a) 記録用具 |
古レールの刻印等を記録するための道具です。
原始的に行うなら、A4サイズ程度のクリップボード(画板),紙,筆記用具で、確認した古レールを記録していけば良いでしょう。クリップボードと紙の代わりに、野帳(フィールドノート)を用いるのも良いでしょう。
筆者は、携帯パソコンの HEWLETT PACKARD HP200LX(以下、HP 200LX と略す)を古レールの記録に使用しています。HP
200LX には、英語MS-DOSや便利なユーティリティーソフトが組み込まれており、諸氏の作成したプログラムにより日本語化が実現されています。組み込まれているデータベースプログラムが大変使い易いので、古レールの刻印の判読結果をこのデータベースに直接打ち込むんでいます。
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HEWLETT PACKARD HP200LX |
コンピュータでの入力は、実際の刻印に様々な字体や文字の装飾を完全に表現することができない点で、弱点があるのですが、データベースプログラムにより、必要に応じて見たい古レールのデータをリストアップすることができるため、過去のデータのフィードバックによる判読の正確さの向上や調査のスピードアップにもつながっており、一概に悪ともいえないかと思います。
この重要な役割を担っている HP 200LX の存在は大きいです。HP 200LX の製造は中止されてしまい、代替可能なコンビュータも現われませんでした。HP
200LX が存在しなかったら、このページにあるようなデータの収集はできなかったことを付け加えて、アピールしておきたいと思います。 |
b) 断面帳 |
断面帳は、各レールの断面規格に合わせて作った型紙集のことです。型紙はレールに当てて計測するため雄型(出っ張り側)として作成します。
断面型紙は、薄プラ板で作成している方もいますが、容易に調整できること、曲げやすく柔軟性があることなどから、筆者はボール紙で作成しています。
型紙の作成に用いるレールの断面形は『軌條及附属品圖』や『普通レール及び分岐器用特殊レール』(JIS
E 1101)などを元に作成しました。錆や塗装による厚塗り分を考慮すると、各部の余裕を1mm程度取ると具合が良いようです。
断面型紙は、ウェブ(レール中央のくぼみ)の大きさの順に並べると断面不明レールに出会った時に該当規格を探し出すのに便利です。これは、以下の順になるようです。
50-6 (50ポンド第6種を示す。以下同), 50-2, 50-5 (=50-7), 40,
45A (=45-3, 45-4), 50-8 (=50-9), 50-3, 50A (=50-1, 50-4), 56, 60-1 (=60-6,
60-8), 60-2, 60-5, 45-1, 70-1, 45-5, 45-2 (=45-6), 分捕型, 60A (=60-3,
60-4, 60-7), 50-10, 70A (=70-2), 75A, 100PS, 40N, 50N, 50T, 60kg
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断面帖をレールに当てて調べる |
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d) 拓本セット
とウェット
ティッシュ |
古レールの刻印の調査は、直接目視による調査が主となります。判然としない場合は指で文字をなぞって確認する事もありますが、刻印を強調させて観察する方法として以下の道具が有用です。
拓本には、湿拓と乾拓の2種類があります。湿拓は美しく拓本を取ることが可能ですが、拓本取りの作業が大事になり、所有者の許可を得る必要がある(駅の場合、その許可は、まず得られない)という難点があります。そこで、古レールの調査では乾拓を用いる方が容易です。
レールの乾拓を取るには、紙,拓本墨,磁石が必要です。紙は画仙紙という種別の紙が適しているようですが、中でも「青六疋」という中国紙は大きな紙で、長い刻印(全長150cm程度)の拓本を取るのに最適です。磁石は、紙をレールに固定するのに使います。拓本墨は「釣鐘墨(つりがねずみ)」,「石花墨(せっかぼく)」などがあります。軟質な墨で、乾拓を取るのに適しています。紙の上から、刻印の凸部をなぞるように拓本墨を滑らせると、刻印の文字が紙の上に浮きあがってくるでしょう。
ウエットティッシュは、刻印の凸部分を拭うために使用します。大概の古レールはホコリで汚れているので、刻印の凸部分だけを拭うと、刻印の文字が浮き出てきて、不明瞭だった刻印も読めるようになります。あるいはチョークを使って、刻印の凸部だけを着色する方法もあります。
いずれの手法も有用ですが、意識した / 意識していないに関らず、刻印の偽造が可能なため、取り扱いには注意が必要です。 |
e) カメラ |
カメラは、経験から言えば、解像度(画素数)よりもレンズの描写力の方がモノを言います。古レールの刻印を画面横方向に写した場合、35mm一眼レフであれば低解像度でも刻印の凹凸が判読可能ですが、コンパクトタイプのカメラのレンズでは、高解像度でも凹凸が判読できない事例が多い傾向があります。デジタル,アナログに関係なく、最低でも35mm一眼レフ程度は使いたいところです。
筆者は、フィルム方式の35mm一眼レフを使用しています。フィルムに関しては、屋根下での撮影を考慮してISO
400 を用いています。また筆者の場合、ウェブページ作成のため後にデジタル化を行いますが、このスキャニング感度の幅(ラチチュード)が意外と狭いことに合わせて、ポジ(リバーサル・フィルム)で撮影しています(愛用は、FUJICHROME
PROVIA 400F)。
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筆者の愛機:Nikon F2 photomic A |
古レールの刻印の撮影時の構図については、刻印部分を中央に置いて、刻印の真正面から撮るのが一般的かと思いますが、この際刻印の両側に十分な余白を残した構図とすることが肝要です。こうすることにより、写っている刻印の前後に別の文字列が続かないことを記録することになります。また、バランス上もこの方が美しいように思います。
上記の条件を満たす写真を撮影するためのレンズの条件としては、標準〜中望遠(いわゆるポートレートレンズ)で十分です。高いホーム上屋の梁などでは、望遠レンズも有効です。筆者は
28〜85mm / F3.5〜4.5 のレンズを一般的に使っています。
なお、構造物写真の撮影法については、『鉄道構造物探見』のp.176にある「構造物写真の写し方」が、解りやすくまとまった文章ですので、参考としてみて下さい。 |
f) 切符など |
古レールは鉄道駅に見られる事が多いので、何らかの手段で鉄道施設内に入る必要があります。
最も簡単なのは、乗車券(切符)を購入して、その移動経路内の調査を行う方法です。近年はイオカードあるいはパスネットカードのような、SF(ストアド・フェア)カードが利用可能な鉄道事業者が増えてきました。これらのカードを使用すると、事前に行き先地を決めておく必要が無く、必要に応じて駅の外に出る事もでき、古レールの調査には重宝します。
JRには季節商品として「青春18切符」があります。古レールの調査の際に青春18切符を使用すると、必要に応じで駅を出入りしたり、行路を退行する事も自由なので便利な面があります。しかしながら、駅にいる時間は長くても、鉄道で移動する時間は惜しい古レールの調査では、青春18切符の元を取るのは意外と大変です。そのため、特急も使って目的駅にすばやく到着し、じっくり調査し、また特急で帰るといった切符の使い方が、青春18切符より現実的です。
あらかじめ予備調査により古レールの所在地が明らかな場合、乗用車で移動して、入場券を買って駅に入るという方法も有用です。
この時、道路の行き先表示看板では、鉄道駅を案内していないことが多く、車で鉄道駅を次々訪れるというのは骨の折れる作業になります。そこで、車にカーナビゲーションシステムがあると大変便利です。駅を立ち寄り地として次々登録しておいて、ひとつひとつ訪れていく事ができます。 |