第5回 子音幹変化(第三変化)の名詞

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[要点]
  1. 第三変化名詞
  2. 閉鎖音幹名詞
    1. 口蓋音(κ、γ、χ)幹
    2. 唇音(π、β、φ)幹
    3. 歯音(τ、δ、θ)幹
  3. 鼻音・流音幹名詞
    1. 鼻音(ν、μ)幹
    2. 流音(λ、ρ)幹
  4. −σ幹名詞
    1. 母音融合の規則
    2. −σ幹の語尾
  5. 母音幹第三変化名詞
    1. −ι幹、−υ幹
    2. 二重母音幹

第三変化名詞(子音変化)

 第三変化は子音幹変化とも呼ばれますが、実際には語幹が子音に終わるものだけでなく、二重母音や、−ι、−υなどの半母音(半子音)に終わる名詞も含まれます。第一変化、第二変化以外の変化をすべて第三変化と呼ぶのだと考えて下さい。

 第一変化や第二変化と違って、第三変化の名詞は、男性・女性・中性のすべてに渡り、性によって変化の種類が区別されることはありません。第三変化では性ではなくて、語幹末の子音や母音によって次のように区別されます。

第三変化─┬─子音幹名詞─┬─鼻音・流音幹(-λ幹、-ρ幹、-ν幹、-μ幹)
     │       ├─ -σ幹
     │       └─閉鎖音幹─┬─口蓋音(κ、γ、χ)幹
     │              ├─唇音(π、β、φ)幹
     │              └─歯音(τ、δ、θ)幹
     │                 ├─ -ατ幹(中性名詞)
     │                 ├─ -ντ幹(男性名詞)
     │                 └─ -ις、-υς型
     └─母音幹名詞─┬─ι幹、-υ幹
             └─二重母音幹(-ευ幹、-ου幹、-αυ幹、-ωυ幹、-οι幹)

たいていの場合、単数属格形から格語尾−οςを除いたものが語幹になります。辞書の見出しでは、単数主格形(見出し語の形)の後に単数属格形の語尾を添えて、その単語がどのような変化をするのかを示します。

 第三変化名詞では、以下の格語尾をつけて名詞を格変化させます。ただし、語幹末の子音や母音と格語尾が融合して音韻が変化するため、外見上語尾が不規則に変化しているように見えます。

第三変化名詞の格語尾

閉鎖音幹

 語幹が閉鎖音(κ・γ・χ、π・β・φ、τ・δ・θ)に終わる名詞は次のように変化します。

第三変化名詞(閉鎖幹)変化表

 語幹は、たとえばphukax(見張り)の場合は、単数属格形phulakosから、格語尾osを除いたphulakです。それぞれの格に応じた各語尾をphulakにつければ、単数与格形、対格形などになります。

 ただし、単数主格、呼格、複数与格の時には、語幹末の子音と格語尾のsとの間で音韻の変化が生じ、次のように変化します。

 なお複数与格形は、文末に来た時や後ろに母音で始まる言葉が続く時には語末にνがつくことがあります。

口蓋音幹

 語幹が口蓋音(κ、γ、χ)に終わる名詞は、単数主格形、呼格形、複数与格形の時、語幹末の子音と格語尾のsが融合してξに変化します。

 たとえば、phulakという語幹(単数属格形phulakosから、格語尾osを除いた形)に、単数主格形の格語尾sをつけるとphulaksになりますが、κはsと融合してξという一つの字母に変わりますので、結果単数主格形はphukaxとなります。

 語幹が口蓋音(κ、γ、χ)に終わる名詞はすべてphukaxと同様の変化をします。

唇音幹

 語幹が唇音(π、β、φ)に終わる名詞も口蓋音幹の名詞と同様、単数主格、呼格、複数与格形の時に語幹末の子音(π、β、φ)が格語尾のsと融合してψという一つの字母に変わります。

 唇音幹名詞はklopsと同様に変化します。

歯音幹

 語幹が歯音(τ、δ、θ)に終わる名詞は、単数主格、複数与格形の時に、語幹末の子音(τ、δ、θ)が格語尾のsの前で脱落して無くなります。

 たとえばaspisの語幹は、単数属格形aspidosから格語尾osを除いたaspidです。ここに単数主格の格語尾sをつけると、aspidsとなりますが、語幹末のδはsの前では脱落して無くなりますので、その結果単数主格形はaspisとなります。

 また閉鎖音幹の名詞ではたいてい単数主格と単数対格が同じ形になりますが、歯音幹の名詞のうちaspis(<aspid)のように、語幹が−ιτ、−ιδ、−ιθに終わる単語については、語幹から最後のτ、δ、θを取ったものが単数呼格になります。

【参考】

 単数対格は、本当は語幹のままで格語尾がついていないのですが、ギリシャ語はν、ρ、ς以外の子音では終われないので、aspisの単数呼格形は、aspidとはならずに、語末のδを落したaspiとなります。(phukaxklopsは字母としてはν、ρ、ςでは終わっていませんが、ξやψにはks(ξ)、ps(ψ)というようにs(ς)の音が入っています。)

 歯音幹の名詞は基本的にはaspisと同様に変化しますが、以下のような歯音幹の名詞は、若干aspisとは異なる変化をします。

歯音幹名詞の特殊な格変化

 複数与格形は、文末に来た時や後ろに母音で始まる言葉が続く時には語末にνがつくことがあります。

-ντ幹(男性名詞)

 語幹が歯音に終わる名詞のうち、語幹が-ντで終わる名詞は、単数主格の時に格語尾をつけません。ただしギリシャ語はν、ρ、ς以外の子音では終われませんので、語末のτは脱落し、かつνの前の母音が長くなります。

 たとえばlionの語幹は、単数属格形liontosから格語尾osを除いたliontです。しかしギリシャ語は必ず母音かν、ρ、ςの音で終わりますので、語末のτが脱落してlionとなり、更にνの前のο(オ)がω(オー)と長くなり、lionという形になります。

 単数呼格の時も格語尾はつかず語幹のままになりますが、ギリシャ語は母音かν、ρ、ςの音で終わらなければなりませんので、語末のτは脱落し、lionという形になります。

 複数主格形では、第三変化名詞の格変化の原則通り、−σι[ν]という格語尾がつきますが、−σの前で歯音のτだけでなくτの前のνも一緒に脱落して無くなり、代わりにその前の母音−ο(オ)が−ου(ウー)と長くなります。

 なお、このタイプの変化をする名詞はすべて男性名詞です。

-ατ幹(中性名詞)

 語幹が歯音に終わる名詞のうち、語幹が-ατで終わる名詞は、単数主格、対格、呼格の時に格語尾をつけません。ただしギリシャ語はν、ρ、ς以外の子音では終われませんので、語末のτは脱落して無くなります。

 また複数与格形の時には、格語尾−σι[ν]の前で歯音τが脱落します。

 このタイプの変化をする名詞はすべて中性名詞ですので、単数、両数、複数ともに主格・対格・呼格が同じ形になります。

−ις、−υς型

 語幹が歯音に終わる名詞のうち、語幹末にアクセントの無い名詞(語尾がアクセントの無い−ιςや−υςで終わっている言葉)は、単数対格形のとき語幹末の歯音が脱落し、代わりにνがつきます。

 これは第三変化のうち母音幹の名詞の変化につられたためだと考えられます。−ι幹の名詞も単数主格形がアクセントの無い−ιςに終わり、歯音幹の名詞の単数主格形と似ています。

 単数対格形以外は、ほかの歯音幹の名詞と同じ格変化をします。

鼻音・流音幹

 語幹が鼻音(ν、μ、鼻音のγを含む)や流音(λ、ρ)に終わる名詞は次のように変化します。

鼻音・流音幹名詞の変化表

鼻音幹

 語幹が鼻音(ν、μ、鼻音のγを含む)に終わる名詞は単数主格形の時、格語尾を取らず、νの前の母音を長くします(もともと長い母音である場合はそのまま)。

 たとえばdaimonの語幹は、単数属格形daimonosから格語尾osを除いたdaimonで、νの前の母音ο(オ)をω(オー)と長くすれば単数主格の形になります。

 また複数与格形では、語幹末の鼻音が格語尾−σιの前で脱落して無くなります。

流音幹

 語幹が流音(λ、ρ)に終わる名詞は単数主格形の時、格語尾を取らず、νの前の母音を長くします(もともと長い母音である場合はそのまま)。また複数与格形では、語幹末の流音が格語尾−σιの前で脱落して無くなります。

 語幹が流音で終わる名詞のうち、語幹が−ερに終わる名詞は特殊な変化をします。

 通常、単数属格形から格語尾を除けば名詞の語幹が取り出せますが、語幹が−ερに終わる名詞の単数属格形では幹母音が失われています。例えばmeterの語幹は、metrではなく、meterです。幹母音は単数与格形、複数与格形の時にも消えています。こうした種類の語幹を中音省略幹(syncopated stem)といいます。

 また、複数与格形では語幹と格語尾の間にαが入って−τρασ−になっていますが、これは発音し易くするためにこのように変化したものと考えられます。単数属格形・与格形、複数与格形以外は、通常の流音幹の名詞と同じ変化をします。

aner(男、夫)は単数主格。呼格以外の格では幹母音(−ερのε)がすべて無くなり、代わりにνとρの間にδが入っています。このδは発音し易いように付け加えられたものです。

 pater(父)、thugater(娘)など親族関係を表す重要語の多くは、−ερに終わる語幹を持っておりmeterと同様に変化します。

最終更新日: 2001年8月26日   連絡先: suzuri@mbb.nifty.com