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3年B組金八先生 鑑賞ガイド


第8シリーズ 12話 新春スペシャル
「恋と志望校・親の反対から家出したフタリ…家庭崩壊・同じ境遇から急接近するフタリ」

新年になり、金八(武田鉄矢)は乙女(星野真里)の交際相手・湯山(蟹江一平)を家へ招待、結婚について思いをぶつけていた。すると遠藤先生(山崎銀之丞)が慌てて飛び込んでくる。A組の松井宏樹(松川尚瑠輝)とB組の田口彩華(高畑充希)が揃って家出したというのだ。交際中の二人は同じ高校へ進もうと彩華が受験校のランクを落としたことで親の猛反対に遭っており、そのことで宏樹と揉み合いになった父親がはずみで頭を強打。出血し動かなくなった様子を見た宏樹から「親父を殺した」と告げられた彩華は別荘の鍵を持ち出し、一緒に逃げようと逗子へ向かったのだった。

一方、父親の暴力に悩む北山大将(亀井拓)はオヤジ狩りの一味に取り込まれ、現場から逃げる途中に森月美香(草刈麻有)が乗る黒塗りの車に拾われる。そのまま美香のマンションへ向かうと、政治家の父、編集者の母とも不在。豪華な環境に驚く大将だったが、美香は将来の留学先や結婚相手まで決められたレールから少しでも外れたいと打ち明ける。しかし「逃げれば?」という言葉には「一度逃げたら一生逃げ続けることになる。だから逃げない」と毅然と言い返す。

別荘に着いた彩華は明るく振る舞い、かいがいしく料理をし、二人きりの生活を楽しむかのよう。ところがあくる日宏樹は内緒で家に連絡、父親の無事が分かると逃げる理由がなくなったと言い出す。二人の仲を認めさせるまで絶対に帰らないと決めていた彩華との間にズレが生じ、二人は喧嘩別れしてしまう。宏樹が桜中に戻る一方、彩華は依然行方不明。母親から逗子にいる可能性を聞いた金八は彩華を必死に捜索し、夜のフェリー乗り場でついに発見。「悪いことをした、でも間違ってはいない。そんなこと世の中にいくらでもある」と励まし、涙する彩華を優しく連れ戻す。

しかし桜中は既に駆け落ちの話題で溢れ、二人が男女の関係を持ったとまで囁かれていた。しかも噂の出所は宏樹だという。彩華の母親は転校を申し出るが、金八は母親ではなく彩華本人に「正直に生きてきた今までの自分を捨てていいのか」と話して説得。また、彩華に届かぬ思いを抱えるチャラ(真田佑馬)が男らしく宏樹を戒める様子を見ると、自分の初恋と失恋の経験を語り聞かせ「なくしたものだけがずっと心の中にある」と同情してやる。

本田先生(高畑淳子)が彩華に話を聞いたところ、二人には何もなかったことが判明。だが見栄のためデマを流した宏樹を許せない気持ちと、それでも好きだという気持ちの狭間で彩華は揺れ、周りの視線にも傷ついて、転校するべきか答えを出せずにいた。金八はいつものように授業を少し早く切り上げると、「廃屋」という詩を用いて補習を始める。「これは人の生き方の例え。難問から逃げてしまうと、その人の人生は朽ち果てていく」と金八は解釈。さらに「一所懸命」と黒板に書き、どんなに辛くても決して逃げ出さずに踏みとどまって欲しいと3Bに向けて訴えるのだった。

翌朝、チャラはずっと渡せずにいた学業お守りを彩華に手渡す。父の暴力から逃れるため母親が夜逃げの準備を進めていた大将は、美香や金八の言葉を思い出し、兄弟でただ一人父の傍に残ることを決意する。彩華は顔を上げ個人ノートを提出。そこには転校せず3年B組に踏みとどまる強い決意が記され、「ありがとう、先生」という言葉で結ばれていた。そして彩華は屋上で宏樹と対面、「青嵐を受ける。受験から逃げないことにした」と伝えるのだった。

08年1月10日放送

脚本: 清水有生

演出: 生野慈朗

視聴率: 8.8%

参考文献・挿入歌

平成19年度 桜中学3年B組生徒座席表

塚田りな
(萩谷うてな)
大西悠司
(布川隼汰)
森月美香
(草刈麻有)
北山大将
(亀井拓)
玉田透
(米光隆翔)
茅ヶ崎紋土
(カミュー・ケイド)
漆田駿
(坂井太陽)
五十嵐雅迪
(田辺修斗)
廣野智春
(菅野隼人)
里中憲太郎
(廣瀬真平)
安藤みゆき
(梶尾舞)
諏訪部裕美
(山田麗)
金井亮子
(忽那汐里)
田口彩華
(高畑充希)
江藤清花
(水沢奈子)
渡部剛史
(岩方時郎)
金輪祐樹
(植草裕太)
岩崎浩一
(真田佑馬)
川瀬光也
(高橋伯明)
長谷川孝志
(坂本優太)
中村美恵子
(藤井真世)
平野みなみ
(菅澤美月)
佐藤千尋
(森部万友佳)
和田順子
(井本杏子)
川上詩織
(牛山みすず)
教卓※名前にカーソルを合わせると…?

みどころ談義

● あけましておめでとうございます! 年をまたいで3週間ぶりの金八先生は2時間スペシャル。甘酸っぱい恋物語、そして「逃げない」という言葉がひとつ大きなキーワードになった、余韻たっぷりのお話でした。
○ 上のあらすじを見てよ。盛りだくさんの内容だったからこんなに長くなっちゃった(笑)。彩華のは本当にロマンチックな内容だったよね。演技が安定している子だったから安心して見れたし、映像やBGMもイメージビデオのように美しくて。つかの間の、すぐに終わりがやってくる無邪気で甘く儚いひととき。ああいう話には弱いんだよなぁ。
● 凛とした佇まいが印象的だった彩華のような子がこういう出来事を起こすところが、思春期なんだなぁと思います。でもあれ、「親父を殺した!」と聞いた後の話ですよね? 松井君との逃走生活に切羽詰った様子がないのなら、そんな物騒な要素いらなかったんじゃないかとも思いましたけど。
○ 逃げようと迷わず決めたのは彩華だし、アプローチは常に彩華からだったよね。親から逃れて二人きりになりたい気持ちが元々彩華の中にあったんじゃないのかな。それこそ思春期らしく、恋に恋するような。だから松井が起こしたこの事故も、二人のプチ同棲生活というか、そういう甘い夢を実行に移すきっかけに見えた…とか。
● まぁ、松井君の方はさして取り乱さなかったところを見ると、おそらくは殺した手応えはなくて、反射的に飛び出しただけだったんでしょう。だんだん落ち着いてきてそれが分かってきたからこそ、朝になって父親の安否を確認すると急に心細くなって、帰りたくなったと。にしても男として少し情けなかったですけどね。
○ ここで分かるのが、松井はこの家出をあくまで事故からの逃走と考えていて、彩華は夢に見た二人きりの時間を過ごせるいい機会だと考えていたということ。で、そこに切ないすれ違いが生まれてしまう。このあたり、すれ違いの心の機微はすごく繊細に表現されていた印象があるな。海岸で、海に映る夕陽の線が二人のボーダーラインのようで…うーん。胸に迫るものがあった。
● それで一人残された彩華が途方にくれることになって、金八先生が写真片手に必死に探し回るわけです。誰が思ったでしょうか、「金八in逗子」! こういうロケって今まであったかなぁ?
第2シリーズのはじめは福岡を舞台にしていたけれどね。しかしあれだけ骨を折ってやっとの思いで彩華を見つけて、それでも一つも叱り飛ばさず優しく包んでやる金八先生ってのは、まぁ今までもさんざん見てきたことではあるんだけど、ホント大きくて温かい。
● そして言葉の一つ一つが、とってもこう、含みがあるというか、優しく包みながらもちょっと考えさせるような引っ掛かりが必ずあるんですよね。この彩華に対しては「悪いことをした、でも間違っていない」。そして少しあと、チャラに対してですが、「失ったもの、手に入らなかったものこそ、ずっとその人の心に残る」というものがありました。
○ こういう人間の矛盾を突くような言葉は残るね。ハッとさせられる。この金八先生のことばがすごく胸に響くから、少しくらい筋書きが都合よくたって最後には唸らされるというかね、そういうところはあるかな。
● そして今名前が挙がったチャラが、すごくいいエッセンスになっていて、抜群でしたよねぇ! 彩華と松井君だけの話じゃなくて、そこに第三者というか三角関係というか、もう一つの思いがあったことで世界が立体的に見えたと思います。
○ 同感。今回のチャラはよかった! 一途に思い続ける切ない表情あり、立ち向かう男らしさあり。諦められない彩華への思いが徐々にまた強さを身につけていって、最後にとうとうお守りを渡す。今回描かれた生徒全ての成長を象徴しているようでもあった…なんていうと大袈裟かな。でもホントよかったよ。
● このチャラのお守りもそうなんですが、今回のシリーズには小物に思いが込められたシーンが結構あるんですよね。たぶん演出じゃなくて脚本の範疇なんだと思いますけど、前回の彩華の手作りアクセサリーしかり。もう少し前だとサトケンの小さい頃の野球帽とか、4話で裕美のお父さんが握ったお寿司とか。
○ 物に思いが込められている…か。先生が彩華にあげたココアもそうだね。たぶん彩華は松井と最後に入ったカフェで飲んだもの以来、誰かと温かいものを口にすることはなかったんじゃないかな。だから、ココアを一口飲んだ彩華が「温かい…」と言って流した涙は、金八先生が来てくれてホッとしたのと、松井との時間を思い出したのと、両方の意味があった気がする。
● んー、だとすると深いですねぇ…。さて、そろそろキーワードの「逃げない」にも触れたいと思うんですが、次回予告を見る限り来週もこの言葉が鍵になりそうですし、前回金八先生がサトケンを部屋から出させるときにも「お前は定期テストから逃げた。(中略)お父さんが死んだという事実からも逃げている!」と熱く説教していたという流れがあります。
○ 今回その「逃げない」という気持ちを強く意識させてくれたのが美香。この長いサブタイトルどおり、彩華と松井という二人の関係ともう一つ、美香と大将という二人の関係もクローズ・アップされたんだよね。
● 美香と大将は、それぞれ家庭の様子が初めて映像として出てきました。家の不動産価値とか、調度とか、おそらく親の社会的地位、収入なども天と地ほどの差があるでしょう。でも10話で欲しいものボードにそれぞれ「父、母」「親」と書いたように、家庭に対して満たされない心という点でまさに同じ境遇から急接近と。
○ 美香は他人を家に呼んだというのがまずすごい進展だけれども、次の日の朝、土手で「もうやめなよ、あんなこと」って、大将を気づかっていたじゃない。ああいう思いやりの心って今までの美香にはあまりなかったものだから、ここからも距離が近づいた様子が分かるよね。
● そんな美香の「一度逃げたらずっと逃げ続けることになる」という強い意思が、金八先生が訴えた「踏みとどまれ」というメッセージと相まって、大将の決断に大きな影響を与えるわけです。
○ 美香は彩華にも影響を与えたと思うよ。彩華が3Bに戻ってきた時に「親から逃げただけのことじゃない」と鋭い批判を浴びせていたから。言葉はキツかったけど、間違ったことをしていないなら逃げちゃいけないだろ、っていう。
● やっぱり自分というものを強く持って、状況と向き合うことが大切だというメッセージなんですね。詩の授業を経て、そのことが大将や彩華だけじゃなく、チャラにも伝わってお守りを渡すことに繋がった。他にも、それぞれの形でいろんな生徒に効いたんだろうと思います。
○ この授業で出た、「踏みとどまって闘う」というのは、イメージしやすくていい言葉だなぁ。辛いまま逃げ出したら辛い思い出となって残る。頑張って克服すれば、その辛かった思い出も笑顔への道のりとしていい思い出に変わるんだよ。ちょうどオセロの石が黒から白にひっくり返るように。
● 上手いこと言いますね〜。
○ でも、一つ気になるのはね、家に踏みとどまった大将だけれど、金八先生は大将の家庭の状況をまだ把握してないはずだよね。大将を暴力三昧の父親の元に残らせようとまでは意図していなかったと思うんだよ。
● …どういうことですか?
○ つまり大将の場合は家庭内暴力で、身体に危害が加わるものでしょ。しかもかなり対外的には見えにくい中で。だから踏みとどまることが良い判断だとは言い切れないと思うんだ。「逃げちゃいけない」というせっかくの力強いキーワードが、裏目に出なきゃいいんだけど…。
● うーん…。そう考えると、金八先生が大将にリンゴを一つ手渡したことなんかも気になってきちゃいますね。リンゴを使った描写といえば第7シリーズの丸山しゅうで、その後しゅうは転落したじゃないですか。大将がしゅうのように悲惨な目に遭うサインじゃないかと心配だ…。
○ こういう演出上の謎掛けというか、伏線っぽいシーンって、前作まではたくさん散りばめられていたんだよね。大将の今後を考えると不謹慎ではあるけれど、正直、少しワクワクしてきた自分もいます。大将スマン!
● えーっ? せっかくサトケンが戻って彩華や大将も転校を回避したんですから、僕はもう少し平穏な3Bでいて欲しいです。ラストの出席点呼の明るい雰囲気、あれが今回のクラスの魅力ですよ。

その他の周辺状況・小ネタ

里中憲太郎の「私」ノート

喪中なので年賀状は書きません。
僕はあれからずっと父が僕に送ってくれたメールを
読んでいます。
繰り返し、何度も何度も読んでいます。
今では父の言葉は全部頭の中に入っています。
父は昔のお父さんのままでした。
河原でキャッチボールをしてくれた時のお父さんの
ままでした。
だから父は僕の中で、これからもずっと生き続けてくれると思います。
今からじゃ遅すぎるかもしれないけど、高校受験頑張ります。
お父さんが望んでいた青嵐を受けてみようと思います。

 
   ——— 金八 「遅すぎるもんかよ、一球入魂。君ならできる、サトケン。」

田口彩華の「私」ノート

私は逃げません。卒業するまで3年B組にいます。
この場所で私は初めて人を好きになりました。
そのことを後悔したくありません。
だから私はこの場所に踏みとどまり、果敢に闘います。

先生、あの時迎えに来てくれてありがとう。
正直言うとね、逃げるのってとっても恐かった…。
だから誰かが迎えに来てくれるのを
ホントは待ってたのかもしれません。
あのココアの温かさ、一生忘れないよ。
ありがとう、先生。

 
   ——— 金八 「そうか…。君は逃げずに、闘うか。」

参考文献・挿入歌・BGM・資料等

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