第16回 疑問代名詞・不定代名詞

homegrammarprev. next
[要点]
  1. 変化
    1. 疑問代名詞のアクセント
    2. 不定代名詞のアクセント
  2. 疑問代名詞の用法
    1. 代名詞的用法
    2. 形容詞的用法
    3. 副詞的用法
  3. 不定代名詞の用法
    1. 代名詞的用法
    2. 形容詞的用法

変化

 疑問代名詞・不定代名詞は次のように、ほぼ鼻音幹の第三変化をします。疑問代名詞と不定代名詞の違いはアクセントだけです。

疑問代名詞と不定代名詞を比較する表

 疑問代名詞・不定代名詞の男性・女性・中性の単数の属格・与格、不定代名詞の複数主格・対格では、別形という形も使われます。冠詞風は定冠詞と同じ形をしているので、訳読の際には注意が必要です。

【参考】

 一般に冠詞風は、短縮された形であると説明されています。ですが、それならtiniなどより後になって現われるはずなのに、実際には古い時代のギリシャ語にも見られるため、冠詞風のほうが古い形であるとする人もいます。専門家の間でも意見が分かれているようです。

 いずれにしても冠詞風が定冠詞と同じ形なのはたまたまのことで、語源的な繋がりは無いようです。

 疑問代名詞でも不定代名詞でも、男性・女性の単数対格tinatinaは、うしろに母音で始まる単語が続く場合は、母音連続を避けるためにtinと省略されることがあります。

 他方、単数与格のtinitiniや、中性単数主格・対格のtitiなどは、そのまま母音を保ちます。別形attaも語末の母音を失うことはありません。

疑問代名詞のアクセント

 疑問代名詞は、単数属格・与格の別形冠詞風を除き、常に最初の音節に鋭アクセントがつきます。

 男性・女性の単数主格tis、中性主格・対格のtiは、鋭調語(最後の音節に鋭アクセントがついた語)です。鋭調語のうしろに単語が続く場合は、ふつうは鋭アクセントを重アクセントに変えるのですが、疑問代名詞は例外的に鋭アクセントを保ちます(参考:重アクセントの規則)。

【例】どの馬?「どの馬?」

※ アクセントの規則からするとどの馬?になるけれども、tisの場合は、鋭アクセントのまま。

不定代名詞のアクセント

 中性複数形attaを除いて、不定代名詞は前接辞ですので、文中ではたいていアクセントを失っています。不定代名詞がアクセントを保つのは次の場合だけです(参照:前接辞)。

 前接辞であるということから、ふつう不定代名詞は修飾する語の後に置かれます。ただしmen「一方〜」・de「他方〜」と組み合わせて使う場合には、不定代名詞のほうが前にきます。

【例】 mendeの文例
「一方(の)ある人々は……、他方(の)ある人々は……」
「……という人々もいれば、……という人々もいる」

疑問代名詞の用法

 tistiは、単独で疑問代名詞として使われるほか、名詞を修飾する疑問形容詞として、また疑問文では疑問副詞としても用いられます。

代名詞的用法

 tistiは、単独で疑問代名詞として使われた場合は、「誰?」「何?」を意味します。

 この場合は、男性形・女性形であれば通常は人間を指し、「誰?(どの男? どの女?)」という意味になります。中性形であれば人間でないもの、「何?」です。

【例】 誰が?
    「誰がアテナイへフクロウをもたらしたのか?」

※ tisは男性(または女性)・単数・主格で、egage「(彼は)もたらした」の主語になっています。glauk(フクロウ)は女性・単数・対格ですから、tisとは性・数・格が一致していません。つまりtisは形容詞として使われているのではありません(参考:形容詞的用法)。

形容詞的用法

 tistiは、「どの〜?」「どんな〜?」「如何なる〜?」などを意味する疑問形容詞として、名詞と一緒に用いることができます。形容詞として使われているのですから、もちろんtistiは、名詞と同じ性・数・格になります。

【例】 どの?
    「どのフクロウを、彼はアテナイにもたらしたのか?」

※ tinaは女性・単数・対格。glauk(フクロウ)も女性・単数・対格で、性・数・格が一致しています。つまりtinaglaukを修飾する形容詞として使われています。

 このように、疑問形容詞として使われるtistiの性は、修飾している名詞の性に拠って決まるのであり、代名詞的用法の場合とは違って、男性形・女性形だから「人」だ、中性形だから「物」だ、とは言えません。上の例文のように、対象が人間ではないもの(フクロウ)であっても、修飾されている名詞が女性名詞であれば、女性形tis(の対格)が用いられます。

副詞的用法

 中性単数対格のtiは、「なぜ〜(するのか/なのか)?」を意味する疑問副詞として使われます(参考:中性対格の副詞的用法)。

【例】 なぜ?
    「なぜフクロウを、あなたはアテナイにもたらしたのか?」

※ ti中性・単数・対格で、egages「あなたはもたらした」という動詞を修飾する副詞として使われています。glauk(フクロウ)は女性・単数・対格で、tiとは性・数・格が一致していません、つまり、tiは形容詞としてglaukを修飾しているのではありません。また、ti三人称ですから、egages二人称単数)の主語にはなれません。

不定代名詞の用法

 tistiは、単独で不定代名詞として用いられます。

 また、名詞と組にして形容詞としても用いられます。ギリシャ語には不定冠詞がありませんので、tistiによって不定冠詞的な意味合いを表現します。

代名詞的用法

 単独で代名詞として使われたtistiは、「或る人(物)」「誰か(何か)」を意味します。男性形・女性形であれば通常は人間を意味し、「(誰か)或る人(或る男、或る女)」、中性形であれば人間でないもの、「(何か)或る物」です。

【例】 「誰か」の例文
    「或る人が(=誰かが)君たちを監督している場合は、」

形容詞的用法

 tistiは、名詞とともに用いられて、「或る〜」「ある種の〜」「何らかの〜」「〜のようなもの」「ちょっとした〜」といった意味を表します(英語のa、some、any)。

 形容詞として用いる場合は、tistiの性・数・格を、修飾している名詞と一致させます。

【例】 「或る」の例文
    「或るフクロウが(=何かフクロウのようなものが)君たちを監督している場合は、」

※ tisは女性・単数・主格。glaux(フクロウ)も女性・単数・主格でtisと性・数・格が一致しています。つまりtisglauxを修飾する形容詞として用いられています。

 tistiの性は修飾している名詞によって決まるので、(代名詞的用法の場合とは違って)、男性形・女性形ならば「或る人」だ、中性形なら「或るもの」だとは言えません。修飾している名詞が女性名詞であれば、それが人間でなくても女性形tisになります。

最終更新日: 2003年1月27日   連絡先: suzuri@mbb.nifty.com