7.2 発注者名を極める

7.2.1 刻印の変遷

1st wrote at 2000.08.01 / Last update at 2006.08.09

 古レールの刻印の中には、製造年代とともに刻印の内容に変遷が見られるものが幾つかあります。

 ここでは、このうち、

  • 八幡製鉄所(官営八幡製鉄所〜日本製鉄〜八幡製鉄〜新日本製鐵)の刻印の変遷
  • CAMMELL の刻印の変遷
  • について、調査結果などを元に検討することとします。

    (1)  八幡製鉄所

     地質学(地学)の用語に「示準化石」というものがあります。これは、「その化石が見つかれば時代が判明する」と答えれば、高校程度の試験であれば正解としてもらえるかもしれませんが、厳密には、
  • 大量に産出(見つかる)こと
  • 進化速度が早く、同一種の生存期間が短いこと
  • などといった特徴から、その化石の産出をもってその地層の年代を推定することができる点に価値が有ります。

     古レールの場合、この示準化石に相当するものとして、八幡製鉄所(官営八幡製鉄所日本製鉄八幡製鉄新日本製鐵)製のレールが挙げられます。
     八幡製鉄所製の古レールの刻印は、10年程度を一区切りとして刻印の内容に変化が見られることから、刻印が良く読めない場合でも、ある程度の年代を絞り込むことが可能です。
     また八幡製鉄所製の古レールは古レール全体の約半数にのぼる一大勢力となっています。そのため、それが見つかる施設の建造年を推定するなどといった応用も可能です。

     そこで、これら八幡製鉄の古レールの刻印の変遷について、筆者の古レールの調査リストをから検討してみました。検討結果は、下の表に示します。なお、各レール種別の初造年については『鉄道史見てある記』の「皇紀ニ六〇八年製,レール余話・その3」を参考としました。

    製 造
    (年.月)
    刻印の先頭部分の例(重量別) 単語間隔 単語間の区切り 製造年の表示 製造月の表示 製鋼炉の種類の表示 発注者名の表示 調査
    リスト
    社名
    ・所名
    100 Lbs
    (50kg)
    75 Lbs
    (37kg)
    60 Lbs
    (30kg)
    2001.11
    〜1970.4
    → 50N
    LD (S)
    ← 37 A
    LD (S)
      普通 なし 西暦 縦棒 前方にLD なし 新日本製鉄
    1970.3
    〜1966
    ← 50N
    LD (S)
        1970
    〜1962
    八幡製鉄
    1965
    〜1962
    → 50N (S)     最後尾にOH
    1962.1 ?
    〜1952
    50.PS. (S)  37.A. (S) 30.A. (S)

    たまに

    30. (S)
    もある ?
     
    ドット 1961
    〜1950
    1952〜
    1950.4
    37. (S)
    1950.3〜
    1948.11
    1950 日本製鉄
    1948.10 皇紀 1948
    1948.9
    〜1948
    西暦
    1947
    〜1941
    皇紀
    1940〜
    1940.1 ?
    西暦 1940
    1939 ?
    〜1934.2
    30. (S)
    1934.1 ?
    〜1932.4
    1934 官営八幡製鉄所
    1932.3 ?
    〜1929.2
    (S) 37 A (S) 30 A かなり広い 50PSのみOH表示 1932
    1929.2〜
    1926.6 ?
    (S) 75 A (S) 60 A なし 1929
    1926 ?
    〜1922 ?
    ↑1928年
      より
    なし
    1926
    1921.10?
    〜1916.9?
      ロ|マ数字 裏面 1921
    1916.6?〜
    1904.12 ?
    1907年 
    より→
    (S) NO 75 A (S) NO 60 A
    (S) NO 60 B
    広め 1916
    1904 ?〜
    1901.11
        (S) NO60B なし 1904
    注) 上表の「刻印の先頭...」の「(S)」は、「(丸Sマーク)」または「(Sマーク)」の意。

    (2)  CAMMELL

     古典的レールの代表格とも言える CAMMELL ですが、駅のホーム上屋などで見る限り、塗装の重ね塗り等により、不明瞭となっている例が少なくありません。その一方で、短い期間(概ね1880年代〜1900年代)に刻印の記述の方法が目まぐるしく変化しています。そのため見つけても、全容がはっきりしないものが多く、毎度悩まされる結果となっています。
     そこで、CAMMELL 製レールについて、本調査結果の不足分を既往文献の記載で足して、CAMMELL 製レールの刻印の変遷について、整理してみました。
     後年になるに従って、SHEFFIELD が略されたり(1888年以降)、TOUGHENED が無くなったりして(1890年頃以降)、刻印が段々短くなって行きます。また、当初は発注者名が記述の最後でしたが、後年はセクション(SEC ???)が記述の最後となるように入れ代わっています(1889年以降)。
    製造 刻  印  の  例 発見地 文献名
    1907 CAMMELLSSTEELW1907 SEC491 (三峰口)  
    1906 〜 1903:記録なし
    1902 CAMMELL・S. STEEL W.   1902 SEC 605 H.T.K.   (補遺)
    1901:記録なし
    1900 CAMMELL・S. STEEL W.1900 NARITA SEC 131   序説(下)
    1899 〜 1898:記録なし
    1897 CAMMELL・S. STEEL W.1897. SEC 550 KIWA (大垣 序説(下)
    1896 CAMMELLS STEEL W4 1896.S.T.K. SEC461 (江古田)  
    1895 CAMMELL・S. STEEL W.1895. H.T.T.K SEC 490   序説(下)
    1894:記録なし
    1893 CAMMELL・S STEEL  W  9 1893 SEC4?1 (三峰口)  
    1892 〜 1891:記録なし
    1890 CAMMELL・S TOUGH?????TEELW. 1890 S.T.K. SEC461 (大久保)  
    1889 CAMMELL・S TOUGHENEDSTEEL.W.1889 S.T.K. SEC350   (再補上)
    CAMMELL・S TOUGHENED STEEL.W.1889 SEC350.O.T.K (笠岡)  
    1888 CAMMELL・S TOUGHENED STEEL.W.1888 K.T.K. SEC351 (東淀川)  
    CAMMELL・S TOUGHENEDSTEEL.W.1888 SEC131 I.R.J (両国) 見てある記
    CAMMELL SHEFFIELDTOUGHENEDSTEEL.W.1888 SEC131 I.R.J (松本)  
    1887 CAMMELL SHEFFIELDTOUGHENEDSTEEL.W.1887.SEC131.I.R.J (来宮)  
    1886:記録なし
    1885 CAMMELL SHEFFIELDTOUGHENED STEEL.W.1885.【切断】 (門司  
    1884 CAMMELL SHEFFIELD TOUGHENED STEEL W.1884.SEC.131I.R.J. (大井  
    1883:記録なし
    1882 CAMMELL   S???????? ??UGHEN? ST???  C   1882【不明】 (南浦和)  
    1881 CAMMELL SHEFFIELD TOUGHENED STEEL C 1881 IRJ SEC 131 (長沼)  
    1880 CAMMELL SHEFFIELD TOUGHENED STEEL C. 1880 SEC 131 IRJ (木ノ本) (再補上)
    1879:記録なし
    1878 CAMMELL SHEFFIELD TOUGHENED STEEL C.1878 SEC 104 IRJ   (再補上)
    上の表の文献名の正式名称
    略号 正式名
    見てある記 『鉄道史見てある記』
    序説(中) 『レールの趣味的研究序説〔中〕』
    (補遺) 『レールの趣味的研究序説〔補遺〕』
    (再補上) 『レールの趣味的研究序説〔再補・上〕』


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