語幹が−σには終わる第三変化名詞には、−ασ幹、−εσ幹、−οσ幹があります。大半は−εσ幹で、男性名詞と女性名詞の変化は同じ。中性名詞だけが違う語尾をとります。ただし−εσ幹男性名詞はすべて固有名詞ですので単数形しかありません。
−ασ幹の名詞はすべて中性名詞です。男性名詞や女性名詞はありません。
語幹が−οσに終わる語はアッティカ方言では(恥)だけです。(恥)も両数形や複数形にはなりません。
−σ幹名詞は次のように変化します。
複数与格形は、文末に来た時や後ろに母音で始まる言葉が続く時には語末にνがつくことがあります。
いずれの場合も幹末子音のσは、単数主格、呼格、対格(対格は中性のみ)の時だけで、それ以外の格ではσは消失しています。また、幹母音のα、ε、οは格語尾と融合(約音 contraction)して変化しています。
母音融合の規則は次の通りです。
たとえば、−αで終わる語幹のあとにο−で始まる語尾が続く場合は、 αとοが融合してωという字母に変わります。εにοが続く場合はουとなります。
−σ幹の名詞の語尾をまとめると次のようになります。
単数主格形では格語尾がつかず、代わりに−εςは−ης、−οςは−ως、というように幹母音が長くなったり、−εςが−οςになる(−εσ幹中性名詞)というように音が変化しています。
単数主格、呼格、対格(対格は中性のみ)以外の格では幹末子音のσは脱落し、幹母音のα、ε、οは格語尾と融合(約音 contraction)して変化しています。
たとえば、の語幹はですが、ここに単数属格の格語尾がつくと、εとοの間のσは脱落し、連続したεとοが母音融合の規則に従って融合してουとなり、その結果単数属格形はという形になります。
−εσ幹女性名詞の複数対格形は複数主格形を借用したものです。
第三変化をする名詞の大半は子音に終わる語幹を持つ子音幹名詞ですが、語幹が母音(−ι幹、−υ幹)に終わる名詞や、二重母音幹(-ευ幹、-ου幹、-αυ幹、-ωυ幹、-οι幹)も第三変化をします。
語幹が−ιや、−υに終わる名詞は次のように変化します。
複数与格形は、文末に来た時や後ろに母音で始まる言葉が続く時には語末にνがつくことがあります。
συς(豚)は男性名詞としても女性名詞としても使われます(参考)。
−ι幹や−υ幹の名詞には、単数主格・対格・呼格以外の格では−ειや−ευという語幹になるものがあります。−ιや−υという語幹を保つものもあります。
属格の語尾(−ως、−ων)は音量交換(quantitative metathesis)によって生じたものです。例えばπολιςの単数属格は、ホメロスなどの古いギリシャ語ではποληοςでしたが、ηとοの長短が入れ替わって、η(エー)は短いε(エ)になり、ο(オ)は長いω(オー)に代わりました。しかしアクセントはこのような音量交換が生じる以前の状態を保とうとするため、−ι幹や−υ幹の名詞の単数属格のアクセントは、ultimaの母音が長いのにantepaenultimaに鋭アクセントがつくというように、アクセントの規則に合わない形になることがあります。複数属格のアクセントもアクセントの規則に合わないことがありますが、これは単数属格のアクセントにつられたものだと考えられます。
複数主格形は母音融合によってできた形、複数対格形は主格を借用したものであって、本来の形ではありません。
語幹が−αυ、−ευ、−ουなどの二重母音で終わる名詞は次のように変化します。
のような名詞では、単数属格・与格・対格、複数主格・対格の時に音量交換が生じて母音の長短が入れ替わり、もともとはηυであった綴りがευに変わっています。
複数主格形はもともとはという形でしたが、紀元前四世紀頃からに変わり、紀元前五世紀には−ειςが複数主格形の一般的な語尾となりました。
最終更新日: 2001年8月26日 連絡先: suzuri@mbb.nifty.com