ボイジ地域発展の要因は必ずしも確固たる産業政策の結果ではなく、地域の特性、個々の企業の巧みな経営による成長と地域内への投資それに州政府、商工会議所などの側面からの支援があいまって地域発展の要因になっていったと思われる。 以下ではいくつかの分類に従って要因を列挙することとする。
|
|
Boise on the Web アイダホ州ボイジー地域情報 |
ボイジ地域発展の要因は必ずしも確固たる産業政策の結果ではなく、地域の特性、個々の企業の巧みな経営による成長と地域内への投資それに州政府、商工会議所などの側面からの支援があいまって地域発展の要因になっていったと思われる。 以下ではいくつかの分類に従って要因を列挙することとする。
近年、カリフォルニア州所在の企業などが地価高騰や生活コストの上昇を嫌ってアイダホ州を始めコロラド、ユタ、アリゾナなど中西部各州への進出を図ると言う現象が見られる。 なかでもアイダホ州のコスト面での優位性は際立っている。 例えばガス料金や電気料金について比較したものが下表である。 ガス料金に関してはカナダなどからの天然ガスの供給があるため全米で最も低いレベルにあり、カリフォルニア州の3分の2以下の水準である。 また電力に関してもアイダホ州の電力供給の3分の2が水力発電で賄われているため全米でも最も低いレベルで、カリフォルニア州の2分1以下である。 ビジネス以外の生活面でもコストが低いことはあらゆる階層での人材確保を容易にしている。
![]() |
![]() |
住宅費用の平均でもボイジを始めアイダホ州の各都市はロスアンジェルス、サンフランシスコの2分の1〜3分の1の低水準にある。
![]() |
平均賃金はハイテク関連の人材の需要が強いこともあって1990年代に30.3%の上昇(1998年の1990年対比)をしたものの、全米平均よりは依然として2割程度低い水準に位置している。 下表は人件費の近隣各州との比較であるが、アイダホ州はユタ州やネバタ州とともに低水準に位置している。 労働環境も良いことから労災補償のコストも全米一低い点も企業にとっては魅力である。
![]() |
さらにアイダホ州政府は財政状態が良いため(州政府の抱える州民1人当たり負債額は全米一低い)1人当たりの税負担額はユタ州とともに低いレベルである。
![]() |
Regional Financial Associatesのまとめたビジネスコストのランキング(コスト構成を税金10%、エネルギー15%、労働コスト75%と仮定して算出)では、アイダホ州は西部各州の中でも最も低い水準を保っている。 以上のようなビジネス、生活両面での低コストがアイダホ州の大きな魅力であることは間違いない。
![]() |
アイダホ州について語るとき人々が口を揃えて言うことは、アイダホ州の生活環境のすばらしさである。 ボイジ地域の平均通勤時間は10分と言われており、ロスアンジェルスやサンフランシスコを始め大都市の通勤時間が長期化しているのとは対照的である。 また医療保険が黒字であることから全米でも最も医療費が安い。 犯罪発生率も大都市を抱えていない裏返しでもあるが、最も低い水準にある安全な都市である。
![]() |
これに加え、サンバレーなどのスキーリゾート、オレゴン州との州境にある全米一深い谷ヘルズキャニオンや急流スネーク川などの観光地が近く、そこでのクライミング、フィッシング、ハイキングなどのアウトドアライフが充実している。 またボイジのダウンタウンも小規模ながら活気があり、グローブと呼ばれる中心部の公園からEighth Streetにかけては洒落たレストランやブティックが並んでいる。 緯度の関係で夏などは夜9時でも明るいため人々が屋外のCafeでくつろぐ姿を見ることができる。 ここを中心に6月頃行われるBoise River Festivalは100万人の観光客を誘引し、全米Festivalのトップ10の1つに数えられている。 以上のような大気・水質の良さ、アウトドアライフの充実、低い犯罪率、通勤時間の短さなどの生活環境のすばらしさは、必ずしも統計上把握できないものの、多くの企業及び企業トップをアイダホ州に惹きつける最も大きな要因なのかもしれない。
アイダホ州では全米でも有数の手付かずの自然をどう残すか、と言う点が常に大きな問題として存在していた。 州東部の都市アイダホフォールズ近郊にあった連邦政府の原子力研究施設で放射性実験炉の爆発事故が起きた。 この問題に対して1970年に安全性より経済性が優先されている、と言う地元の報告を行っている。 原子力発電の安全性の問題が全米レベルで取り上げられる以前からアイダホ州ではこの問題が議論されていた(ちなみに中南部のアーコには米国で最初の原子力発電所がある)。 また鉱山開発の制限や1980年に州単位では全米で最も厳しい自然保護法を制定(帰らざる河自然保護法)するなど、環境問題に関しては厳しいスタンスを取っている。 ビジネスフレンドリーな対応をとりながらも環境問題に対して厳しいスタンスを一貫して堅持したことが、結果的には1990年以降も多くの企業を引き寄せる魅力になっているとも言える。
次に州政府、商工会議所などがボイジ地域の発展に果たした役割について見ることとする。 かつてのヒューレット・パッカードの誘致に見られるように州政府は補助金や税金の減免などのスキームを必ずしも多用してはいない。 オレゴン州が思いきった固定資産税の減免スキームで多くの大企業を呼びこんだのとは対照的である。 オレゴン州は多数の大企業の進出など成長のスピードが速すぎたため、学校、ユーティリティーなど周辺の住環境への影響が深刻化し、現在では従来の企業誘致政策は曲がり角にきている、と言われている。 一方ボイジ地域に関しては、オレゴン州のような誘致政策を使わなかった結果として、1990年代に人口増加率の点で全米3位の成長を記録しているにもかかわらず、今までのところ限界に達しているような状況にはない。 現在でもハイテク企業を中心に強い進出意欲があるが、当局の企業誘致の方針に変更はない。 極端な税金の減免などの方法は結局最後住民につけを払わせる結果になる、と言うのが当局のスタンスである。
税金の構成に関していえば、アイダホ州は既述のように税負担が比較的軽いことに加え、税収に占める売上税、所得税、固定資産税の割合がほぼ3分の1づつとバランスの取れた構成になっている。 隣接するモンタナ州、ワイオミング州との比較では、モンタナ州、ワイオミング州は所得税、固定資産税がほぼ2分1づつで売上税がない。 固定資産税に過度に依存した税収の構造を取ることは企業進出にはマイナスであろう。 さらにアイダホ州は税収の構成を近年に至るまでほとんど変化させることなくバランス良く運用してきたことは、税収の安定的な確保に繋がるとともに企業の進出に対し安心感を与えているものと思われる。
税金関連の施策としては
など単純な補助金は少ないが産業振興等のための減税スキームは多くもっている。
州政府などの積極的な役割としてはGem State Programと呼ばれる産業振興策の1つとしてWorkforce Development Training Fundと呼ばれる社会人教育の支援政策がある。
このほかアイダホ州商工振興部によって、コンピュータネットワークを通じて企業のビジネス情報が州政府を始め各企業に伝達される仕組みを構築している(アイダホ・ビジネスネットワーク)。 アイダホ州という遠隔地にあって取引先の開拓を行う場合に役立つもので、スタートアップ企業のスムーズな立ち上げを支援する内容になっている。 さらにスタートアップ企業を支援するための連邦政府の機関としてあるSmall Business Administrationによって長期・固定金利の融資(最長20年、75万ドルまで)が、Small Business Development Centerによって年間4千件を超える技術・経営指導が実施されている。
これ以外に州政府としては、アイダホ州が全米の州の中でも知名度が低いことから州のメリットを積極的にアピールすることによって輸出振興、外資系企業誘致、観光振興にも力をいれている。 観光振興は2%のホテル消費税をもとに独立会計で運営されている。 同州にとって1番の観光はアウトドアリクリエーション関係であるが、近時はコンベンションビジネスも増加しており、金額ベースでは年率7〜8%の伸びを示している。 さらに来年以降ソルトレークシティーでの冬季オリンピックの波及効果も期待できる。
ボイジ地域発展の最大の理由は地域内発型企業の成長と本社機能の維持・充実さらには地域内への再投資という好循環を生んだこと。 そして地域内にそれを支える環境を作りだしたことによる。 域内の小企業から米国他州への進出さらには国際的企業への発展形態は各社の巧妙な経営の力による点が大きいものの、各社の成功が先行事例として異なる分野の後発企業へ与えた影響は大きかったと思われる。 ボイジ地域は大消費地から離れているものの、この孤立性が同地域の環境の良さを保つとともに地元への再投資、地元への貢献を強める結果となった。 1970年代の終わりにJ・Rシンプロットがマイクロン・テクノロジーへの出資を行うなどの形が見られたが、80年代以降はハイテク派生企業に対応するためザ・アイダホカンパニー、エイカーズキャピタルと言った地場のベンチャーキャピタルも育ちつつある。 ボイジ地域は事業コストが安いため起業が容易であり、隔絶された地域であるため内部の相互扶助の精神が強いなどスタートアップ企業を成長させる土壌が自然に形成されていったのである。 発展した企業の多くが本社を大都市へ移すケースが多い一方で、ボイジ地域から成長した多くの企業は生活環境重視による人材確保の点に重点を置く決断をし、近時は情報通信技術の進展にも助けられて、本社をボイジ地域に置くハンディは殆どなくなりつつあると言ってよい。
それではボイジ地域における好循環を支える環境は何であろうか。 大都市圏から遠い地域にありながら多くの企業を成長させた要因の1つは交通インフラの整備である。 同地域はオレゴン州ポートランドとユタ州ソルトレークシティーを結ぶフリーウエー94号線が幹線道路としてあり、大陸横断鉄道も通過するものの陸上交通の要衝ではない。 従って空路の整備が重要となるが、もともとボイジ空港は第二次世界大戦中に建設されたもので軍に利用されたため滑走路の長さ、空港施設ともに申し分のない施設であった。 これがその後の大型機の飛行をいち早く可能にしボイジ地域の国際化を助ける結果となった。 現在では6つの航空会社によってデルタ航空のハブであるソルトレークシティー、ユナイテッド航空のハブであるデンバー、その他シアトル、ポートランド、スポーケンと1〜2時間おきに結ばれているほか、サンフランシスコ、サンノゼ、オークランド、ロスアンジェルス、ラスベガス、ミネアポリス、シカゴなどからも日に数本の直行便があり西海岸の主要都市はほぼカバーされている。 ニューヨークなどの東海岸や海外への直行便はないが、ハブ乗り換えを利用すれば1ストップで東海岸や海外のほぼどこでも行くことが可能である。 ハブ機能が発達しておりかつ航空運賃が安いアメリカでは、航空機の運行次第によっては大都市または空路の要衝とほぼ同様のサービスを受けることが可能となる(大都市にあっても空港までの渋滞などを考慮すればトータルの時間は変わらない)。 アクセスの問題は今後もボイジ地域にとっては極めて大切であり、乗降客数も1990年以降倍増していることから発着便の増加要請と施設の拡張を行っている。 2000年にスタートした空港の拡張計画は20年間で1〜3期の工事からなっており、最終的には現在の施設を2倍に拡張する予定となっている。
グローバル企業に成長した多くの企業が本社をボイジ地域に維持できたのは、情報通信技術の発達によって同地域でもオペレーションが可能になったことも1つの要因である。 州と地域電話会社のUSWESTとの間の取り決めで、同社(及び分割前のAT&T)は1981年から10年間で140百万ドルあまりの最先端のデジタル回線や光ファイバー網への投資を行った。 これに伴う電話料金の値上げに対しては顧客からの強い反対があったが、当局は「あなたがたがこの設備を欲しくなくてもあなたの孫は欲するであろう」と回答しこの措置を断行した。 米国の場合、規制緩和が進んでおり地域の独占もなくなりつつあるため地域での多様なサービスが可能であるが、規制緩和の結果として投資効率の良い大都市圏を中心とした整備が進むことが多い。 人口の少ない地域に対しては連邦政府などによって各種のインセンティブが用意されているが、アイダホ州政府のように通信会社と取引し協定を結んで効率的に情報通信網などの整備を進めるやり方も有効である。 これらの決定によってアイダホ州は光ファイバー網を含め他州に先んじた情報通信網を整備することが可能となった。 シアトルに本社のある貨物輸送会社Airborne Expressがボイジ進出を決定したのも、同地域にアイダホフォールズに本拠のあるTele Servicing Innovations Inc.を始め10以上のコールセンターがここ数年で建設されたのも、高度な情報通信網の整備がなされていることが大きな決め手となっている。
ボイジ地域の高校進学率(82%)、大学進学率(21%)はいずれも全米平均を上回っている(それぞれ75%、20%)。 またScholastic Aptitude TestやAmerican College Test などの学力テストも全米レベルを上回っており、教育水準は比較的高いレベルにあると言える。 近時はカリフォルニア州などから低い生活コストを求めて優秀な人材が流入しているため、企業にとっても人材の確保は比較的容易であったが、最近ではハイテク産業の急成長により工科系の人材が不足する傾向が生じていた。 これに対応するため
などの動きが見られる。 州内への人材の供給を目的としてJ・R・シンプロット、アルバートソン、マイクロン・テクノロジーなどの大企業の多くは毎年継続的に高等教育機関などへの多額の寄付を行っている。 州サイドもWorkforce Development Training Fundと呼ばれる社会人教育の支援政策などの仕組みをもっており地域内への人材の供給体制が構築されている。
ボイジ地域はホテト王として名を馳せたJ・R・シンプロットに見られるように起業化精神が旺盛であり、多くの企業の成功例がさらなる起業家精神を育てる土壌となっている。
また他の地域から隔絶されているため通常の重工業などは発展しにくいことから、多くの企業は独自のマネージメントでニッチ分野を切り開く必要があった。 そして隔絶性ゆえに地域内での相互扶助の精神が強いこともプラスに作用した。 ボイジ地域は既述の5大企業に代表される多様な産業構成を形成してきた。 特に近年はハイテク産業の集積も加わることで1次産業関連製品への依存度が低下し産業構造の一層の多様化が図られ、経済変動に対する安定性が増したと思われる。
|
|
Boise on the Web アイダホ州ボイジー地域情報 |
Copyright (C) 1998-2001 Masaru Kada 無断転載を禁じます (掲載情報の利用について)