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第8シリーズ 9話 「父親は大きくて暖かかった…」
顔を覚えていないアメリカ人の父親について感動的なスピーチをした茅ヶ崎紋土(カミュー・ケイド)だったが、会うべきかどうかは依然悩んでいた。クラスメイトたちは母子家庭の紋土が渡航費用に困っていると考え、私物をネットオークションで売ってカンパすることを思いつく。ガリ勉の川上詩織(牛山みすず)も協力するほど3Bの団結は高まるが、その詩織が家宝の壺を無断で出品したことが問題となり計画は頓挫。また、友人相手に貸金をしている佐藤千尋(森部万友佳)は、利息が取れないという理由でカンパを断り軽蔑される。
そんなある日、紋土のもとに再び父から手紙が届く。休暇が取れたため日本まで会いに来るというのだ。その報告に喜ぶ3B。しかし当の本人は浮かない顔をし、「会うのが怖い」とこぼす。金八(武田鉄矢)は国語の補習授業の中で「知命」という詩を紹介し、その内容に沿う形で「こんがらがった自分を丁寧にほどいてみるべきなんじゃないか」と紋土に語りかける。仲間たちからも次々に優しい言葉を掛けられると、紋土は心を決めるのだった。
約束のホテルのロビーで、親子はついに14年ぶりの再会を果たす。紋土の前に現れた父親は、覚えたての英語を懸命に喋ろうとする息子を制し、無言のうちに抱きしめる。血の繋がった親子に言葉など要らなかった。学校に戻った紋土は個人ノートを提出。そこにはしっかりとした文字で「お父さんは大きくてあったかかった」と書かれていた。
一方、3Bから浮いてしまった千尋には理由があった。得意先の倒産で父親の事業が危機に陥り、食うにも困る状況になったため、「友情よりお金」とばかりに現金に執着していたのだ。それなのに裏サイトは自分を中傷する文字で溢れ、傷つく千尋…。と、そこに「千尋を励ます会をやろう」と味方する書込みが。喜んで指定の場所に向かう千尋だったがそこには誰もおらず、やがて見知らぬ男がやってきてこう言うのだった。「千尋ちゃん、でしょ?」
平成19年度 桜中学3年B組生徒座席表
みどころ談義
- ● あららっ! 不穏なラストシーンで終わりましたよ。これは謎を呼びますね〜。
- ○ 前回から引き続いて紋土と父親のエピソードが中心になる中、3Bの輪から外れてしまった千尋が最後に…というシーンだったね。次回へ向けて気を持たせる終わり方をしてきたのは、第1話の美香の転校シーン以来になるのかな。これは事件の予感!
- ● 冒頭にはいきなり亮子の個人ノート提出があったりして、こっちは先週の流れの続きでしたよね。今回は一話完結のスタイルをちょっと変えて、物語全体の連続性を意識させるような見せ方だったように感じました。
- ○ そうだね。で、まずは紋土の話。差別という大きな問題を含んでいるし、紋土自身多感な時期でもあるから、やっぱり父親に対してはスピーチだけじゃ吹っ切れない複雑な思いがある…というところから入って、再会のシーンでは、「強い愛情の前に言葉は要らない」という4話や5話で特に主張していたようなこととしっかり繋がる結末だった。素晴らしい内容だったね。
- ● 3Bの皆も、この出来事を通じてグンとまとまっていくんです。まぁ、今までのシリーズと比べると、団結のきっかけが文化祭ではなく紋土のスピーチコンテストというのは少し弱い気もしちゃいましたが。
- ○ 舞台に立つのは一人だけだったからね。紋土のサポートという地味な作業を通じて皆で行事に参加している実感を味わうというのは、実際にはなかなか難しいことかもしれない。ただ、7話の授業の中で便所掃除の詩を読んだじゃない。あれが大きかったんじゃないのかな。
- ● あっ! あれはまさに陰で支える人の詩でしたね。あの時に見えないサポートの大事さを学んだ3Bだから、今こうやって紋土を陰から支えて応援することで、クラス全体がググッと団結できたんだ! んー、なるほど。繋がってますね。
- ○ でもさ、クールで頑固な美香までがすっかり改心…というか、心変わりしたのには驚いちゃった。美香はあれだけ衝撃的な登場の仕方をしたんだから、笑顔を見せるまでの心の変化はもう少しよく分かるように描いてくれてもよかった気がするなぁ。
- ● これも茨木さんパワーの所為でしょうかね。…さて、そうやって紋土の悩みが解決をみて、3Bもグングン団結していく一方で、ひとり取り残されたのが千尋ということになります。金銭絡みで恨みを買うと、こういうキツイ扱いを受けちゃうんでしょうか。
- ○ お金に執着したために総スカンを食う千尋…。唐突な個性づけにはビックリしたけど(笑)、3Bが盛り上がれば盛り上がるほど逆に嫌われて落ち込んでいく千尋の姿を見ていてね、心が繋がって充実していくということの対極にあるのは、もしかしたら経済的な価値観なのかなぁ、なんて思った。
- ● そう言われてみれば、紋土の入賞お祝いに売り物のコロッケをタダでプレゼントしてくれたアッコさんなんてのは、お金より心が先にくる人の典型みたいなもので、「友情よりお金…」と何度も呟いてお札を数えていた千尋とはまるで正反対。象徴的でしたね。
- ○ 友情や愛情や思いやりの心って、見返りが目的ではないというところで、経済原理的な等価交換の意識とは逆の発想なわけじゃない。そこにギブ・アンド・テイクを求めすぎる子ってのは、自然とこう、仲間の輪から遠くなっていっちゃうのかな。
- ● ただ千尋は家庭に原因があって、「私が少しでも稼がないと」という気持ちが友人相手にお金稼ぎをさせているんですよね。現実的に、暮らしていける最低限の経済力がなければ、他人への思いやりだとか言っていられないというのは理解できませんか。
- ○ それはもちろん。だから、変な言い方になるけどそこが逆に千尋の救いだというか。心の面ではね。親のため、家のための貸金業なんだろうから。
- ● そして、ラストシーンは最初にも話した千尋の待ち合わせの場面になるわけです。仲間が誰一人来ていなくて、しかも怪しげな男がニヤニヤ近づいてくるという展開は、同じ待ち合わせでも紋土が父親に逢えたのとはあまりに対照的でした。
- ○ 千尋は3Bの誰かに騙されたのか、それともあのお兄さんが3B裏サイトに侵入していたのか…。3Bの輪から弾かれちゃっていたから、会について実際にクラスで確認できる状況でもなかったんだろうなぁ…。
- ● クラスメイトが仕掛けた罠だとしたらせっかくの団結も上っ面ということになるし、男が意図的に千尋を誘い出したとすれば何をされるか分からない怖さがありますよね。うーん、心配です。
- ○ どちらにしてもついに裏サイトを介しての事件発生だね。根深く悪質であるだけに、次回はちょっとヘビーになりそう。
- ● それと、いつも同じことを言うようですがやっぱりサトケンが心配です。さっきは「団結していく3Bでひとり取り残されたのが千尋」なんて言っちゃったんですが、サトケンはそのもっと前から取り残されているんですよね…。
- ○ うーん。サトケンは取り残されているというか、自分の方から壁を作っているというか…。
- ● 教室に全員揃った3B、果たして今年中には見られるでしょうか。
- ○ 前回から引き続いて紋土と父親のエピソードが中心になる中、3Bの輪から外れてしまった千尋が最後に…というシーンだったね。次回へ向けて気を持たせる終わり方をしてきたのは、第1話の美香の転校シーン以来になるのかな。これは事件の予感!
その他の周辺状況・小ネタ
- 鹿島田校長、久しぶりに登場。紋土のコンテスト出場に反対していた北副校長は、3位入賞という結果に掌を返して紋土を褒める。
- 職員室で乾先生、「今度カラオケ行きましょう!」とノリノリ。部屋で渋くクラシックを聞いていたのは四半世紀前のこと…。
- わずか6万円でアメリカ往復航空チケットが買える時代。3Bがネットオークションで売り上げた合計金額は42830円で、目標の6万円までにはあと17170円足りない。祐樹はこの計算を素早く出した。
- 詩織が売ろうとした壺は、実は江戸時代後期に作られたもので、300万円は下らない代物だという。あんなに大きな納戸があるとは、詩織は裕福な家の子? 「うちの子が悪いことをするはずがない」とこの親にもモンスター・ペアレンツの影がちらつく。また、親が高価な壺を大事にする…といって思い出すのは第7シリーズの狩野伸太郎か。
- 家の冷蔵庫から、ジュース類ではなく牛乳を取り出して飲む千尋。何となく物悲しい(それとも身長を伸ばしたいのだろうか)。また、千尋の部屋に好きなヴィジュアル系バンドのグッズは見られない。
- 家の事業がうまくいかず収入が減り、家庭不和になる…といって思い出すのは第6シリーズのノブタか。
- 金八は千尋の様子がおかしいことに気づいたが、心配して千尋にたずねても「別に…」と言って話そうとしない。
- 稼ぎが少ない茅ヶ崎家のために資金援助しようとネットオークションを主導した祐樹と大将に、金八は善意が人を傷つけることもあると諭し、「世の中で、よいことをするぐらい難しいことはない。人を助けるということは、その人を助けられる可哀想な人に決めてしまうことなんだ」という名言でたしなめる。納得いかない顔をして去っていく二人だが、金八はクラスに広がる思いやりを感じて嬉しそう。
- 紋土に届いた父からの手紙を幸作が翻訳したのだが、金八は息子の英語力に不安があるのか、矢沢先生にもう一度確認を取る。
- 乙女は交際相手の湯山にイブのデートを断られる。湯山の携帯の待ち受け画面には乙女ではなく前妻との間にできた娘の写真が映っており、ショックを受ける。しかし乙女、第5話では自分の携帯に触ろうとした金八を軽蔑していたのに、湯山の携帯は勝手に開いちゃうんだ…。
- 金八は、英語ができない紋土が父親と会話できるよう、簡単な挨拶文を教えてやって欲しいと矢沢先生に頭を下げる。「言葉の素晴らしさを教える絶好の機会だから」と少々臭いセリフで訴えると、乾先生の機転もあって矢沢は渋々承諾。
- 結果的に、紋土と父親の再会に言葉は必要なかったのだが、矢沢は「気持ちが伝わったならよかったじゃないか」と紋土に優しいことを言う。根はなかなかいい人だ。初期シリーズの乾先生はこんなもんじゃなかった(笑)。
- 紋土親子の再会の場は「帝都ホテル」。金八はその様子を陰からこっそり見守っていたのだが、3Bではそれを隠し、「お父さんと会えたか?」とさりげなく紋土に尋ねている。こういう内緒の行動なら、善意で人を傷つけることはない。
- 離れて暮らす父親とクリスマス近くに再会する…といって思い出すのは第6シリーズの鶴本直か。
金井亮子の「私」ノート
私はあの時、紋土のことを「黒人」と呼んだ自分が
今も信じられません。
紋土のことはみんなと同じクラスメイトだと思っていたし
海外で長く生活したことがある自分が
黒人に対して差別意識があるなんて思わなかったから…
でも先生がやったあの差別ゲームで
私の心の中にもそういう気持ちがあることに気づいたのです。
紋土を差別したことで、私は紋土を傷つけ
そして自分自身も傷つけました。
先生が言ったように、差別は不当で恥ずかしいことです。
私は自分自身の心の中から差別をなくし、
自由な心で生きていきたいです。
——— 金八 「亮子、君は一回り大きくなりました。…頑張れ。」
茅ヶ崎紋土の「私」ノート
僕は今までお母さんと二人きりで生きてきたと思ってました。
信じられるのは、自分とお母さんだけ。
まわりはみんな敵だと思ってきました。
だけど、今は違います。金八先生が言うように、
僕の人生はたくさんのやさしい手に守られていた。
それに僕は気づいてなかった。
お父さんは大きくてあったかかった。
先生とみんなのお陰で
僕は父さんを許すことができたと思います。
参考文献・挿入歌・BGM
- 【書籍】 落ちこぼれ—茨木のり子詩集 (茨木のり子著、理論社)
- 【書籍】 もっと儲かりまっせ。 (栗本唯著、あさ出版)
- 【書籍】 おくのほそ道 (松尾芭蕉)
- 【書籍】 生き物として生きる (中村桂子著)