6.2.2 古レールの刻印を解読する(米国2大メーカー製) |
1st wrote at 1999.10.09 / Last update at 2006.09.13 |
古レールのメーカーごとの解説です。アメリカ(合衆国)のレールメーカーは、当初(1900年頃まで)は小さいメーカーが多数あったものの、1920年頃までにUS
スチール
(United States Steel)とベスレヘムスチール(Bethlehem
Steel)の 2 大系統に合流・合併したようです。ここでは、これら二大メーカー製のレールを集めてみました(その他の米国諸社製はこちら)。
メーカー名(および系列名)の読みとその製造地名については、『レールの趣味的研究序説』,『レールの旅路』や、ベスレヘムスチールのウェブサイト,US
スチールのウェブサイトを参考にしました。
以下の順番は、製造元名のABC順としています。
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(1) ベスレヘム製鋼会社(Bethlehem Steel Co.)いくつかの米国の製鉄会社が合流して形成された大製鉄会社。ベスレヘム製鋼会社のウェブサイトにあった社史のページによると、1861年に "Bethlehem Iron Company" として操業を開始し、1873年からレールを製造、1899年に・"Bethlehem Steel Company",1904年に "Bethlehem Steel Corporation" に改称しています。1916年より中小の製鉄会社と合併するようになり、同年には "Maryland Steel","Pennsylvania Steel" (Steelton) など,1922年に "Lackawanna Iron & Steel Co.",1923年に "Cambria Steel Co." などを傘下に収めました。最終的に、米国第2位の鉄鋼メーカーに成長したようです。・ ベスレヘム製鋼会社の本拠地は、"Maryland Steel" を引き継いだ Sparrows Point にあったようです。ベスレヘム製鋼会社は、20世紀末に業績が悪化し、Bethlehem (1995年),Jonstown (Cambria, 1994年5月),Lackawanna (1983年),Steelton (1999年) の各工場で鋼|の製造を終了しています。さらに、オハイオ州 Richfield(リッチフィールド)に本拠地を構える、"International Steel Group" (ISG) によって、2003年5月7日までに買収されてしまいました。 各工場(地域)ごとに、刻印の内容や順序が違っていますが、大概の場合、社名の略である「B.S.CO.」の刻印が大抵入っています。また、この会社の代理店と思われる、CONSTECO と書かれた紡錘形のマークが入っていることが時々あります。 | BICO | CAMBRIA | LACKAWANNA | MARYLAND | STEELTON | |
ベスレヘム鉄鋼社(Bethlehem Iron Co.)
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アメリカのベスレヘム製鋼会社の前身のベスレヘム鉄鋼社のレールと考えられています。 ベスレヘム鉄鋼社は1873年からレールの製造を開始しており、1876年製のこのレールを、ベスレヘム鉄鋼社製と見ることに矛盾はないと考えます。 豊橋のものについては、『鉄道シーン 500』に西野保行氏が書き寄せている「(177) 名鉄に見られる1870年代レール」に正に記されているものではないかと思います。 略沿革は、ベスレヘム製鋼会社のウェブサイトの社史のページや "Bethlehem Works" (製鉄工場の建物を再活用している)のウェブサイトの歴史のページを参考としました。 |
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名鉄名古屋本線 豊橋駅(90度回転) |
ラッカワンナ(B.S.CO. LACKAWANNA)
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盛岡駅の1922年製レールは、ベスレヘム製鋼会社のレールを販売した商社(?)のCONSTECOのマークが入っていますので、合併後の一例でしょう。なお、このレールの刻印の先頭の「OTARU」は、『私の見た古レール』によれば、陸上げ港の小樽を示したもののようです。 略沿革は、"Buffalo Architecture and History" というウェブサイトにあるページを参考としました。 |
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高山本線 飛騨古川駅(90度回転) |
メリーランド(B.S.CO. MARYLAND)
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刻印の先頭付近に Bethlehem Steel Co. の略の B.S.CO. の略号が入っています。ASCE レールでも、60ポンドは "60A"、75ポンドは"75AS" と標記が異なるようです。 所沢のものは、TYPE IIIAというロシアの東支鉄道向けの規格のレールです。 略沿革は、"Maritime Business Strategies" というウェブサイトにあるページを参考としました。 |
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北陸本線 木之本駅(90度回転) |
スチールトン(B.S.CO. STEELTON)
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アメリカのベスレヘム・スチール社スチールトン製。元の "Pennsylvania Steel" 社がベスレヘム・スチール傘下となったのは、1916年のことのようです。以降、"B.S.CO. STEELTON" の略号が入るようになります。 『レールの趣味的研究序説〔下〕』によれば、南満州鉄道のマークが入った STEELTON 製レールが仙石線本塩釜のホームと東北線南浦和駅付近の跨線橋で見られたそうですが、前者は高架化による付け替えですでになく、南浦和では確認できなかったので幻のレールとなっていましたが、JR中央線武蔵境駅や東北本線蓮田駅から発見できました。両毛線の佐野駅には、比較的まとまってありましたが、駅の橋上化工事の際に撤去されてしまったようです。 略沿革は、"Dauphin County Genealogy Resource Center" のウェブサイトにあるページや、その他インターネット上の断片的な情報を参考に整理しました。 |
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↑東北本線 蓮田駅(90度回転) | 東武 東上線 下赤塚駅(165度回転)↓ |
(2) US製鋼会社(United States Steel)幾つかの米国の製鉄会社を小会社として傘下に納めていって形成された大製鉄グループ企業。1901年に "Carnegie Steel Co." の創業者(アンドリュー=カーネギー)が事業を譲渡したのち、これを中心に1901年に "Illinois Steel Co.","Lorain Steel Co.",1907年に "TCI & RR Co." (TENNESSEE) を傘下としました。これら US スチールの歴史は、James R. Alexander 博士の "zanderpage" というウェブサイトのページに詳しく記されています。 "United States Steel Corporation" は、ペンシルバニア州ピッツバーグ(Pittsburgh, PA)を本拠地としていました。1986年に "USX Corporation" と改称したり、2003年5月20日までに "National Steel Corporation" に買収されたりと、近年は動きが活発です。 小会社の集合体という形態であったためか、各工場(地域)ごとに刻印の内容や順序,字体が異なっています。1910年代末よりレールの断面を表現した
4〜5
桁のコードナンバーを使用するようになる点は共通点とも言えますが、コードナンバーを使用しているヨーロッパのレールメーカーもありますから(PROVIDENCE)、この一点を共通点とするのも難しそうです。このコードナンバーは、当初は
"Illinois Steel Co." が使っていたものを拡張・流用したようです。
| CARNEGIE(1901〜1910 , 1910〜1935)| ILLINOIS | LORAIN | TENNESSEE | |
カーネギー (CARNEGIE, US Steel) その3 (1910〜1935)
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ここでは、レールの断面規格が刻印されるようになる1910年代以降のものをまとめました(1909年以前のものは次項にあります)。このうち、1914年 (?) 頃以降のものについては、USスチールのコードナンバーが入るようになり、字体も TENNESSEE のような角ばったものとなります。 刻印中の「ET」は、カーネギースチールの前身の「エドカートムソン工場」製を示しているようです(『レールの趣味的研究序説〔中〕』)。 略沿革は、"United States Steel" のウェブサイトの "Edgar Thomson Plant" のページやJames R. Alexander 博士の "zanderpage" というウェブサイトのページを参考としました。 |
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名鉄名古屋本線新岐阜駅(170度回転) | ↓名鉄名古屋本線新岐阜駅(170度回転) |
カーネギー (CARNEGIE, US STEEL) その2 (1901〜1909)
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ここでは、1901年以降で発注者名が入っているケースの多い1910年より前のレールについてまとめました(1910年以後のものは前項にあります)。発注者名としては、年代の新しいレール(上)から、関西鉄道(K T K),官鉄(IRJ,工),山陽鉄道(STK)(1896年製も),東武鉄道 (TTK),横浜鉄道 (YTK),日本鉄道 (NTK)などが見られます。 この時期の刻印の文字列の中には、Iの文字を横向きにしたマークが入るようになります。山陽本線宇部駅の STK 発注の1907年製は、製造月と発注者名の間に文字類の読み取れない長い空白が認められましたが、他のリストと比較すると、この部分に、横向きIマークが見られるのが一般的なようです。刻印中の「ET」は、カーネギースチールの前身の「エドガー・トムソン工場」製を示しているようです(『レールの趣味的研究序説〔中〕』)。四角い字体のため、5と6の区別が難しい点は、要注意です。 |
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両毛線足利駅(90度回転) |
USスチール・イリノイ(ILLINOIS, US STEEL)
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刻印は斜体文字であることが最大の特徴です。 『レールの趣味的研究序説〔中〕』によれば、「シカゴ北工場と南工場.のちにゲーリー工場があった.工場名はたんねんに記入されている」とあり、これらの工場の別は、"S"(南工場),"G"(ゲーリー工場)などと刻印されているようです。 所沢駅のものは、明記されていませんが、形状から見て、TYPE IIIAというロシアの東支鉄道向けの規格と思われます。 略沿革は、"Chicago's Southeast Side Home Page" というウェブサイトのページやJames R. Alexander 博士の "zanderpage" というウェブサイトのページを参考に整理しました。 |
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北陸本線富山駅(90度回転) |
US スチール・ローレン製鋼会社 (LORAIN, US STEEL)
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LORAIN 社製のレールは、1890〜1900年代などは普通レールも見られますが、鴨川竹田橋のもののように、日本で使われた溝付きレールなどの路面電車用レールの主要メーカーとなっています。 略沿革は、"Lorain Public Library System" のウェブサイトのページや U.S. Steel のウェブサイトの "Lorain Tubular Division" のページ,James R. Alexander 博士の "zanderpage" というウェブサイトのページを参考としました。 |
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京都鴨川竹田橋(90度回転) |
US スチール・テネシー(TENNESSEE, US STEEL)
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日本各地でかなり一般的に見られる輸入レールですが、確認した古レールは、すべてUS Steel 合流後の1907年以降のものです。US Steel 合流前の会社でのレールの製造は1902年からですので、期間も短く、日本に輸出するほど圧延できなかったとも推測されます。 TENNESSEE のレールの刻印は、字数が多い上に角ばった独特の字体のため、難読です(特に数字)。逆に慣れれば、字体だけで
TENNESSEE とわかる様になります。
所沢駅のレールは、刻印中に明記されていませんが、形状から見て、TYPE IIIAというロシアの東支鉄道向けの規格と思われます。 略沿革は、"Birmingham Rails" というウェブサイトにある "TCI&RR Co." のページの記述を参考に整理しました。 |
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宗谷本線線幌延駅(90度回転) |
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