第12回 指示代名詞

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[要点]
  1. 変化
    1. hutosの変化
    2. hodeの変化とアクセント
    3. ekeinosの変化
  2. hutos:「その(この)」
    1. 呼びかけ
    2. 前者後者
  3. hode:「この」
  4. ekeinos:「あの」
  5. 語順
    1. 指示代名詞的用法
    2. 指示形容詞的用法

変化

 指示代名詞は次のように、ほぼ第一・第二変化をします。呼格はありません。

指示代名詞の変化表

hutosの変化

 基本的には第一・第二変化ですが、男性・女性の主格(単数・複数)の時には語頭のτと、中性単数主格・対格の語尾のνがありません。

 また、hutosは-ου-が語幹に出ますが、語尾にαやηが来る場合は、-ου-が-αυ-になります。

 女性形の単数・複数の主格形(hautehautai)は、強意代名詞autosの女性形の単数・複数の主格形(auteautai)と紛らわしいので注意が必要です。

hodeの変化とアクセント

 このは、冠詞と接尾辞deを組み合わせた合成語で、語尾のdeの部分ではなく、冠詞にあたる前半の部分だけが格変化します。

 アクセントを決定する場合にも、合成語(冠詞+接尾辞)ではなく別々の二語(冠詞と前接辞)であるかのように扱われます。deultimaとは看做されていないため、hedeなどは、原則(ultimaの母音が短母音(de)でpaenultimaの母音が長母音なら、paenultimaは曲アクセント)から外れたアクセントになっています。

 また語末の−εは、直後に母音で始まる語が続く場合は、省音されます。

ekeinosの格変化

 ekeinosekei(あそこで、あの場所で)という副詞に-enosという接尾辞をつけたものですが、hodeの場合とは違って、ふつうの名詞や形容詞と同様に語尾の部分が格変化します。

hutosの用法

 hutos聞き手にも話し手にも近い(話し手にとってはhodeよりは遠く、ekeinosよりは近い)事物や人を指します。便宜的に「その」と訳をつけましたが、日本語の「その」のように「自分(話し手)よりも相手(聞き手)に近い」というわけではありません。ekeinos「あの」「あれ」に対応する、「この」「これ」と訳すほうが適切な場合もあります。

 hutosも他の指示代名詞と同様、独立して「それ」「そのもの(人)」「そのこと」「そなた」と指示代名詞として用いるほかに、名詞と組み合わせて「その少女」「その机」というように指示形容詞として使うこともできます。

 hodeの場合は「話し手に近い」ということだけが肝要なので、聞き手がhodeの内容を知っているとは限りませんが、hutosは話し手だけでなく聞き手にも近いものを指し、聞き手も知っていることを前提しています。そこで、「既に述べたそのこと」「以上のこと」というように、既出のことを指すのにも用いられます。

【例】

【例外】

 ただしtutoは「以下に述べること」「次のこと」を指すことがあります。

呼びかけ

 指示代名詞には呼格はありませんが、hutosは、主格形にoという間投詞をつけてohutos「おお、そなた」「もしもし、そこのお方」というふうに呼びかけの常套句として使われました。

前者後者

 hutosekeinosと組み合わされて「後者」を意味することがあります。この場合、ekeinosが「前者」になります。

hodeの用法

 hodeは、(hutosよりも)話し手に近い人や事物を指します。hutosとは違って聞き手とは無関係で、「話し手に近い」「自分には馴染みである」ということが要点です。聞き手にも近い(聞き手も知っている)かどうかは問題にならないので、聞き手がhodeの内容を知らない場合にでも使うことができ、話や文の中でこれから述べられること、「以下のこと」「後述のこと」を指すことがあります。

【例】

 ほかの指示代名詞と同様、独立して「これ」「このもの(人)」「このこと」「こなた」と指示代名詞として用いるほかに、名詞と組み合わせて「この少女」「この机」というように指示形容詞として使うこともできます。

ekeinosの用法

 ekeinosは聞き手からも話し手からも遠いものを指します。ほかの指示代名詞と同様、独立して「あれ」「あのもの(人)」「あのこと」「あのかた」と指示代名詞として用いるほかに、名詞と組み合わせて「あの少女」「あの机」というように指示形容詞として使うこともできます。

 またhutosと組み合わせて「前者・後者」という意味になります。ekeinosが「前者」です。

語順

 hutosなどは、指示代名詞として(「これ」「彼」「その人」)使われるほか、指示形容詞(「この〜」「あの〜」)としても使われます。

指示代名詞的用法

 hutosなどは、次のように代名詞として独立して使われます。

【例】

 またこの用法の属格(「彼の」「彼女の」「それの」)は、所有代名詞の代用として使われます。この時、hutosなどは、通例、名詞と冠詞の間に入ります(属性的位置)。

【例】

【参考】

指示形容詞的用法

 名詞と組み合わせて、名詞を修飾する指示形容詞としても使われます。この場合、名詞にはふつう冠詞がつけられますが、ふつうの形容詞と違ってhutosなどは名詞と冠詞の間(属性的位置)には入りません。常に名詞と冠詞の組み合わせの外に置かれます(述語的位置)。冠詞と名詞の間でなければ、前に置いても後ろに置いてもかまいません。

 これはふつうの形容詞であれば「AはBである」と述語になる語順ですが、hutosなどの場合は「AはBである」ではなく、「このAは」「そのAは」という意味になります。

【例】

最終更新日: 2002年7月4日   連絡先: suzuri@mbb.nifty.com