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3年B組金八先生 鑑賞ガイド


第6シリーズ 11話 「ワタシは男?それとも女?」

顔の傷が癒え、久しぶりに学校へ向かう今井儀(斉藤祥太)は、登校中に乾先生(森田順平)の妻・英子(原日出子)が産気づいているのを発見。儀の素早い通報により英子は事なきを得、無事に出産の手はずが整う。

3Bが祝福ムードに湧く中、鶴本直(上戸彩)は遊び半分で男にも女にもなるミッチー(川嶋義一)への苛立ちが頂点に達し、突然平手打ちに。「男でも女でもない子が生まれたらどうする」と敵意むき出しで発言する直はクラスメイトからトラブルメーカーの烙印を押され、孤立してしまう。理解を求めようとしない卑屈な直だが、金八(武田鉄矢)から「君のところに障害を持った子が生まれたらどうする」と問われると、「一つの命として丸ごと付き合っていく」と答えるのだった。

この話を聞いた本田先生(高畑淳子)は、もしかしたら直は「性同一性障害」なのではないかと金八に告げる。

一方、闘病を続ける幸作(佐野泰臣)は病状が安定し、ついに一時帰宅の許可が出る。正月を一緒に過ごせると金八は涙し、元3Bの仲間たちも自分のことのように喜び合う。そのころ乾家に長男が誕生。出産に立ち会った乾がその感動を3Bに語り聞かせたところ、ノブタ(辻本祐樹)は「そのうち子育てに飽きる親もいる」とふて腐れたように言い捨てる。心配した金八が話を聞くと、ノブタは親の急な離婚と再婚に悩んでいたことを初めて明かし、金八の胸で泣くのだった。

クリスマス・イヴの夜、直は別居中の父・祐介(藤岡弘、)も交えて久しぶりに家族で食事をすることに。男装でキメた直は憧れのに父に「男子になる」と宣言するが、祐介は許さない。ダンスを踊ろうと直を連れ出し胸を鷲掴みにすると、直は甲高い悲鳴を上げてしまう。心を引き裂かれた直は声帯にフォークを突き立て、救急車で運ばれる。母・成美(りりィ)からいきさつを聞いた金八は協力を申し出るが、自分が何をしてやれるのかと頭を悩ませる。

終業式の日、江藤直美(鈴田林沙)が戻らないまま最後のHRを迎えた3Bに、金八は不協和音が感じられないかと問題提起する。多くの生徒が直を槍玉に挙げると「直だけが変なのか!」と一喝。皆何らかの欠点を持っており、完全な人間など一人もいない。だからこそ支えあい補い合うのが大切だと説き、固く心を閉ざす直に、力を貸すから仲間に理解を求めてみないかと優しく語りかけるのだった。

01年12月20日放送

脚本: 小山内美江子

演出: 福澤克雄

視聴率: 18.4%

DVD: 第5巻

小説本: 第2021集

参考文献・挿入歌

 みどころ談義
● 年末2時間スペシャル! 儀が褒められて立ち直りのきっかけを掴んだり、幸作の朗報に旧3Bが嘘みたいに喜び合ったり、乾先生と乙女が生命誕生の瞬間に立ち会って感動したり、ノブタが号泣したり…いろいろありましたけど、やっぱり鶴本直の状況が大きく展開したことが一番ですかね。
○ 本田先生の口から「性同一性障害」という言葉が初めて語られた。スタートは乾先生に子どもが生まれるという明るい話題だったんだけど、そこからの流れで、ナーバスになった直がすごい剣幕で皆の前で主張しはじめて。
● 一旦場が収まりかけても、「口では簡単にきれい事が言えるさ」とぶり返したあたり、直はかなり吐き出した感がありますね。でも正論だったもしれないですけど言葉にトゲがあるし、分かってもらおうという意識に欠けてました。
○ そうだなぁ。具体的なやり取りを挙げると、「理解しきれない障害を持つ人だっている」と主張したところに「それは例えばどういうことだ」と聞かれるんだけど、「話しても分からない」って突っぱねてしまう。自分でシャッターを下ろしちゃう感じがあるよね。
● 独りよがりなんですよ。だから生徒からしてみたら、ハセケンが言ったように「絡んだだけかよ」ってことになるんです。男にしろ女にしろ、あんな汚い言葉は使っちゃいけないし、最初から分かってもらえないと決め付けてしまっては、伝わる部分も伝わらなくなるんじゃないですか。
○ うーん。ただ、直だって今までヒドい扱いを受けてきたためにひねくれちゃった、ひねくれさせられちゃった可能性もあるよね。
● だからといって、「突っ張るのが私の個性」なんて便利な言葉に逃げちゃいけないと思います!
○ まぁそれはその通りなんだけど…。金八先生に、もし自分のところに障害のある子どもが生まれたらどうすると聞かれて、直は「ひとつの命として丸ごと付き合っていく」と答えたじゃない。この意見こそが、実は直の心からの願いなんじゃないかな。
● 自分に対して、周りの人がそうあってほしいと。
○ そうそう。だけどさ、誰かと丸ごと付き合いたいなら、もちろん自分のことだって丸ごとさらけ出さなきゃいけないじゃない。
● そうですね。自分のことは言いたくないけどあなたは何でも話してね、なんてことじゃ信頼関係は成り立ちません。
○ だから金八先生が言ったように、「人と話をするときは拳を握り締めるな」「仲間に理解を求めてみませんか」ということがポイントなんだと思うなぁ。
● そんな直にもう一つ。父親との出来事があったわけなんですが。
○ お父さんが仮面ライダー藤岡弘さんだったのがビックリ! しかし、直が女であると分からせるために、人前で胸を鷲掴みって…荒業だよなぁ。すごく暴力的で心に傷が残るだろうし、直が学校でビンタを張りまくる理由も分かった気がする。
● 父親のあの男臭さ、それから「男の子だったらよかった」と父が昔言った言葉が直の男子化に拍車を掛けたということはありませんか。直は性同一性障害ではなく単なるファザコンってことは…どうでしょうね。
○ だとしたら相当な肩透かしだ(笑)。金八先生は直の母親からいろいろ直接聞いたじゃない。直が自分を男だと思っていること、直の前に二人流産してやっと生まれたのが直であること、その治療のために稀に性同一性障害の子供が生まれてくること、そして母が後悔の日々を送っていること…。これでファザコンでしたはさすがにないと思うよ。
● そうでした。というか、直は声帯をフォークで傷つけるというショッキングな行動に出るんですよね。そこまで深刻なのか…。
○ あのエピソードは実際に起こったことなんだって。痛ましいね。
● 生まれてくる命(乾)、生きようとする命(幸作)、自分に戸惑う命(直)…。本当にいろいろな形があるんだなぁ。
○ 一時帰宅する幸作が「俺が帰った後、泣くなよ」と正子ちゃんに言ったら、正子ちゃんは「泣くよ。」と言ってキスしたじゃない。
● ありましたねぇ。すごくいじらしくて、泣けました。
○ 自分の気持ちを素直に口にすることでこういう素晴らしいシーンが生まれるんだからさ、直も殻を割って欲しいよね。
● 声に出すことが大事か…。直が声帯を傷つけたのは、あまりに象徴的でした。
 小ネタ/周辺状況
◆ 信太家の表札。母・町代の名前が消されて、入れ替わりに妙子とエリカの名前が書き込まれている。再婚の手続きが済んだのだろう。ノブタは最近遅刻がなくなり金八に驚かれたが、家に居づらくなったせいか。
◆ 儀から英子が苦しんでいると聞いた大森巡査は、津軽育ちゆえ「陣痛」を「頭痛」が訛ったものかと一瞬聞き間違える。儀も「陣痛買ってこいって言ってる」と甚だしく動揺している様子。
◆ 英子を助けた儀は職員室で褒められ、笑顔になる。教室でチューから顔の傷について突っ込まれると一瞬たじろぐが、頑張って笑顔でかわす。
◆ 直を中心とする教室の混乱を「もうやめろよ!」と一喝した政則を、繭子は「かっこよかった」と言う。「もっと大きい声で発言したほうがいい」とも。
◆ 幸作一時帰宅の報が元3Bのメンバーに回ると、そのどさくさにデラが蘭子のホッペにチュー。三郎は懲りずにまた友子に告白中であった。
◆ 乾先生が3Bに入ると、クラッカーで一斉に祝福。一瞬の沈黙がありクラスに緊張が走るが、乾は感動していただけであった。このとき儀は乾から感謝の言葉を掛けられる。
◆ 両親の離婚を告白したノブタ。継母は悪い人ではないのに冷たく当たってしまい、そのために家の空気を悪くしている、と自分を責めている。
◆ 妙子さん、ノブタを気にするあまり、クリスマスケーキを無邪気につまみ食いしたエリカをせっかん。
◆ 幸作の一時帰宅に付き添った遠藤先生。なかなか帰ろうとせず、「親子4人水入らずって本当にいいなぁ」と発言。
◆ 成績表を渡した直後のHRで金八は、体が不自由な人だけではなく、
 ・揚げ足を取る
 ・無責任な噂で不登校に追い込む
 ・派閥のボスになりたがる
 ・愛を勘違いしている
 ・一人を大勢で囲んで偉そうに非難する
 ・口より先にゲンコツが出る
 ・何でも人のせいにする
3B生徒たちに見られるこれら全部が障害と同じだと主張した。
◆ 今週の「平八郎がおにぎりを頬張るシーン」は…
 ・美紀を中心とする不良グループが、直の悪口を書いた紙を机の上に置こうとする場面で。
 ・下校する生徒たちが荒川土手を歩く場面で。
 参考文献/挿入歌/BGM
◇ 【書籍】 生きてていいの? (寺脇研、藤野知美著、近代文芸社)
◇ 【書籍】 トランスジェンダーの時代—性同一性障害の現在 (虎井まさ衛著、十月舎)
◇ 【書籍】 万葉集
◇ 【書籍】 五体不満足 (乙武洋匡著、講談社)
◇ 【書籍】 哲ちゃんの詩 (岩下哲士、柳瀬房子著、佼成出版社)
◇ 【音楽】 Amazing Grace (ナナ・ムスクーリ)
◇ 【書籍】 性同一性障害—性転換の朝 (吉永みち子著、集英社)
◇ 【音楽】 The Christmas Song (りりィ)
◇ 【音楽】 Athair Ar Neamh (Enya)
◇ 【書籍】 ある性転換者の幸福論 (虎井まさ衛著、十月舎)
◇ 【書籍】 トランスジェンダーの仲間たち (虎井まさ衛著、青弓社)
◇ 【書籍】 女から男になったワタシ (虎井まさ衛著、青弓社)
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