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3年B組金八先生 鑑賞ガイド


第7シリーズ 11話 「鶴本直・決断の旅立ち」

性同一性障害を持つ3B卒業生・鶴本直(上戸彩)は18歳になり、男性ホルモン投与を3日後に控えていた。朗報のはずがどこか鬱々とした様子の直を、金八(武田鉄矢)は特別授業で勇気づける。元同級生たちの力添えもあり直は病院へ向かうことを決意。女性としての直に一目惚れした鈴木康二郎(藪宏太)も直を理解し新たな旅立ちを見送った。

小塚物産が不渡を出し、小塚家は家を明け渡すことに。荷物をまとめ、開栄の受験をも諦めるよう言われた崇史(鮎川太陽)は丸山しゅう(八乙女光)に相談すべく待ち合わせるも、しゅうは姿を見せない。心配して自宅を訪ねたところ、しゅうが母・光代(萩尾みどり)に暴行される様子を目撃してしまう。しゅうは崇史を追いかけ口止めをする。

崇史はこの出来事を稲葉舞子(黒川智花)に相談し、金八へ報告。金八は光代に虐待の件を問い詰めるが、その時暴力団員の河合(甲本雅裕)と下部(畠中正文)が押し入り、「シャブを出せ」と大暴れ。実は、しゅうの父・栄輔(うじきつよし)は借金返済のために寝る間も惜しんで働きたいあまり覚醒剤に手を出し、いつの間にか依存。寝たきりになった後も光代が打ち続けていたのだった。舞子と崇史の通報により警察が駆けつけ暴力団員を逮捕するも、覚醒剤所持でしゅうの両親までもが連行され、しゅうは一人取り残される。

しゅうは一家離散の原因を口止めを破った崇史に求め、「君は友達じゃない。」と叱責。壊れゆく家庭と友人の喪失に絶望した崇史は自宅マンションのベランダから身を投げる。崇史が遺したメールに「大切な友達なんだ」という文字を見たしゅうは激しく慟哭、部屋に偶然残っていた覚醒剤の注射器に手を伸ばす。

05年1月7日放送

脚本: 清水有生

演出: 福澤克雄

視聴率: 13.0%

DVD: 第5巻

参考文献・挿入歌

 みどころ&勝手な解説
● あけましておめでとうございます。
○ おめでとうございます。
● でも崇史があんなことになっちゃって、全然おめでたくないです。
○ おめでたくないねぇ。
● 本当にもうすれ違いだったじゃないですか、二人は。
○ 引越しの用意をし始めた時点で、小塚家がもう完全に丸山家の歩んだ道を追いかけようとしている、と分かったじゃない。あれが、その先に待つ家庭の転落のようなものを予感させて辛かった。あぁ、もう闇に向かって突っ走っているんだ、と。まさか崇史が本当にマンションから転落することになるとは思いもしなかったけれど。
● たしかに、父親の会社が倒産して(小塚物産は不渡)そこにはクスリが絡んでいて、家を奪われ引越しを余儀なくされる…というしゅうと同じ道をまるまるトレースするようなところがありましたもんね。冒頭でしゅうが「高校行かない」と宣言して、崇史ものちに開栄を諦めるよう言われたのもそういうことかな。
○ 母親についても、崇史の母は登場時点ではスゴく優しい印象があったのに、引越し準備の頃には厳しく当たるようになっていて、最後はもうコントロールを失って、しゅうに「お前のせいだ」と言わんばかりに食ってかかっていた。
● 昔は優しかったのに…というのは、しゅうの母親とこれまたまるっきり同じパターンですよ!
○ 同じ状況になりつつあった二人のすれ違いだから切なくて切なくて。もししゅうが待ち合わせに時間どおり来れていて、崇史が家庭事情をしゅうに話せていれば、しゅうは「同じだ、頑張ろうぜ」と励ましていたかもしれないんだよ。微妙なタイミングのズレがまるで正反対の悲劇になってしまった。
● 悲しいなぁ…。
○ 性格だけは逆なんだよね。しゅうは思いやりがあって我慢強くて、崇史は内に向かいがちで芯が弱い。崇史から「お前に何が分かる」と言われたしゅうは誰にも秘密にしていた自宅を見せて一緒にリンゴをかじった。一方の崇史はしゅうの秘密をすぐに舞子に預けようとしたし、しゅうがヤケクソになってしまった時に「飛び降り」という強烈な逃げのカードを切ってしまった。
1話であった幸作の同級生の飛び降り自殺、あれがここで繋がってきたんですね。しかし「大切な友達なんだ」なんて言葉だけ残して逝こうとするなんて! その「大切な友達」がどれだけ悲しくやりきれない思いをすると思っているんだ!
○ そのとおり。…でもさ、崇史をただ弱虫弱虫と非難するだけというのも簡単な話で。コレを取っ掛かりとしてもう少し考えてみると、例えば、一時不登校になりかけた崇史がまた学校へ出て来れるようになったのは、しゅうのおかげだったじゃない。そんな理解者だった相手から「裏切り者」となじられたらそりゃガックリくるよね。
● そういえば和晃も以前、孝太郎と「引き離されたら死んじゃうよ」と言っていましたね…。
○ それに崇史はしゅうとの関係だけじゃなく、自分の力じゃどうにもならない家庭(大人)の事情も飛び降りに大きく関わってるわけだから。
● 崇史にとって絶望するには十分すぎた…。
○ んー、崇史は絶望の意味を知らないまま絶望してしまったんじゃないのかな。以前ラジオで武田さんが「絶望論」(清田友則著・晶文社刊)という本を契機にいろいろと感じたことをお話しされていたんだけれど、曰く、「希望がない=絶望」というのは違うんじゃないかって。過酷な状況に置かれたら一度正しく絶望しきって、その上で、希望を小さいことでも探していくことが「生きる」ということなんだと。
● 崇史の周辺事情をちょっと思い返してみると、例えば玲子や浩美が好きでいてくれているという状況がある。ということは、彼女たちの支えに崇史はなっているということが言えるんですよね。それなのに救いがないと決め付けたのは残念でした。
○ 序盤で金八先生は直に「苦しみを苦しみ抜け」と言っていた。受け入れた上で前に進めというようなこと。直はその言葉で勇気をもらって病院へ行く決心がついたんだけれど、こっちは苦しみに耐えられなかった。その対比にちょっと考えさせられたなぁ。
 
● その鶴本直、久しぶりの登場でした。
○ 金八ならではのお説教も久しぶりに効力発揮!といったところだよね。今作では生徒に対して全く使っていなかった伝家の宝刀・漢字の解釈を、この直との特別授業で持ってきた。
● 「自分を変えられる人だけが、この世界を変えられるんです」なんて珠玉の名言も飛び出して。昔からのファンにとっては溜飲が下がる思いでした。
○ でもどうやら「苦しみを苦しみ抜いたうえで自分を変える」というような絶望論からの主張とこの直のエピソードを結びつけようとしたのは、性同一性障害の当事者の方には不満が残ったらしい。
● どういうことですか。
○ 詳しい専門知識を持っているわけではないから断言は出来ないんだけれど、性転換症だったはずの直にはあり得ない心境だと取られかねない表現があったんだって。戸籍法改正という事実と異なった解釈も見受けられたみたい。つまり、なんというか、ドラマの構成の一部として軽く扱うにはちょっとデリケートな問題だったということになるのかな。(ページ下部「お便りコーナー」参照のこと)
● なるほど…。ドラマにそこまで掘り下げる役割があるかといわれたら違う気が僕はしますけど…。
○ でもまぁ、直はホルモン投与を始めること自体には何の迷いもなかった思うよ。そこじゃなくて、今までの女性の身体に別れを告げることを、友達との大切な思い出までも失うと思い違いしていて、それでああいう葛藤が生まれていた、と個人的には思っているんだけれど。
● ともあれ、直が金八先生の励ましによってしっかりと前を向いて歩き出したのは確かですよね。
○ それにハセケンたちも、ともに励ましあう友達だということを行動で表してくれて、「共生」というテーマの大切さを感じさせてくれた。いいエピソードだったと思うよ。
● 細かいことを言えば、直が女性の佇まいだったのがちょっと気になりました。
○ うーん…あれはね、例えば眉毛をもう少し男らしく書いていればまた違った印象になったと思うんだけど、化粧に関しては事務所NGだったのかな?
● ちょっとちょっと、「男らしく」ってのは直が一番嫌う言葉ですよ! 慎んでください(笑)。
○ こりゃ失敬。実は金八さんも康二郎に「男らしく諦めろ!」と言っていて、どうなのかなと思っていたんだった。自分でも言っちゃ世話ないな。反省ッ。
● その康二郎の初恋話は、暗い話題が占める中にあってすごくホッとする場面でした。
○ 3Bのヤジウマ魂にも火がついちゃってね。
● 土手に「伏せろ!」なんて言っても全然隠れられていない。可笑しかったです。
○ この手の話題は第1シリーズの梶浦(野村義男)の頃から25年間変わらずあるんだよね。全く変わらない中学生の本質というかさ。25年前と比べて変わったのは、子供じゃなく大人の方なのかな。
 
● 話は変わりますが、ヤクザ河合の甲本さん、スゴイ存在感でした。
○ 圧倒的に冷酷無比だったね。金八史上に残るバイプレーヤー。おそらくもう金八先生では見れなくなるのが残念だ。
● このヤクザ突入シーンで、丸山家の秘密が全て明らかになったのが意外でした。まとめると、「会社倒産→どうにかトラックを手に入れ→借金返済に身を粉→ヤクザにつけこまれ覚醒剤に手→中毒→持ち逃げ→トラック事故→不自由な身体→禁断症状→光代が投与→光代苛立ち→しゅうへの暴力、虐待」。もっと後まで引っ張ると思っていたのに全て露わになってしまって、どうするんだと思っていたら…。
○ まさか崇史の飛び降りという事態に発展するとは…。
● この場面(金八先生の説得と光代さんの告白)、母親論を交えながらかなり重要なことを言っていましたよね。そしてあの光代さんが、ついに微笑むんですよ! しゅうが手にしている昔の写真と同じ笑顔を、それもパトカーに乗り込む直前、別れの瞬間に!
○ 開始から3ヶ月かけてようやく光代さんが笑ってくれた。それはあの悲惨な状況下であっても嬉しかったし、感動したよね。あと3ヶ月後には、しゅうと二人で笑い合えるようになっていて欲しいなぁ。
● 数少ない、しゅうに希望が見えたシーンだったんですよね。
 
● さて、これだけ暗く沈んだ展開を引き戻す力が金八先生にあるのか、という点が今後の見どころの一つになっていきそうですね。
○ 事態は既に先生の請け負える範囲を超越しているのかもしれないけれど、直と光代さん、二人を諭して力になれた事実があるんだから、まだまだ希望は十分あると思いたい。
● それから、青木さんが金八先生の人格を見抜いたシーンも忘れちゃいけません。
○ あぁ! そうだった。青木さん良かったよねぇ。乙女が外で金八を自慢の父親だと言っていることを教えてくれた。
● 乙女は家で金八先生をたまに変人扱いしたり、しょっちゅうケンカもするのに、やはり温かい家族なんですねぇ。泣きそうになりました。
○ 崇史にしても、弱い弱いと思いがちだけれど、今回人に当たることをしなかったのは立派だと考えることもできるじゃない。もし意識を取り戻したら、金八はこういう部分を強調するところから立ち直らせようとするんじゃないのかな。その上で「でも死んだら多くの人が泣く」と。
● しゅうはどうですか。やはり一軒家に中学生一人というのは寂しすぎると思うんですが。
○ しゅうは家、家庭が本当に好きだった。家庭を失うくらいなら虐待も我慢できたという。でもそれを続けていても何の解決にもならない。母が注射を打ち続けていたのも出口のない無限ループのようなもので。そこから前へ進むには、両親の逮捕という過酷な試練を受け入れなきゃいかんのだよね。
● 注射器、使わないで欲しいなぁ…。
 小ネタ拾い読み
◆金八、康二郎に「今晩やっとけ、出しとけ」ときわどい下ネタアドバイス。梶浦以来?
◆冬期補習、騒ぐ生徒に注意もそこそこの乾先生。丸くなったなぁ…。
◆祥恵が塾ではなく学校の補習を受けていた。ヤヨを保護するような立場?
◆直のPCはプリウス。
◆木村美紀がミッチーから受けた頭部のキズは、今でもその痕が残っているらしい。
◆受験に向けた合宿のために食料をたくさん確保する幸作。その中に「赤いきつね」と「緑のたぬき」(武田鉄矢さんがCMキャラクター)が。ちなみに「黒い豚カレー」は確認できず。
◆伸太郎の携帯番号下4桁は「1192」。
◆小田切先生とシルビア、二人で飲み? …あやしい。
◆直に対する特別授業の中で金八が「戸籍法が改正され」と言っているが、厳密には間違った表現。詳しくは下部のお便りコーナーを参照のこと。
◆伸太郎のタメ口を快く思わない金八だが、直が「明後日から男性ホルモンの投与が始まるんだ」とタメ口で話したことは特に問題視せず。
◆リンゴはしゅうの父・栄輔の好物だと判明。唯一の微笑みの素=幸福の象徴。もちろん禁断の果実でもある。
◆擦りガラスの上の僅かな透明ゾーンから暴行を目撃してしまった崇史。身長の高さがこう繋がるとは…。
◆トラックにドラッグが隠してあるというダジャレ的な結末。まさかと思ったが…。
◆「アチャー」が伝染してしまった金八。驚くと口に手をやるようになったのはいつからだろう?
◆しゅうも直も昔の写真を見て励まされていた。金八も里美の写真を見ていた。
◆土手で直を見送ったメンバーは、直美、美紀、あかね、ミッチー、ハセケン、一寿、ノブタ、平八(、金八、康二郎)。
◆直美役の女優さんの芸名が「琴花」に変わっていた。
◆当初予定されていたサブタイトルは「伝説の生徒・鶴本直」というちょっとそぐわないものだった。
 過去の金八シリーズでは
■一目惚れ
…第1シリーズ3話、梶浦裕二(野村義男)が登校中に出会った女子高生に一目惚れ。
■飛び降り&引越し
…第4シリーズの広島美香も同様。ただし美香は転落寸前で止められた。また、飛び降りたが下のヒサシに当たって一命を取り留めたというのは、第6シリーズ13話の木村美紀の父親と同じ。
 みなさんからの印象的なお便り
性同一性障害・経験者の方からの投稿(1)
◆「戸籍法の改正」と先生は言ってましたが、戸籍法本体ではなく、別に「特例法」が制定されたのです。ですから、第6シリーズで直に「戸籍の『訂正』が認められるやさしい国に…」と言っていたのは、結果としては「戸籍の『変更』」という扱いになりました(戸籍法が改正されていたら、『訂正』でよかったのでしょうが…)。そんな意味でも今日のスペシャルで先生がおっしゃられていたように、まだまだ問題はあります。
私は「特例法」のおかげで戸籍の性別変更が出来たわけですが、それでめでたしめでたし、ではなく、誰もが仲良くできる世の中に、こんどは私が微力ながら何か出来ないか、とあらためて考えさせられました。

性同一性障害・経験者の方からの投稿(2)
◆今回の直の不安については自分の経験とは大きく異なるものでした。ですから、そこだけを見ると違和感を感じたのは確かです(なんでホルモン注射を素直に喜べないんかね、と)。
ただ、私は前後の流れから思いました。直の不安は“ホルモン注射に対するものではなく”、自身に生じる変化によってかつての3Bから再び拒絶されてしまうのではないか、というものではないかと。旧3Bは「直が変化する前に」もう一度会おうと誘ってきました。ですから、変化後も同じように付き合ってもらえるのだろうか。そのような不安が直の中に生じたのではないでしょうか。
だからこそ、変化しないであろういちばん信頼している金八先生に会いに行った。もちろん、ハセケンらを信頼していないというわけではないと思います。ただ、第6シリーズでも語られていたように、カミングアウトしてはそこにいられなくなる体験を繰り返してきたわけですから、どうしてもよみがえってしまう「裏切られ体験」の記憶があるのでは(ひらたく言えば、トラウマ、でしょう)。それが、変化、を前にして再び不安として出てきた。そして、金八先生の「授業」を受け、当時の3Bが自分を本当に受け入れてくれていたことを思い出した。
そのような流れだったと想像するのは飛躍しすぎでしょうか? 私は、そのように直の不安にたいしても、ドラマの脚本にたいしても納得したのですが。
いずれにしても、再び(全員に対してではなかったけれど)セクシュアルマイノリティ授業が行われた、ということだけでも、私としてはうれしく思いました。

直の髪型が長かったことについての考察
◆性同一性障害とはいえ体が女性である以上、18歳にもなるとどんどん女らしくなる。顔も可愛らしくなっていく(一目ぼれもされる)。だから顔を隠すために直はあの髪型をしていたのではないかと思います。 (狛江さん)

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