7.2.2  ロシア製レールについての検証

first wrote in 2001.03.16 / Last Edited in 2004.12.10

 ロシア製レールについては、『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』にまとめて述べられていますが、製造者ノついては1社が記されているのみで不明な点が多いです。『鉄道シーン 500』に三木理史氏が書き寄せている「(173) 名古屋鉄道金山橋駅等のホーム上屋部材のロシア製レール」は、短い文章ですが、ロシア製レールのメーカーがリストアップされています。ただし後者については、各メーカー名が日本語に意訳されており、実際の刻印との対応について触れられていない点が残念です。これらを参考として、『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』では、ロシア製レールの刻印の実例を挙げ、そこに記されたロシア語の解読に挑戦しています。

 ここでは、これら先人の成果を整理し、これまで製造者名が不明であったロシア製レールについて推定してみました。

| レールの趣味的研究序説より | 鉄道シーン500より | 名鉄特集より |
| 筆者の推測 |

(1)  レールの趣味的研究に明記されているもの

 ロシア製レールについては、鉄道ピクトリアル1977年12月号の『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』に、名鉄・上毛・尾小屋で発見されたロシア語で表記されたレールとして、
(439)  НОВ РОС ОБЩ IX 95  СТАЛЬ.
(440)  62 НОВ РОС ОБЩ V. 904 К. В. Ж. Д
(441)  <六角29マーク> Ю.Р.Д.М.О. IV 1904. К.В.Ж.Д.
(442)  А.Ю.Р.З.Б.О. 1904г V. К.В.Ж.Д.
(443)  Б.Г.О.Ж.Д. 1904. VII Н.А.Д.ЕЖД. ЗАВ.Б.Г.О.
が挙げられています。
 これらについては、製造者名が明らかにされていませんが、(442) について、「ブリヤンスク社アレキサンドロフスク南ロシア工場」製であることが「解っている」としています。

ブリヤンスク社アレキサンドロフスク南ロシア工場

 『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』では、 (442) とした
А.Ю.Р.З.Б.О. 1904г V. К.В.Ж.Д.
という刻印に対して、「ブリヤンスク社アレキサンドロフスク南ロシヤ工場」であるとしています。

 筆者はこの刻印について、ロシア語標記の古レールの刻印の解読に挑戦した『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』(後述)を参考に、「А.Ю.Р.З.Б.О.」の部分の略号について、以下のように推定してみました。
 

刻印 А Ю Р З Б О
意味 ? (地名) ? 南 ロシヤ 工場 ? (社名) 集団, 会社
備考 アレキ
サンドロフスク
  「РОСИЙ-
СКО」の略
「ЗАВОД
」の略
ブリヤ
ンスク
「ОБЩЕ-
СТВО」の略

2文字目の「Ю」が判然としないのですが、消去法から南を意味する単語の頭文字だと思われます(この推測は露日辞典を見る限り誤っていないようです)。


(2)  鉄道シーン500に列挙されているもの

 鉄道ピクトリアル通産500号(1988年9月号)記念特集の『鉄道シーン 500』に三木理史氏が書き寄せている「(173) 名古屋鉄道金山橋駅等のホーム上屋部材のロシア製レール」は、短い文章ですが、ロシア製レールとして
(A)  新ロシヤ工業
(B)  ロシヤベルギー金属工業
(C)  南ロシヤドニエプル金属工業
が日本語訳で挙げられています。
 しかしながら残念なことに、文章を短くまとめる必要からか、実際の刻印での標記との関連が記されていませんでした。したがって、ロシア製レールの製造者名は未だもって不明のままでした。

(3)  名鉄特集で検証されているもの

 鉄道ピクトリアル1996年7月号増刊名鉄特集の『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』では、ロシア製レールの刻印の実例を挙げ、『鉄道シーン 500』に列挙された製造者名なども参考に、刻印の解読に挑戦しています。
 事例として挙げられていたのは、以下の3点です。
 I. Р.Б.М.О.  VIII. 1904.   СТАЛЬ.  Κ. В. Ж. Д
II. К.З. КН.ВЬЛОСЕЛЬСКАГО. XII МЦА 1895 ГОДА
II'.Κ.Ж.Д
 また「東清鉄道のレール」の項に、同鉄道のレールの規格について、レール製造者(=製鉄工場)名と関連の高そうな名前として、「ナデージダ工場形」,「ナデージテングス工場形」,「ノボロスシスク工場形」の名称が載っています。

 以下に、I.とII.の『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』での解読内容について整理したものを示します。なお、II'はIIの裏面にあったものだそうで、上記文中でも発注者名ではないかとしています。その意味については、直訳で中国の鉄道ですが、東清鉄道の「В」の文字が抜けただけなのか、あるいは中国官設の鉄道の意味ともとれるとのことです。


ロシア−ベルギー金属工業

 『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』で I. とされている古レールの刻印です。
Р.Б.М.О.  VIII. 1904.   СТАЛЬ.  Κ. В. Ж. Д
 『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』での解読では、以下のように推定しています。
 
刻印 Р.Б.М.О. СТАЛЬ К.В.Ж.Д
意味 ロシヤベルギー金属工業 鋼鉄(STEEL) 東清鉄道
(中国東部鉄道)
備考 「РОСИЙСКО-
БЕЛЬГИЙСКОЕ
МЕТАЛЛУРИЧЕСКОЕ
ОБЩЕСТВО」の略号
(『名鉄……』での推定)
  「КИТАЙСКАЯ
ВОСТОЧНАЯ
ЖЕЛЕЭНАЯ
ДОРОГА」の略号

 すなわち、「ロシヤ・ベルギー金属工業」(和訳については、『鉄道シーン 500』の173番)製のレールで、東清鉄道の発注品ではないかとしています。


ヴェロセェリスキー公カタフ・イワノフスク工場

 『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』で II. とされている古レールの刻印です。
К.З. КН.ВЬЛОСЕЛЬСКАГО. XII МЦА 1895 ГОДА
 『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』によると、ヴェロセェリスキー公カタフ・イワノフスク工場とのこと。同資料では、各項目の意味等について、以下のように推定しています。
 
刻印 К. З. КН.
意味 (地名 or 工場名)? 工場 貴族,公
備考 読み:カタフ・イワノフスク(?) 「ЗАВОД」の略 КНЯЗЪ
刻印 ВЬЛОСЕЛЬСКАГО МЦА ГОДА
意味 (人名)? 月(MONTH)
備考 読み:ヴェロセェリスキー 「МЕСЯЦА」
の生格形
「ГОА」
の生格形

(4)  筆者による推定

 現状では、この他にロシア製レールについて触れた資料は見ていません。
 『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』に挙げられていた、ロシア製と思われるレールのうち、これまでに (442) だけが解読できましたが、残りは不明のままです。
 そこで、『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』を参考にロシア語標記のレールの解読に挑戦してみることにしました。

新ロシア工業

 『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』で (440) とされている古レールの刻印です((439)も同製造者でしょう)。
62  НОВ   РОС   ОБЩ   V.  904  К. В. Ж. Д
 『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』から推定すると、
 
刻印 НОВ РОС ОБЩ К.В.Ж.Д (再出)
意味 ロシア 集団, 会社 東清鉄道
(中国東部鉄道)
備考 ? 接頭辞
「НОВО-」
「РОСИЙ-
СКО」の略 ?
「ОБЩЕС-
ТВО」の略
「КИТАЙСКАЯ
ВОСТОЧНАЯ
ЖЕЛЕЭНАЯ
ДОРОГА」の略号

と読めそうです。すなわち、『鉄道シーン 500』の三木理史氏の文章にある「新ロシヤ工業*1) 製に相当しそうです。

*1)名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』の最後の注に、『鉄道シーン 500』の新ロシア工業は、「ノヴォロシースク工業(または社)とすることが妥当である」(鍵括弧省略)というコメントもあります。「ノヴォロシースク」という地名は黒海北岸にあります。

南ロシア・ドニエプル金属工業

 『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』で (441) とされている古レールの刻印です。
<六角29マーク> Ю.Р.Д.М.О. V. 1904. К.В.Ж.Д.
 「Ю.Р.Д.М.О.」の各イニシャルについて、『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』から推定すると、
 
刻印 Ю Р Д М О
意味 ? 南 ロシヤ (英語のD) 冶金 集団, 会社
備考 「南」の
頭文字 ? 
"РОСИЙ-
СКО" の略
「ドニエプル
」の頭文字 ?
"МЕТАЛЛу-
РИЧЕСКОЕ"
の略
"ОБЩЕ-
СТВО" の略

と読めそうです。すなわち、『鉄道シーン 500』にある「南ロシヤ・ドニエプル金属工業」に相当しそうです。


ナデージダ工場

 『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』で (443) とされている古レールの刻印です。
Б.Г.О.Ж.Д. 1904. VII Н.А.Д.ЕЖД. ЗАВ.Б.Г.О.
 ロシア語と英語などのアルファベットの対比では、"Н"は"N","Д"は"D","Ж"は"J" ないし "TH" に相当するようですから、製造月と思われる "VII" の後ろの文字列は、"N.A.D.ETHD." と読めます。また、その後ろの"ЗАВ."は、工場"ЗАВОД"の略と読めます。

 以上を鍵に刻印全体の意味するところを推定すると、
 

刻印 Б.Г.О.Ж.Д. 1904. VII Н.А.Д.ЕЖД. ЗАВ. Б.Г.О.
意味 ? 地名+鉄道 製造年
 ・
製造月
「ナデージダ」 工場 ? 地名
備考 "ЖЕЛЕЭНАЯ 
ДОРОГА"
は鉄道の意
工場名・
地名か?
"ЗАВОД"
の略
不明

と読めそうです。すなわち、『名鉄金山橋駅にあったロシヤ製レールについて』で東清鉄道のレールの規格名にある「ナデージダ工場」に相当する可能性があります。
 この刻印に "Б.Г.О." は2回出てきます。頭の文字列は「〜鉄道」と読めますので、"Б.Г.О." は地名を表わしていると考えられます。


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