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第8シリーズ 6話 「自己主張は金髪で」
定期テストまであと3日。みーちゃん(藤井真世)は、仲良しの平野みなみ(菅澤美月)にくっついていつも同じように行動している。しかし、一人で何も出来ないことをクラスメイトに心配され、「みなみはお世話が大変だって言ってたよ」と聞かされると大ショック。どうすれば自己主張できるのかと森月美香(草刈麻有)に尋ね、「自分に嘘をつかないこと」だと教わると、早速その翌日、大好きなロックバンドのように髪の毛を金色に染めて登校する。
みーちゃんは自立を意識するあまり、みなみとの約束を忘れて他の生徒とテスト勉強に励む。それを知ったみなみもショックを受け、懸命に謝るみーちゃんに「じゃあ死ねと言ったら死んでくれるの? 口先だけのくせに」と暴言。後になって大切な友達が本当に自殺をしたら…と不安になり、みーちゃんの姿を探して辺りを駆け回るも、もんじゃ屋で楽しく談笑しているのを発見。みなみのショックは倍加し、思い余って「うそつき金髪女、死ね」と裏サイトに書き込んでしまう。
桜中はテスト期間に突入。早くも白旗のチャラ(真田佑馬)とニコラス(岩方時郎)は、問題用紙を盗み見ようと夜の職員室に侵入し、そのとき偶然にも屋上から身を投げようとしているA組の生徒に遭遇する。翌日二人は自殺を止めたと噂になり大喝采。しかしチャラは、説得には失敗し転んだ隙に押さえただけだと正直に告白する。そこで金八(武田鉄矢)は自殺抑止のロールプレイを企画。頭で考えた理屈ではなく身体から素直に出た言葉が相手に届くのだと教え、同時にみーちゃんとみなみに本心を言い合える場を提供して仲直りに一役買うのだった。
次の日の朝、みーちゃんは黒髪に戻して登校する。一方、チャラとニコラスは数学の答案が全く同じだったことから不正が発覚。金八に油を搾られた後、自殺者を助けたことに免じて追試という温情措置を受けるのだった。
平成19年度 桜中学3年B組生徒座席表
みどころ談義
- ● みーちゃんとみなみ、チャラとニコラス。二組の仲良しコンビのお話でした。みーちゃんがとにかく無邪気で素直! とても自立とはいえない思いつきの行動が波乱を呼ぶんですが、どこか憎めない。そういう魅力が詰まってましたね。
- ○ 表情や喋り方がとても素直であどけなくて、チャーミングだったよね。でもみーちゃんド天然すぎる(笑)。振り回されたみなみが気の毒だなぁ。今回はそんなみーちゃんの自由な性格に全体の内容も合わせたのか、厳しさや毒気といったものとはほとんど無縁の一話だったんじゃないかな。
- ● 展開はかなり都合よく進んだと思います。大体なんでクラスメイトがいきなり自立を勧めてきたのか不明ですし、桜中の管理体制の甘さったらないですよね(笑)。でもそのかわりとても軽くてテンポよく見れました。チャラとニコラスの掛け合い漫才や、ロールプレイでのコント風の雰囲気にはニヤリとさせてもらったし、場面と場面の間に「定期テスト○日目」なんて軽快なブリッジ(アイキャッチ?)が入って、リズムが大事にされていて。
- ○ 違うドラマを見ているような印象も少しあったけれど、自殺を予感させた橋のシーンでの大胆なカットバックやカメラを揺らしながら撮る技法、ヴィジュアル系音楽の挿入歌を入れたりとか、そういう部分でもいつもと違う雰囲気があったから、ひょっとしたら作り手さんもわざと今回は実験的に作ってみたのかもしれないな。
- ● そういえば、最初の方に理科の実験のシーンがあったじゃないですか。実はこれが「今日は実験的にいきますよ!」というメッセージだった…なんて、考えすぎでしょうか(笑)。
- ○ そういう深読み、好きだなぁ。今回は自殺という重いテーマを扱ったんだけれど、自殺に関連した話って今までのシリーズではとても深刻な問題として出てきていて…
- ● 第1シリーズの越智はるみにはじまって雪乃の兄や、第2シリーズでは佐々木博子がそうでしたし、第3では竜一がタンクの上に登っちゃったり、第4では広島美香が金八先生に間一髪助けられましたよね。第5では好太、第6では美紀の父親、第7は崇史…
- ○ そうそう。そのどれも、命の大切さをシリアスに、ドラマチックに伝えるのが常だったじゃない。でも今回はこれさえも軽快というか、リラックスした雰囲気でさ。最後に金八先生がにこやかに諭すところもちょっと変わった切り口で、このテーマをじんわりと伝えるというチャレンジにも見えたな。
- ● でも、いくらじんわりといっても、みーちゃんとみなみが簡単に仲直りできちゃったのはちょっと安直じゃなかったですか? もうひと山あってもよかった気がします。
- ○ たしかにね。みーちゃんは「本当に死んじゃおうかと思ったんだよ!」なんて泣きそうな顔でみなみに訴えていたけど、じゃあ、あのときもんじゃ食べながら爆笑してたのは何だったんだという疑問は残るよなぁ。
- ● そうですそうです。みなみはそれを見て傷ついたんだから、そこを突っ込んで欲しかったんですよ。もっとお互い悔し泣きでぐじゃぐじゃになるくらいやり合って、思いのたけを心底ぶつけてから、金八先生が涙ながらに収める。そういう展開を期待する気持ちもやっぱりありました。
- ○ でもまぁ、冷戦状態になった二人に対話できる場所を用意してやって、あとは少し引いた位置から見守る感じが最近の金八先生のいいところじゃない。前回サトケンのお父さんに「一度しっかり話し合ってみてください」と勧めたのも同じ姿勢でしょ。きちんと生身の人間同士が向き合って話をすることで、はじめて気持ちが伝わる。それを教えているんだよ。
- ● そういう地味な役割に徹しているというのも素敵なところではあるんですけどね。それと、遠藤先生とは違って美香の発言にたじろがない金八先生の芯の強さ。ここはすごく頼もしく見えました。
- ○ おっ、いいところに目をつけた。さっきは「厳しさや毒気とはほとんど無縁の一話」と言ったんだけどさ、金八先生はこの美香とのやり取りの中でほんの少しだけ、けれどもとても重要な厳しさを見せていた。もちろん分かったよね?
- ● …美香に対して「0点」と厳しい採点をして、私は先生だから点数をつけるんだときっぱり言い切っていました。
- ○ そこで「借りてきた言葉はレッドカード」という言葉で牽制したでしょ。これがすごく特別だったと思う。だって、美香がロールプレイで言っていた「イスラム教では神の思召しで生まれ変わる」って、正しい知識じゃないんだよ。逆に自殺は大罪になるのが一般的なイスラム教の考え方らしい。
- ● そうだったんですか!
- ○ おそらく詳しくは知らない分野なのに、言葉のうわべのイメージだけで理屈に使っちゃったんだな。美香にとっては何てことない一言だったかもしれないけれど、金八先生には中身のないハッタリにしか聞こえなかったんだと思うよ。
- ● たしかに先生は美香のその主張を聞いたとき、下を向いて頭を掻く仕草をしてました。「困ったやつだなぁ」という感じで。
- ○ 「頭で考えた言葉より体から出た言葉が大事」というのは、ネット世代を意識した発言なんだと思う。あふれる情報の中から都合のいい言葉だけを簡単に借りられる時代。それに対する警鐘をここでは厳しく鳴らした。そして、教師と生徒の関係の間には歴然とした線引きがあるということも示してみせた。今回の話は、この厳しさに気づくかどうかでだいぶ印象が変わると思うな。
- ● なるほど…。ただ軽いだけの話じゃなかったんですね。
- ○ 自分の意見とは何か。命とはどういうもので、何が人の心を動かすのか。今回のこういったテーマのハイライトがここだったと思う。
- ● 借りてきた言葉や借りてきた金髪は本質じゃないということですね。あぁ、このロールプレイの雰囲気のまま終わればまだその余韻も残ったのに、チャラとニコラスはまったく余計なオチをつけてくれちゃって…。
- ○ ははは。あれはあれでおかしかったじゃない。最後にまた軽いところに戻っちゃったけれど、あれもまた借りてきた答案で、チャラたちの本質ではなかったということかな。言い訳を頭で考えないところもよかったよ。
- ○ 表情や喋り方がとても素直であどけなくて、チャーミングだったよね。でもみーちゃんド天然すぎる(笑)。振り回されたみなみが気の毒だなぁ。今回はそんなみーちゃんの自由な性格に全体の内容も合わせたのか、厳しさや毒気といったものとはほとんど無縁の一話だったんじゃないかな。
その他の周辺状況・小ネタ
- 美香、理科の実験に参加せず携帯プレーヤで音楽を聴いて遠藤先生に怒られる。が、結果は知っていると平然と言ってのけ、さらにプレーヤを没収されかけると「どうぞ取ってみて下さい。そのかわり身体に触ったらセクハラです」と挑戦的な態度をとる。屁理屈は止まらない。
- 順子の話によると、卒業式に楽器演奏がある模様。
- みなみがみーちゃんを探して駆け回った、橋、街中、公園のシーンのいずれもに、黄色い帽子をかぶった幼稚園児の仲良し二人組が映っている。細かい演出!
- サトケンの父は考え方が変わり、息子と対話しようとしはじめた様子。しかしサトケンはまだ部屋から出ようとせず、父から届くメールも目を通さずに削除している。
- チャラは、職員室の鍵を北副校長の手から偶然どさくさに入手。副校長の方から渡したようにも見え、返却も素直にしていることから、はじめから計画的に企てたものでないことは明らか。また、なくした鍵を必死に探す副校長の姿はどこかコミカル。
- 自殺抑止のロールプレイは、杉並区の和田中学校で実際に行われている。和田中の校長先生は民間登用の藤原和博さん。この方については第7シリーズでも採り上げた経緯があり、「民間校長、中学改革に挑む」「公立校の逆襲 いい学校をつくる!」の二冊の著書が紹介された。
- ロールプレイで金八先生が口ずさんだ「悲しいメロディのハミング」は、「七人の刑事」か? 七人の刑事はかつてTBSが放送した人気ドラマで、金八第1シリーズがスタートする直前まで同時間帯で放送されていた前番組でもある。小山内美江子さんも一時脚本に携わっていた。
- 「死んだ方がマシ」という言葉は語法としておかしいと話す金八。生きているときと死んでいるときを比べられるのは死んだ人だけ。ゆえに死んだ人しか使えない言葉である。…なるほど、納得。
- 光也のテスト成績は前期よりも少しアップした模様。
- みーちゃんはみなみを真似してばかりといいながら、アイドル系よりヴィジュアル系、リコーダーよりもピアノ、ミサト女学院より都立緑山…と、結構自分の本当の志向をしっかりと持っていた。誰かの真似をしなければ自分が皆目分からないというタイプではない。
- みなみはみーちゃんの好きなお菓子やパンをわざわざ用意して待っていたり、自分の一言で傷つけたと思うや息せき切らして探し回ったり、とても友達思いの良い子。
- 予告にあった「良い子は一度悪い子になってから良い子になるんですよ!」という金八の熱いセリフは、本編ではカットされた模様。
参考文献・挿入歌・BGM
- 【音楽】 REGRET (the GazettE)
- 【資料】 東京都杉並区和田中学校 [よのなか]科 授業より
- 【音楽】 七人の刑事 (フランク永井)