関係代名詞(pronomen relativum)は次のように、定冠詞と同様の変化をします。
関係代名詞と定冠詞との相違点は、では、それぞれ定冠詞にアクセントと、男性単数主格のでは更に語末にςがつくこと、そのほかの格では、冠詞の語頭のτ-が無くなり、代りに有気記号がつくことだけです。
【参考】
関係代名詞と定冠詞の形が似ているのは偶然のことではなく、どちらも、もともとは指示代名詞であったためだと推測されています。またもとは指示代名詞であったことから、どちらも指示代名詞的に使われることがあります。
関係代名詞は、関係節(先行詞の内容を説明する文)と先行詞とを結びつける言葉です。
原則的には関係代名詞の性・数は先行詞と一致しますが、格は先行詞とは無関係に、関係節のなかで関係代名詞が果す役割によって決まります(例外:同化・逆の同化)。例えば、関係代名詞が関係節中の主語となっている場合は、先行詞の格が何であれ、関係代名詞は主格になり、関係節中の目的語となっている場合は、一般に対格形になります。
【例】 「私たちが捕まえた鳥は逃げてしまった。」
「鳥」は、「逃げる」という動詞の主語ですので、主格形になっています。関係文で次のと繋いだ時には、この「鳥」が関係代名詞の先行詞になります。
「鳥」は「捕まえる」という動詞の目的語ですので、対格形になります。これをそのまま対格の関係代名詞に置き換えます。
上の二つの文を関係代名詞で結んで一文にします。
しかし以上の原則から外れて、主文や関係節におけるその語の役割からすると理屈に合わない格になることがあります。このような現象には次の三つがあります。
上述の通り原則としては、関係代名詞の格は先行詞の格とは無関係に、関係節中で果す役割によって決まりますが、実際のところはしばしば、関係代名詞の格は先行詞の格に同化(attractio)します。この現象は、先行詞が属格・与格、関係代名詞が対格(になるのが本来である)場合によく見られます。
【例】 「彼らは、彼らが持っている名に値する(彼らはその名に相応しい)」
「〜に値する」ということは属格で表現するという決まりがあるので、「名前」は属格になっています。関係代名詞で次の文と繋いだ時には、この「名前」が先行詞になります。
「名前」は「持つ」という動詞の目的語ですので、対格になっています。原則的には、対格の関係代名詞で置き換えるべきところです。
上の二つの文章を関係代名詞で結ぶと、原則通りであれば関係代名詞は対格になります(1. の文例)。しかしながら、関係代名詞(対格)が先行詞の格(属格)につられて、属格に同化してしまうこともよくあります(2. の文例)。
ギリシャ語では次のように、先行詞が関係代名詞より後に置かれることもよくあります。この際には関係代名詞の格は先行詞に同化し、また、先行詞は冠詞をとりません(参考:逆の同化)。
【例】 「彼らは、彼らが持っている名に値する」
↓
[ ]内が関係節です。関係節の中では、関係代名詞は「持つ」という動詞の目的語になっていますので、原則からすれば対格になるはずですが、この構文の時には先行詞(「名前」)の格につられて同化します。
先行詞が代名詞である場合は、しばしば先行詞は省略されます。この際、関係代名詞は省略された先行詞の格に同化し、主文と直に繋がります。
【例】 「彼らは、彼らが持っているものに値する」
[ ]内が関係節です。「〜に値する」というのは属格で表しますので、先行詞(指示代名詞)は属格になっています。一方、関係代名詞は「持つ」という動詞の目的語なので対格になっています。
関係代名詞は先行詞(指示代名詞)の格につられて属格になり、かつ、指示代名詞は省略されます。
ふつうの同化(関係代名詞が先行詞の格につられる)よりは稀ですが、先行詞が関係代名詞の格につられる逆の同化も起こります。先行詞が関係代名詞の後に置かれている場合に見られることが多いです。
【例】 「商人たちは、彼らが望むものすべてを果すだろう」
[ ]内が関係節です。「望む」という動詞の目的語は属格になりますので、関係代名詞は属格になっています。一方、(後に置かれている)先行詞のほうは、「果す」の目的語として対格になっています。
しかしこのような構文の場合には、上記のように逆の同化が起こることがあります。