もう最高!
○ 後に下宿することになるタバコ屋もこの時に登場。で、唐突に出て来た人(池内シカだと分かるのは次回)に金八はいきなり叱られる。出だしからここまでの流れで金八というキャラクターの印象づけ方に失敗していたら、なんで必死に探してる先生に酷いことを言うんだとムッとするかシラケるところかもしれない。でもここが可笑しさになっている時点でドラマの導入部は成功しているといえるね。
● 金八が伊東先生に呼び止められた時に「夢の島」と閃く場面では、その契機がよく分からないのが残念に思ったんですが。
○ 伊東先生が何かヒントとなるような言葉を偶然でも言って、それで閃きでもすれば自然だったかもね。
● 見つかった吉村が「自分との賭け」と言ったときに、金八が残念な表情を見せるのはなぜでしょうか。
○ 生徒が持つ思いやりのなさ、他人の身になって物事を考えられない危うさを感じ取ったものなのかなと思って見てた。当時の中学生にもうそんな雰囲気はあったんじゃないのかな。吉村孝はそれを実に象徴的に表した人だと。
● 最後のシーンも名場面じゃなかったですか? その前のシーンでせっかくの説教を生徒にあまり聞いてもらえなかった金八が、河川敷で野球部員と触れ合う服部先生を見て自分の未熟さを考える。そこに岡村が現れて「僕のことも探してくれますか」と言って、金八は少々の手応えを感じるという。
○ そうそう。「お前んちそっちか? 俺んちこっちだ!」は何気ない台詞なんだけど、そういう心理を考えながら見ると、屈指の名言に聞こえるんだよね。
● そういえば1つ大事なことがありました。金八に吉村の特徴を説明しようとして「特徴がないんだよなぁ」と困る服部先生。特徴がないということも個性だとして、そういう生徒を象徴的に中心に持ってきているのが第1話の内容なんです。
○ 最近のシリーズでは突飛な設定で興味を惹こうとする傾向があるけど、ぜひ原点を思い出して欲しいものだね。

小ネタ拾い読み


放送年表 - ≫2話

金八先生マニアックス